雨の中
雨の中を走ることなんて、
どうってことはない。
届かないことの方が辛いから。
目指す場所が遠すぎて
ふと視線が落ちる。
足元を一緒に動いている影は
びっくりするくらい小さな歩幅を刻んでいる。
こんなに必死に足を上げているのに。
必要な時間
施設の端にある、小さな家。
星と科学の絵本がたくさんある夢の空間。
入り口の廊下に飾られた物語
"一面だけを知らされて、
遠ざけられてしまったいのししが
お月は欠けていってしまうのが
怖くないのかと言って
涙を流す。"
ひと時代前の日本家屋に最新の宇宙科学がわかりやすく描かれた絵本の数々。
状況だけ見れば不思議だが、
足を踏み入れた途端に
軽く沈み込む木板と
近くの林の匂いに包まれた風
落ちかけた日の影が落ちる庭
懐かしい畳の匂いで
初めての場所なのに
帰ってきた感覚がした。
硬いアスファルトの上を必死に走ってきて忘れていた。柔らかいマットレスの上ではわからなかった。
自分の身体がただ受け止められている安心感。
夢見ていたあの日の高揚感と、
自然に囲まれて息をつく瞬間。
僕には何を止めても必要だった時間。
空の見方を知りたくて、
必死に走ってきたけど。
空を見ることを忘れていた。
遠ざける言葉は何も生まない。
でも僕はその言葉がなければ。
その哀しみを知らなければ。
あの人の雨に気づけなかった。
少し悲しいことだけど。
自分も知らないうちに遠ざけているかもしれない。
でも僕は何かを生みたいのだから。
知らなければ。
ハミング
幾田りらさんの新曲『ハミング』
普段言いたくて言えない本音が、スキップするようなリズムに包まれている。
Sketch『サークル』の
"Run and Run. Round and Round."
な日々から続く光を探す
"On and On"
な日々の中。
誰よりも速いスピードで走り抜けている彼女の歌に感じたこと。
何かを決意して
そこに向かって走っていると
スイッチがONのままの心は
自分に雨が降っていることに気づかない
心が泣いていることに気づかない
そんな中でこの曲は
雨の中を気づかずに走っている人たちに
気づいてあげるのだと思った。
晴れ間を探して必死に走ってきたからこそ生まれて、こうして響いている。
力を抜いて、自分の思いに気づくのは必要な時間。
ライブ前に瞑想をしている習慣からきているのではないかと思う。
僕が思うこの曲の最大の仕掛けは
サビのメロディのインストだけで終わっているところだ。
数回聞いただけでもう覚えて楽しくなってしまうメロディを、曲が終わる頃には気づかないうちにくちずさんでいる。
この曲の題にもなっている"ハミング"を
これからみんな帰っていく日常に送り出す。
自分の思いに向き合って。
もう一度。
確かに晴れ間に向かうために必要な一歩をくれる。
何度も繰り返すけど、忘れたくないその時間に寄り添ってくれる素敵なギミック。
ふらっと現れては、静かにいなくなる猫みたい🐈
僕の足跡を知らない場所。
僕の心を知らない場所。
でも
僕の心を何も言わずに聴いてくれる場所。
音楽は刺繍のよう
言葉の針の落とし方は自由で
でもそこになければ
繋がりがなければ
響かない
音とリズムで色がついて
心をそっと降り立つ
時間が経つごとに色が変わって
あの日の景色に戻ったり
風や匂いを運んできたり
足を踏み出す力をくれる
雨の中を走り続けているあなたへ。
いつもありがとう。
届きますように。