ELEMENT Lesson 8 ~Playing the Enemy~

Scene 1

1995年に南アフリカで開催されたラグビーワールドカップの決勝戦は世界中の人々にとって最も興奮する国際試合の一つだっただろう。
しかし、その試合は南アフリカの人々にとってそれ以上の何かがあった。
異なる国、異なる人種のすべての人がその試合を将来への希望をもって見ていた。一時は敵同士だった人々が彼らの国を一緒になって応援していた。

南アフリカではアパルトヘイトという政策の下で、長年黒人が差別を受けていた。彼らの教育、雇用、住居までもが白人と厳しく分けられていた。
黒人は良い教育を受けられず、仕事も探せず、そして白人のためだけにある一定の区域には住めなかった。
最終的にこの政策を嫌う人々の数は国内外問わず増加した。
ネルソン・マンデラは警察に逮捕され、投獄されたときこのような人々の集団を引っ張っていた。彼は1990年に釈放されるまで捕虜として小さな独房になんと27年間もいた。

1994年、南アフリカの歴史の中で初めて、全ての人種の市民が投票を許された総選挙が開催され、マンデラは南アフリカの大統領として選ばれた。
同年、アパルトヘイトが廃止され新しい南アフリカの象徴として、新たな国旗がデザインされた。
しかしながら、黒人は彼らが長年受けてきた苦しみを忘れられずにいた。
そして同時に、白人は黒人が彼らに反撃してくるのではないかと恐れていた。彼らは到底友好関係を築けそうになかった。
実のところ、彼らは戦争を勃発する寸前だった。

この対立を解消するため、マンデラは互いに親しみを感じて国を団結させることにスポーツを利用することはできないかと考えた。
彼はラグビーを選択した。南アフリカではラグビーは「白人のスポーツ」とされていた。黒人は南アフリカ代表チームであるスプリングボクスを応援しない代わりに他国の代表チームを応援するほどスプリングボクスを嫌っていた。
マンデラは「もし、肌の色が違う人々が一緒にスポーツをしたり、一緒に同じチームを応援したりしたら、彼らはより親密になれるのではないだろうか。」
と考えたのだ。

Scene 2

スプリングボクスのキャプテンであったフランソワ・ピナールと他の選手はマンデラの考えをサポートし、彼が言った「一つのチーム、一つの国」という言葉の意味をつかもうとしていた。
もし、彼らがロブン島という島にある刑務所を訪問していなかったらその言葉の意味をつかむのにもっと時間がかかっただろう。

スプリングボクスの選手たちがマンデラが捕虜として捕らえられていた島へ旅行に行ったとき、彼らはマンデラの気持ちをより理解するようになっていた。ロベン島は現在も刑務所として使われていた。選手たちはマンデラが長い間拘束されていた独房を見た。彼らは一人、もしくは二人ずつ独房に入った。なぜならそれ以上人が入ることのできる空間がなかったからだ。
その小さな部屋をみることで、選手たちは改めて過去に白人がどれほど酷いことを黒人にしていたのかということに気づいた。

マンデラの独房を見た後、スプリングボクスの選手たちは島の囚人たちに歓迎された。彼らはみな、黒人だった。
15年前、そこにいた囚人たちはスプリングボクス対イギリス代表の試合をイギリス代表を応援しながら、ラジオで聞いていた。たとえ看守が応援するのを止めるようにと叫んだとしても、彼らは他国の代表チームを応援し続けた。だが今、その囚人たちはスプリングボクスの選手たちに会うことを喜んでいるだけでなく、光栄にすら思っているようにみえた。
ピナールが前に出て、チームは今囚人たちを含めた南アフリカの全てを表しているのだと彼らに伝えた。これを聞いて、囚人たちは選手たちのために歌い始めた。彼らは過去のことを忘れ、過去の敵と友達になることができる未来を向こうとしていた。
しかし、全ての南アフリカの黒人が過去に起きたことを忘れ、スプリングボクスを応援し始めるにはまだ長い道のりがあった。

Scene 3

チームが勝利を重ねるごとに、雰囲気が徐々に変わっていた。
ワールドカップの前にはラグビーのルールすら知らなかった黒人も、今では白人と一緒にラグビーをすることに興味を持ち始めた。
スプリングボクスが良いプレーをするほど、より多くの黒人がラグビーをし始めた。ようやく、国全体が試合を追い、スプリングボクスを応援し始めた。もっと多くの人が国の新たな国旗を振り始め、これは本当の意味でアパルトヘイトの終わりを示していた。

スプリングボクスはついに決勝でニュージーランドのオールブラックスとあたった。試合の五分前、ネルソン・マンデラがフィールドに出て、選手たちと握手を交わした。彼はスプリングボクスの緑のユニホームと帽子を身につけていた。人々が彼を目にした時、会場は静寂に包まれた。そして声出しが始まり、最初は小さかったがボリュームと激しさは急激に上昇した。
白人の集団が一つの国として、チャントを始めた。
「ネルソン!ネルソン!」何回も、何回も。
それは魔法のような瞬間だった。

Scene 4

人々にこの試合を忘れさせないために、スプリングボクスは勝つ必要があった。最初の四十分の終わり頃は9-6で南アフリカが優勢だった。
しかし、後半になるとオールブラックスが得点し、9-9で終了した。
ラグビーワールドカップの歴史の中で、初めて一ゲーム十分の延長戦が行われることになった。肉体的にも精神的にも選手たちは疲れ切っていたが、ピナールはチームメイトにこう言った
「周りを見ろ。あの旗が見えるか?あの人たちのためにプレーするんだ。俺たちは南アフリカのためにやらなきゃいけない。」
試合終了六分前、ついに南アフリカが決勝点をあげた。

テレビの記者がフィールド上のピナールの元へ行き、聞いた
「この会場の62000人の応援してくれるファンを、どう感じましたか。」

彼はこう返答した「私たちに62000人のファンはいなかった。ただ、私たちには43億人の南アフリカの人々がいたんだ。」
会場には古い国旗は一つもなかった。会場にいる全ての人が、涙を流し、新しい国旗を振っていた。


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