トイレ動作における記憶機能、メカニズムと評価〜トイレ動作の動作分析から情報共有までの流れを学ぶ〜
皆さんこんにちは。作業療法士の内山です。前回は視空間認知機能のアプローチ方法についてお伝えしました。今回は認知機能第2弾として「記憶機能」にフォーカスしてお伝えしていければと思います。よろしくお願いします。
記憶のメカニズムとは?
記憶は脳内での情報処理の一環として、次の3つの主要なプロセスを経て形成されると言われています。
符号化(エンコーディング)
視覚、聴覚、嗅覚などの感覚を通じて得た情報を脳が処理し、記憶に変換するプロセス
例:会話の内容を覚える際、音声情報が符号化され言葉や意味として記憶される
障害された場合:言語機能の低下が認知症の症状として現れる可能性
貯蔵(ストレージ)
符号化された情報が、短期的または長期的に脳に保存されるプロセス
短期記憶:一時的な保持、復習や繰り返しで長期記憶に移行可能
長期記憶:より永続的な形で保存、必要に応じて取り出し可能
障害された場合:記憶保持機能の低下が認知症の症状として現れる可能性
想起(リトリーバル)
保存された記憶を取り出して使用するプロセス
再認(以前見たものを認識する)や再生(覚えたことを思い出す)を含む
障害された場合:語想起機能の低下が認知症の症状として現れる可能性
記憶の種類はどんなものがある?
感覚記憶
非常に短時間(1秒未満)で保持される情報。必要なものが短期記憶に移行。視覚的なイメージが瞬間的に頭に浮かんだ後、すぐに消えてしまうような体験がこれに該当。
トイレ動作例:
トイレの場所を探す(視覚)
トイレのドアを開ける(触覚)
排泄時の感覚(身体感覚)
トイレの音や水の流れる音(聴覚)
手洗い時の感覚(触覚)
トイレの清潔さの判断(嗅覚、視覚)
短期記憶(ワーキングメモリ)
情報を短時間(数秒から数分)保持する能力
通常、5〜7個の情報単位を保持可能
ワーキングメモリ:意識的な操作、問題解決や意思決定に用いられる
トイレ動作例:
トイレを探す
ドアを開ける
レバーやボタンの位置を覚える
手を洗う
トイレを出る
長期記憶
情報が長期間(数日、数年、または一生涯)にわたって保持されるシステム
3-1. 陳述記憶:事実や出来事などの「意識的に想起できる記憶」
エピソード記憶:個人的な体験や出来事に関する記憶(例:初めて自転車に乗った日を覚えている)
意味記憶:一般的な知識や事実に関する記憶(例:パリはフランスの首都であるという知識を覚えている)
3-2. 非陳述記憶:意識的に思い出すことなく、自然に体得される記憶(潜在記憶)
手続き記憶:身体的なスキルや習慣の記憶(例:ピアノの弾き方を覚えている)
プライミング:以前の経験が現在の行動に無意識に英子ゆを与えるプロセス(例:トイレで粗相したことを見られた後に、大勢の前に行くと恥ずかしくなってうまく行動できない)
古典的条件付け:特定の刺激と反応が繰り返し関連付けられることで形成される記憶(例:ベルを鳴らすと犬が唾液を分泌する)
トイレ動作への応用:
トイレの場所を思い出す
トイレの使い方を思い出す
トイレでのマナーや習慣を思い出す
身体の動かし方
トイレでの失敗経験を思い出す
記憶機能はどうやって評価する? 主要な評価バッテリー一覧
ウェクスラー記憶尺度
評価項目:
言語性記憶(文章や単語リスト)
視覚性記憶(図形や絵)
ワーキングメモリ
即時再生と遅延再生
特徴:
刺激を覚え、一定時間後に再生することで記憶力を測定
注意力や集中力も評価可能
リバーミード行動記憶検査
評価項目:
見当識(場所や時間の見当識)
物の置き場所を思い出す能力(想起)
未来の行動を覚えておく能力
顔と名前の一致
特徴:
実際の生活場面に即したシナリオを使用
日常生活での記憶問題を特定しやすい
リハビリの進捗や介入効果の測定に有用
カリフォルニア言語学習テスト
評価項目:
言語エピソード記憶
即時および遅延再生
符号化の効率性
記憶保持機能
特徴:
繰り返し提示される単語リストの再生と再認識
アルツハイマー病やその他の認知障害の早期発見に有用
ベンダーベルターメモリテスト
評価項目:
非言語性記憶
視空間記憶
即時および遅延再生
再認識
特徴:
図形の記憶と再現を通じて視覚性記憶を評価
非言語的な記憶評価に適している
ADAS-Cog
評価項目:
言語性記憶
視覚性記憶
ワーキングメモリ
注意と集中
特徴:
認知症やアルツハイマー病の進行度評価に適している
複数の認知機能項目を測定
介入や治療効果の評価に適している
まとめ
記憶機能のメカニズムは、符号化→貯蔵→想起の順番で起こっている。
記憶機能の種類は、感覚記憶、短期記憶、長期記憶の大きく3種類に分類され、長期記憶はさらに細分化される。
記憶機能の評価バッテリーは、各々評価項目と特徴が異なるため、詳細に評価したい項目に合わせて使い分ける。