透明水彩イラストレーターのメイキング備忘録
自分、本当にどうやって描いたのか忘れます。二日前に描いた絵でさえ思い出せないときがあります。
そのための備忘録みたいなものです。普段、アナログ絵師がどんな感じに描いているのか、軽い気持ちで読んでください。
今回のメイキングはこの絵です。
構想を練る
何気なくXを見ていたら、ソシャゲのカードイラストに技術が詰め込まれてる、みたいなポストを見ました。
まぁ、そりゃそうだろうと。プロセカのカードイラストを見ても、毎回構図うまいな〜、と思って感心してしまいます。でも、感心してるだけじゃうまくはならないので、自分がもしソシャゲのカードイラストを担当したら、どんな風に描きたいかを考えてみました。
前回描いた絵は視線誘導が下手で、せっかくかわいく描けた顔が目立たない構図になっていました。ですから、今回は視線誘導をテーマに考えて見せたいものを見せる、というのをテーマに考えてみました。
ラフを描く
視線誘導をする、と決めてから考えたのが枠線をつける構図です。でも、枠線つけて視線誘導しても弱いので、手で囲いをつけるようしました。
あとは、アオリやフカンの構図にして、絵に広がりを見せてもいいけど、とてもとてもめんどくさいのでやめました。
という訳で、一番見せたい部分に囲いをつける方向性で考えていきます。手で囲いをつける構図は以前からやってみたかったので、いろいろ集めた資料を漁りつつ考えたのがこの構図です。
毎回デッサンするときにこの格好をして、いやデッサンスケール買えよ、と思ってるときのポーズです。
顔を正面にするか、斜め顔にするか迷ったんですけど、斜め顔にして片目に視線を集めるようにしました。
手はあくまで囲いなので、あまり見せないように画面をある程度トリミングして考えています。
ラフなのであまり固く考えずに、今後の見通しが立ったら顔を描いていきます。
ここまで描けたら、顔の線画を描いていきます。
線画を描く
顔の線画は早めに描きます。顔がかわいくないとモチベーションが上がらないし、何より消しゴムで間違えて消してしまったときに、もう立ち直れなくなります。
線画に使うのはコピックマルチライナーのウォームグレー0.1です。ペン先の細さが0.05を使っていたときもありましたが、水彩紙に負けて線がヨレヨレになることが多かったのでやめました。筆圧が弱いので、ペン先をつぶしたことはあまりないです。
よく初心者の方で線画が描けない、というのをよく聞きます。線のコントロールができないうちは難しいですよね。線で強弱をつけようとか、ペンの設定を見直そうとか、そうゆうのを考える前に、この線はどこに向かっていくのかを考えています。
何を構成する線で、しなやかな動きをするのか、硬い物体を描くのか。線にも質感は含まれますので、何を描くのかを考えて線画を描くと上手にいくんじゃないかな、と思います。
メイキングに戻りまして、顔の線画を描きつつ、背景を詰めていきます。ラフを描いているときに、デッサンの構図を考えているときのポーズ、と思ったので学校や画塾っぽい感じにします。
自分は静物デッサンを主にやっていたのですが、静物か石膏かどちらにもとれるようにしました。あと、所属してた美術部の部員が少なくて、あまり人とやったことないのでフィーリングで。
洋服や手のデッサンを整えます。この作業がめっちゃ時間かかります。この一文に収まるほど簡単にできる訳じゃないです。
上の絵だと、少し手が小さくて、顔を強調する意味が薄れているので少し大きくしました。
背景も整えて、線画は完成となります。
下塗り
トリミングをした線画に汚れないようにマステを貼ります。画材屋で買った無地のマステです。たまにテンションを上げるために柄物を使ったりします。
水彩をしていると、必ずと言っていいほど、色ムラができます。それが味になったり、雰囲気を出したり、それに水彩境界もとても好きなんですけど、肌を塗るときにはただ邪魔なだけです。
それを防ぐために自分はまず全面に水を塗ります。ある程度乾かして、水彩紙に水が均等に乗ったら、肌色をのせていきます。滲ませると色が均等にのるし、なりより水彩境界ができずにぼやけるのが大きいです。手や頬の赤みを出す色をのせて、少し乾いたら白目の部分をティッシュで拭き取ります。
このまま乾かして、完全に乾いたら下塗りは完了です。水を全面に塗るので、割と乾くのに時間がかかります。
塗り
やっとここまできました。自分は線画が苦手で、終わらないよと泣きながら描いてるときもあるので、ここまできたら安心です。
