主役とは
二女三女がバレエを続けて早7年目。あんなちょこちょこしていた子達が初めてメインの役を踊らせてもらえた。
毎回「どこに出てるの?」の質問に、あの、後ろの3列目の左から2番目と5番目…、あ、今前に出た!…あ、また後ろ今度右!なんてやっていたけど、ちゃんと目立つ役ができて、両方のじいちゃんばあちゃん喜んだ。
じいちゃんばあちゃんだけじゃない。会う人皆、何曲も出演している中で一番褒めてくれた。他の曲ではどこにいるか分からないからね。
褒めてくれるのは嬉しい。けど何だか少し寂しい。「どこにいるか分からない」って事が、2人が努力した結果だってこと。どの踊りも、主役の曲と同じくらい、それ以上に真剣に練習していた。
始めた頃はどこにいるかすぐに分かった。何か違和感を感じる動きの2人。叱られて叱られて、毎回緊張でお腹が痛くなりながら行った。
行きたくないとは言ったことがない。
2人には「やめるか」「行くか」の2択だったかもしれない。行きたくない子を無理やり連れていく程の気持ちが私には無かった。その事を2人は察していた。
いつでも「楽しかった」と。
ちょっと可哀相だったかな。
ちょっとじゃ無いか。
今、少しずつ見えてきた将来の事をみんなが話しているらしい。
このままやってもバレリーナになれる訳じゃない。留学とか、海外で修行とか、そんなお金はない。無料で招待される程の才能も無い。
じゃあ続ける意味はどこにあるんだろう?
なんて。はじめからバレリーナにしようと思っていなかった私は何を今さら…と思うけど。
「将来の夢は?」の質問に無邪気に答えられる特権が時間と共にだんだん奪われていく。
何者になるんだろう…と焦りだす年齢かもしれない。
習い事としてはバレエは高い。しかも双子だ。早くやめさせて塾へ行かせろと昔両親に言われた。でも発表会には喜んで来る。喜ぶのにやめろと言う。
プロの素質が無きゃ続けちゃダメ?
「今やりたい」って2人の気持ちは無理やりやめさせて塾に行かせる程そんなに意味がない事?
真剣に怒った事がある。
無理やり連れて行く気はないけど2人がバレエをどれだけ好きかは知っている。
それから母は言わなくなった。父は言う笑
意味があるか無いかは2人が決めればいい。1人1人が決めればいい。
「昔バレエやってたんだ」って話の種になるくらいでもいい。
ならなくてもいい。
甲本ヒロトさんが言っていた。僕はバンドをする事が夢なんだ。稼ぐ事が夢じゃないからずっと夢が叶ってる。
どんな形でも踊ることが夢ならば一生叶えていけるんじゃないか?
明日にも叶う夢を一生叶え続けていけばいいんじゃないか?
次の世代に伝えるには1番だけじゃ伝わらない。
プロじゃなくても愛して憧れた小さな歯車たちが伝えていく。広げていく。
バレエを好きな人が増えるといいな。
集団の中の1人だろうと、目立つ役だろうと私にはただの衣装の問題だ。有名なプリマが隣にいたって私にとって舞台の主役はいつでもあなた達2人なんだ。
色んな未来があって、いつかバレエやめるくらい大切なものができたら、それってものすごく素敵なことなんじゃないかな。
なんにせよ楽しみだ。