棘下筋〜学生・新人理学療法士、作業療法士のためのスキルアップガイド〜
棘下筋とは?解剖と重要性
こんにちは、理学療法士の内川です。今回は、肩の機能に重要な役割を果たす「棘下筋」について詳しく解説します。
棘下筋は、肩のインナーマッスルの一つで、肩関節の安定化や繊細な動きを担う「縁の下の力持ち」です。主に肩を外に回す動きを担当し、以下のような日常生活動作に深く関わっています:
荷物を持つ
ドアを開ける
後ろのものを取る
これらの動作が制限されると日常生活に支障をきたすため、棘下筋の機能を理解し、適切に評価・アプローチすることが重要です。
目次
棘下筋の詳細な解剖と作用
起始:棘下窩(肩甲骨の後面)
停止:大結節(上腕骨の上部外側)
支配神経:肩甲上神経(C5, C6)
主な作用:
肩関節の外旋
肩関節の安定化(特に後方安定性の維持)
肩甲上腕関節の円滑な動きの補助
棘下筋の評価方法
触診
肩甲骨の棘下窩を触診し、以下の点を確認します:
圧痛の有無
筋緊張の程度
徒手筋力検査(MMT)
段階5、4、3の検査手順
被検者の姿勢:座位、肘90°屈曲、前腕中間位
動作:肩関節を外旋
検者の手の位置:
一方の手で肘の内側を支持
もう一方で手関節近位、前腕背側に内旋への抵抗を加える
判定基準:
5:最大抵抗に対して保持可能
4:中等度抵抗に対して保持可能
3:抵抗なしで全可動域の動きが可能
段階2、1、0の検査手順
被検者の姿勢:座位、肘90°屈曲、前腕中間位
準備:台や検者の手で前腕の重さを除去
検者の手の位置:一方の手で被検者の肩甲棘下の棘下筋に触れる
判定基準:
2:重力除去位で全可動域の動きが不可能
1:運動は起こらないが、棘下筋か小円筋に収縮あり
0:動きも収縮も認められない
棘下筋テスト
手順:
被検者:座位、上肢を体側につけ、検査側の肘を90°屈曲
検者:一方の手で肘、他方で前腕遠位部を把持
指示:肩関節を外旋するよう指示し、検者は内旋方向に抵抗をかける
判定:抵抗時に肩関節後面に疼痛があればテスト陽性
棘下筋へのアプローチ法
ストレッチング
目的:棘下筋の柔軟性向上
方法:肩関節の内旋方向へのストレッチ
筋力強化
基本:肩関節1stポジションでの外旋運動
方法:
自重によるトレーニング
軽負荷のバンドを用いた外旋運動
棘下筋の筋力低下が及ぼす影響
肩甲上腕関節の安定性低下
骨頭求心位の保持困難
アウターマッスルの代償的過剰使用
これらの影響により、以下のような問題が生じる可能性があります:
後方への手の動きの制限
外旋動作の困難
日常生活動作(下着の着脱、結帯動作など)の支障
臨床で役立つ棘下筋のポイント
日常生活への影響
棘下筋の伸張性低下や損傷により、後ろに手を引く動作やひねる動作が制限される
下着の着脱や結帯動作に支障をきたす可能性がある
インピンジメント症候群との関連
棘下筋や小円筋の柔軟性低下により、上腕骨頭が前方に押し出される
肩の屈曲外転運動時に、上腕骨頭が肩峰や烏口下とインピンジメントを起こす原因となる可能性がある
まとめ:棘下筋の重要性と臨床応用
解剖と機能の重要性
棘下筋は肩関節の外旋と安定化に重要な役割を果たす
日常生活動作の多くに関与しているため、その機能維持が重要
評価の多面性
触診、MMT、特殊テストなど、多角的な評価が必要
患者の症状や生活状況に応じた適切な評価選択が重要
筋力低下の影響
棘下筋の筋力低下は、アウターマッスルの代償的な過剰使用を引き起こす
日常生活動作に支障をきたすことがある
肩の屈曲外転運動時にインピンジメント症候群のリスクを高める可能性がある
臨床現場では、ここで紹介した知識を基に、個々の患者さんの状態に合わせたアプローチが求められます。解剖学的知識を深めることで、より効果的な治療が可能になります。
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参考文献
症例動画から学ぶ 臨床整形外科的テスト
新・徒手筋力検査法 原著第10版
プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論運動器系 第3版
肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション