[聴覚心理]院試備忘録0.概説と参考資料
0-1.本稿について
この記事は私が大学院試験で聴覚心理学という科目を勉強した際にまとめた内容を共有させていただきたく作成しました。
対象としては広く聴覚について知りたいと考えている方に読んでいただけたらと思います。
学生の方、聴覚に興味のある方、どのような方が読まれても無理なく、そして細かい点について勉強する方針を共有できるようにしたいです。
そして通読される方、拾い読みされる方、様々な需要に耐えうるような記事を作成したいと考えています。
各記事の構成としては最初にキーワードを提示していますので、知りたい部分がある方には参考にしていただけたらと思います。
各章本論においては全体の流れを損なわないようにすることを第一義としました。
つまり端的に言えばこの記事の内容のみでは聴覚の大枠をお伝えしているのに過ぎません。
各章の最後には関連事項をまとめていますので、聴覚について学ばれる学生においては学会誌の解説記事等で調べていただきたいです。専門書や論文の内容を掴みやすくなるかなと思っています。
0-2.聴覚一般について
生物は聴覚を用いて外敵に気づき、場所を特定し、コミュニケーションを行います。
また、コウモリやイルカなどは声を発して獲物に反射した音を聞き取って、位置を特定して捕食などを行います。
それらの聴覚の振る舞いは空間における音の放射から、耳の形状、脳に伝達するまでのプロセス、情報をどのように認知するかという多くの要素が関わっています。
人においてはカクテルパーティー効果やマガーク効果、音源定位や音響情景分析など音の認知の一連のプロセスのいくつかのモデルがあります。
そしてそれがどのような過程で生じているか、それを音の受容のプロセス順に概説していこうと思います。
0-3.物理現象から認知、そして検査まで
一連の院試備忘録という記事は次のような章立てて進んでいく予定です。
0.概説
1.音の物理基礎
2.外耳
3.中耳
4.内耳
5.有毛細胞
6.聴覚中枢系と神経伝導路
7.求心性と遠心性
8.まとめ-「聞こえる」とは何か-
9.聴覚の様々な現象
10.各種の聴覚検査
補足.APDについて
各章においては聴覚現象を説明するという点から逸脱した、過度に踏み込んだ話はしません。
例えば、外有毛細胞の遠心性伝達においてはアセチルコリンが神経伝達物質であると言われていますが、このレベルの話題に関しては言及しません。
ここで出てきた"外有毛細胞","遠心性伝達"に関しては5章の有毛細胞の章で説明いたします。
音は気圧変化という疎密波(縦波)です。
外耳によってその形状によって音を変化させます。
中耳によって疎密波を強め、内耳に機械振動として伝達します。
内耳では機械振動を電気信号に変換し、この過程で様々な現象が生じます。
電気信号を情報として処理する器官が大脳までにいくつか存在します。
同時に処理した情報から内耳に運動する指令を伝達します。
この全体の流れによって、音源がどの方向から来たかなどの聴覚効果を生じさせます。
最後に僕の研究であるAPDに関する聴覚的な振る舞いはどのようであるかを論文から紹介させていただきます。
0-4.聴覚心理学を学ぶ意義
僕は大学で聴覚心理学が必修でしたので、やらなきゃいけないから勉強した学生にすぎませんでした。
とりあえずキーワードを暗記したら通ってしまったのです。
しかしたまたま僕は後述のAPDというものに興味を持ち、これを研究し、聴覚について勉強をしなおしました。
そして大学院試験でも聴覚心理の科目で受験しました。
APDというものを理解するためにも、大学で単位を取るためにも、聞くということへの興味を満たすためにもこの記事をお役立てくだされば幸いです
0-5.参考資料
Christpher J. Plack(2014), The sense of hearing, Routledge
森満保(1992), 中耳腔の解剖と病態生理, 耳鼻咽喉科臨床学会85巻2号pp.157-165
山下公一,大山浩(1977), 聴覚の生理, 日本耳鼻咽喉科学会80巻12号pp.1525-1528
山下,栗山,土井 et al.(1998), 聴覚系における神経伝達,耳鼻咽喉科展望41巻3号pp.194-208
小池卓二(2007), ヒトの聴覚器官における振動伝達, 日本比較生理生化学学会24巻3号pp.122-125
堀口申作(1956), 聴覚の伝達-伝音機構に就て-, 日本音響学会12巻1号pp.20-27
安藤四一,渡辺猛(1989), 音環境と聴覚・大脳生理, 日本音響学会45巻10号pp.794-799
平原達也(2010), 音を聴く聴覚の仕組み, 日本音響学会誌66巻9号pp.458-465
大串健吾(2019), 音響聴覚心理学, 誠信書房
電子通信学会(1980),新版聴覚と音声,電子通信学会
神崎仁(1996), 聴覚情報処理とその異常, メジカルビュー社
本庄巖(1997), 脳から見た言語-脳機能画像による医学的アプローチ-, 中山書店