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#b9d08b #fcc800 の君へ。


「初めまして」の時点からすでに恋をしていたんだと思う。


出会ったのは数年前、思わずカーディガンで萌え袖をしてしまうような肌寒い日だった。

これまでいくつか恋をし、見事に全て敗れてきたが「一目惚れ」は一度もない。「第一印象は悪かったけど話していくうちにいつの間にか…」と少女漫画的展開を迎えることがほとんどであった。


部活を引退し、久々に好きな人と二人で帰った日があった。また今日と同じ季節だった。

寒いね、もう卒業だな、なんかカレーの匂いしない?、カレー食べたいな、でもシチューの方が好き、いやどっちも好きだな、マクドのグラコロ食べたことないんだよね、とか現役の頃と変わらない くだらない話を繰り返した。それだけで幸せだった。


電車に乗り、発車まであと数分。この時間は人があまりいなくて少し恥ずかしくなる。顔を上げたら窓にうっすらと映る君と目が合うし。

「初めて会った日のこと覚えてますか?」


突然聞かれて戸惑う。覚えているに決まってるのに、「え〜なんとなく覚えてるよ」とぐらかす。私の悪いとこだ。素直にいえばいいのに。

「あの日めちゃくちゃ緊張してたんですけど、九夏さんが沢山笑いかけてくれたのすっごく覚えてるんですよ。」

はぐらかすのも忘れるほど嬉しくて、少しくすぐったかった。全身がポカポカし始めたのは暖房の温度が上がったんだろう。何と返せば正解なのか分からなくて、ごにょごにょ笑うしかできない。


太陽のような人だった。

それも、メラメラ燃えて明るい方ではない。
光の優しさを教えてくれるような、誰も傷つけない明るさで周りを照らして負の感情を吸収していくような。


いつもいつも「会えてよかった」が言えない。
今日こそはと意気込んでも、目をそらさないのがその日の精一杯だ。
少しでも話せたら、会えたら、目が合えば、姿を見れたらそれだけでいい。
君に降りかかる悪いものをすべて私が引き取ってもっともっともっと幸せに生きていて欲しい。暗闇で泣くようなことはあって欲しくない。

そんなこと、本人に言えばきっと「九夏さんも幸せになってくださいよ」と笑ってくれるだろう。困らせてしまうだろう。それでも願う。

新しい出会いなんていらない。

実らなくても、幸せになれなくても、これが人生最後の恋になればいい。

出発しかけの電車で荷物を落としていった人を追いかけ、ギリギリのところで戻ってきて「渡せてよかった~」と汗を拭いながら笑い、周囲からの称賛の声と拍手に照れている君がたまらなく好きで好きで愛おしくて、出会えてよかったと心から思えた。

私の知らない、私がしたくてもできない優しさを会うたびに教えてもらった。


視界がパッと開く初夏のような眩しさに、思い出の中で生きる君に私は今日も少しだけ救われて泣きたくなるんだ。





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