実際は乾いたところから塗っていくので、順番はぐちゃぐちゃになります。ですが、メイキング記事なので、いくつか順序立てて説明していきます。
髪を塗る
髪は未だに塗り方が安定しません。最近、やりたい方向が見えてきたので、試行錯誤はしています。ですが、サンプルがデジタルイラストばかりで、水彩で描くのが難しいです。弱音吐いてたって、やらなきゃ仕方ないのでやるしかないです。
透明水彩に白色もありますが、全く機能しないです。これにより何が困るかというと、髪の毛のハイライトが水彩絵の具で描けないのです。アクリル絵の具を使う、という手段もありますけど、アクリルだと絵の具が馴染まなくて浮いてしまうことが多くて、ホワイトのように白抜きする役割でしか使わないです。
ですから、ハイライトを描く、というよりはハイライトの部分を白抜きするという意識の方が強いです。これが本当に難しくて、デジタルはいいなとずっと思っていました。でも、デジタルだとなぜか描けなくなるので、全部アナログで描いてるんですけど。
(閑話休題)
髪の毛の色を決めます。今回はあまり派手にしたくなかったので、無難に茶色にしました。色の幅も大きいのも好きです。
茶色とも呼べないくらい薄くて明るい色を全体に塗ります。髪の色で一番明るい色を決めます。そして、本命の茶色と同じような色の色鉛筆で、ハイライトを大まかに描きます。塗れば消えるので、あまり難しく考えずに描いていきます。
先程の色鉛筆と同じくらいの茶色を作って、ハイライトの部分だけ塗らないように、全体に塗り広げます。
ここから髪の影を描いていきます。髪の影はフィーリングなので、あんまり語ることもないんです。そう思ってるから、毎回塗りがぐちゃぐちゃになるので、次回こそは気をつけたいです。でも、今回もフィーリングで決めてしまいました。
髪が頭に隠れるところと、光に当たっているところで色を変えています。空気遠近法にのっとって、髪が奥にあるとわかるように茶色に青色を混ぜてくすませます。
色相環の補色の関係のいろを混ぜると、くすみカラーが手っ取り早くできます。オレンジの反対はだいたい青か緑ということで、青でくすませました。
若干色を変えることによって、奥行きを出しています。だいたいどの絵でもやってます。お手軽に透明感と空気感が出せるのでオススメです。
髪の束感を損なわないように影をつけていって、髪はだいたい完成になります。
瞳
髪のメイキングと同時進行で瞳も塗っていきます。
と、書いても、自分はあまり瞳の中を描き込まないので、ただグラデーションをしていくだけです。今回は一色のグラデーションにしました。ですが、少し血色が出るように、髪の色も瞳に塗っていますので、まぁ二色グラデーションとも言えなくもないです。
だいたい他の人の目のイラストやメイキングを見たらわかる通り、まつ毛側が暗くて、頬側が明るくなります。
人の視線は明暗差がはっきりとしているものを見る癖があります。それにより、絵全体で見たときに、まつ毛を暗くすることで自然と目線が瞳に行くようにするため、まつ毛はなるべく暗い色を取り入れた方がいいと思います。
でも、自分のこだわりでなるべく髪と同じ色で暗くしています。これは好みなので、焦げ茶でも、灰色でも、なんでも暗ければいいと思います。
透明水彩でのグラデーションですが、これは紙によってやりやすさが変わってきます。自分は普通の画用紙やスケッチブックではなく、水彩紙と呼ばれる紙を使用しています。一般的に水彩紙と呼ばれる紙は、水の含む量が多くてもヨレないように作られています。なるべく水彩紙がいいと思いますが、本当に高価なのでお財布と相談してください。
自分はウォーターフォード水彩紙を使用しています。発色がふんわりしていて、水を多く含む表現がしやすかったのが決め手です。
透明水彩のグラデーションの方法ですが、薄める方に水をのせます。濃くしたい方に絵の具をのせて、水をのせた方にのばしていくと、グラデーションになります。これを二、三回ほどやると、綺麗なグラデーションになります。
瞳は案外シンプルなので、キラキラにしたい人はキラキラの人のメイキングを参考にしてみてください。
服
こればっかりは資料を見ましょう、としか言いようがないです。どれだけ描き慣れていても、資料を用意した方が心強いです。自分も高校生のときはブレザーでしたけど、今回のイラストを描くときにいくつかの資料を参考にしました。
線画のときに書けば良かったのですが、特に服のシワは難しいです。想像で描けるものもありますけど、なるべく資料を見たり、自分で着たものを写真に撮ったりします。
服は質感が重要なので、どんな材質なのか、柔らかいのか、反射しているのか。なんでも細かく見れる資料を用意しましょう。
資料を用意してもうまく描けないよ、っていう人はイラストなどある程度簡略化されたものを参考にすると描きやすいです。現実のものをそのまま描く訳ではないので、どの部分まで表現すれば良く見えるのかはイラストの方がわかりやすいです。
今回の場合は、左肩(自分は左右盲なので間違っていたらごめんなさい)を上げているので、肩を上げている資料を探しました。自分が着ていたときも肩パットが入っていたので、肩パットの部分はまっすぐにして、左腕の上部からシワを描きました。
シワの部分は光があたる部分と、影ができる部分を考えて描きましょう。また、服のシワでも大きい影が入ると、先程の瞳と同じで色の明暗の差が大きくなります。明暗の差が大きくなるということは、ここも視線が集まりやすくなります。
最初にイラストを見て、顔を見てから左肩を見た人が多いと思います。そして、ぐるりと背景や手の囲い部分を見て、また顔が目に入る。そうゆう構図にしました。
こちらは完成イラストです。
書いた通りに視線が誘導できてると思います。
また、視線誘導という点に関しては、囲いの意味を持つ手を見ると、中心から離れていくと不自然に暗くなっています。光源は上からと思って描いていますので、かなり不自然な影となります。これも中心にある顔を見せるための工夫です。暗いところばかり見る人は少ないと思いますので、まず見せたいものを明るく明暗をはっきりさせる。そして、それ以外の色を空気遠近法を取り入れたり、不自然に暗くしたりして、視線から外す。
この視線誘導は、最初に構想を練っていた頃から考えていたことです。視線を集めて、視線を逃げる先を提示して、全体をじっくり見せる。ソシャゲのカードイラストによくある手法です。
画面の比率は似ていませんが、やっていることは同じです。
背景
最後に背景です。空気遠近法という言葉は多用しましたが、詳しい説明はしていませんでした。
空気遠近法とは、遠くに見えるものほど青色に見えるという技法です。山脈の写真や、雪の平原など、自然界によくある見え方です。
これは飛騨山脈らしいです。フリー素材からもらってきました。
これを見ればわかる通り、奥に行けば青く見えると思います。また、色彩も少し暗くはないけれど派手でもないように見えます。
これを生かして背景を描いていきます。髪のハイライトを全面に塗ったときに、背景は薄い青色に塗っていました。
また、メインの女の子よりは大人しい色彩でベタ塗りしていきます。影色も淡白に見せるために、あまり強い色はのせません。それでも、メインの女の子が何をやってるかわかるように、説明のようにイーゼルと画板、女の子たちの背中を描きました。
また、デッサンは北からの光源が一番良いとされていると、どこかで聞いたので、少し背景は薄いくらいがちょうどいいのかな、と思っています。
という訳で、ようやく完成です。マステを剥がして、水彩紙を剥がし、カッターで切り取ります。スキャナでスキャンして、ウォーターマークをつけて完成です。
もう一回貼っちゃお。
反省点
髪の塗りが雑。あと、光源の意識をちゃんと持とう。この二つがすぐに思い浮かびます。というか、自分の欠点がいつも同じで本当に早く描けるようになりたいです。
やりたいことは決まってるのに、やれないなんて自分が情けなく思います。でも、こればっかりは数をこなすくらいしか思いつかないので、次回で直せたらいいなと思います。というか直します。
あと、背景がもう少しにぎやかでも良かったかなとか、瞳の描き込みをした方が良かったかなとか、色々思うところがあります。でも、未完成のままよりは、完成させただけ偉いと言い聞かせてます。
顔もかわいく描けたけれど、全体的に薄すぎたとも思います。これは長年水彩を使ってきた弊害かもしれません。昔から濃く描けなくて、デッサンでもなんでも、もっと濃く描きましょうがここでも効いてきました。頑張ります。
ウォーターマークやAI学習妨害のノイズ無しのイラストはこちらにあります。
普段はBlueskyで活動してます。見かけたら、いいねを押してくれると喜びます。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
イラストや絵を描く人の助けになれば嬉しいです。描かない人でも、こんな視点で絵を描いていると知ってもらえたら嬉しいです。