正欲
今回は本の紹介。
朝井リョウさんによる「正欲」。
みなさんは、「多様性」という言葉を耳にしたことはありますか?
ありますよね。
では「多様性」って何なんですか?
説明できますか?
自分の胸にグッときた方。
読みましょう。
内容
まず、手に取ったときこう思った。
「こんな言葉あったっけ?」
みなさんはそう思わなかっただろうか。
「せいよく」という読みを聞いてまず思い浮かべるのは、「性欲」という言葉だろう。
だがこの本のタイトルは違う。
「正しい、欲。」なのだ。
正しい欲ってなんだよ。と思うかもしれないがこの本を読み終えた頃には意味がわかっていることだろう。
この物語は大きくわけて3つのストーリーが同時に進んでいく。
最初は一見全く繋がっていないのだが、最終的に見事に繋がり3つの川が海に出るような感覚があった。
(例え下手くそか?)
この本はとある事件の概要について書いてある文章から始まる。
読んでみると残酷な事件だと、容疑者を憎んでしまうのだがこれがビックリ読み進めていくとこの事件は全く異なる本質を持っていることに気がつく。
これ以上はネタバレになってしまうので詳しくは言えないが、自分はいつも見ているニュースの中にこのような事件があったらどうしよう。
と少し不安になった。
作中のキャッチコピーとしてこのような言葉がある。
「あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。」
この文を見て、「当たり前だ。」
と思いますか?
「そりゃないだろう。」
と思いますか?
この本を読み終えると、この文はまた違ったことをあなたに伝えてくるだろう。
私が読了後にこれほど衝撃と満足感を感じた本は今までになかった。
「多様性」という言葉に対する思いが一変した。
そもそも私はこの言葉が好きではなかった。
何だか全てを無理やり一括りにされている気がしたのだ。
「今は多様性の時代だからね〜。」
「多様性ですよねー。」
LGBT当事者として、このような発言を耳にすると心地が悪かった。
でもそんな自分ですら多様性に対する認識は甘かった。
「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」
このセリフを見た時は痛いところを突かれた気がした。
自分が言う「多様性」はどこまでが多様性なのだろう。
ふと、自分のことが怖くなった。
この恐怖心、みなさんは体験するのだろうか。
ネタバレ含む
「正欲」とは、そのままの意味で
「正しい欲」だったのだ。
正しい欲とはなんだろう。
人間の三大欲求と言われる食欲・性欲・睡眠欲は?
多くの人が
「それは生命活動に必要だから正しいのでは。」
と思うだろう。
まぁ、性欲は少し異なるが。
では小児性愛者の欲は?特殊な性癖を持つ人の欲は?
皆さんははっきり正しい!と言えるだろうか。
私は何が正しい欲で何がそうでないか、という問いに答えは無いと思う。
明確な答えは無いべきだとと思う。
それこそ、居てはいけない人なんてこの世には居ないのだから。
明確な答えを持ってしまうと「正しくない欲」を持っている人々は「居てはいけない人」になってしまう。
それっていいの?
今作であった事件のように、小児性愛者が子どもにわいせつな行為をした。という事件が実際にあると、
「小児性愛者は消えるべき。」
と言った意見を良く目にする。
それは果たして正解なのだろうか。
もちろん、犯罪は良くない。
でも、犯罪はせずとも自分の欲と葛藤しながら生きている人々だって居る。
彼らは生きているべきでないのか?
私は、あくまで私はだが、それは間違っていると思う。
「同性愛を認めろ!」
という人がいるように、
「小児性愛者を認めろ!」
というのは難しいかもしれない。
子どもというのは未熟だから。
※同性愛は全人類が「認める」べきとは思っていない。
否定してはいけないとは思っている。
でも理解しろ、認めろというのは少し違うかなと感じている。
そうこう考えていると答えは見つからない。
でもそれで良い。んだと思う。
考えることにこそ意義があることだと思う。
改めて、朝井さん凄すぎる。
多様性という言葉に対しての理解度が違う。
今のところ「正欲」は17年間生きてきた中で
「マイ・ベスト・ブック」だ。