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新年干支の話になるたび、義実家で交わす会話。
「ヘビだけは嫌だね」
毎年繰り返される会話。
巳年の私はどんな顔をして聞けばいいか、正解が分からなかった。

庇うほどヘビが好きでもないし、いや、むしろ苦手、というか、大嫌いだけど、巳年だらけの中で育ったから、干支の動物が好きとか嫌いではなくて、それが普通。
当然友達は巳年だらけ。
「執念深い巳年がここにも居りますよ!」と言えるようなユーモアも無く曖昧に笑う。


 義祖母が95歳の人生の幕を静かに閉じた。
お医者さんが常駐している施設に入り、はじめての帰宅の許可。
「晴れるといいねぇ」とてるてる坊主を作って
とても楽しみにしていた。
帰宅前夜だった。

棺に入れるためにみんなで折り紙で好きだったフルーツや花を作った。
「三途の川の渡し賃も作らなきゃ」と言うと、娘たちがきょとんとした顔をした。
最近の子は知らないんだね。
「飴買い幽霊の、飴を買うお金のあれだよ」
昔読み聞かせた絵本を思い出させた。
「六文銭って今何円?」
紙で作った小判に一億円と書いて笑った。
もう一つに100億円と書いてまた笑った。
「おばあちゃん、余裕で川を渡れるね」
「プライベートジェットでも豪華クルーザーでも行けるね」
泣いた後に笑って、また泣いて笑った。

葬儀が終わって数日後、昭和何年に生まれたのか少し気になって検索してみた。

昭和4年 巳年 

思わずガバっと起き上がった。
おばあちゃんたら、もう。

やっと正解が分かった。
今ならちゃんと答えられる。

「ヘビだけは嫌だね」
「私もヘビは嫌いだけど、巳年は大好きですよ」







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