特別対談―堤田周平(プロデューサー)×山本善之(演出家・戯曲家)
本企画のプロデューサー堤田周平と、演出家であり又戯曲家でもある山本善之の二人による特別対談です。狂天動智の司令塔である二人が前後編2回に渡ってこれまでの事、これからの事色々好き勝手に語っています。どうぞお楽しみくださいませ。
1 半年たって
―周平さんが狂天動智にプロデューサーとして参加してから半年になりますが?
山本 この企画ってはじめは僕と役者の鶴坂奈央と桑村大和と三人で作った企画で、周平さんは元々はお客さんだったんですよね。
堤田 そうそう。俺お客さんだったの。それが山本君に引っ張り込まれちゃって。俺としてはさ、えらいこと引き受けちゃったなって。いい意味でも悪い意味でも、俺の今までの当たり前が全く通用しないなって。
山本 元々全く畑違いますもんね。
堤田 そうそう。なんで誘ったんだろうって。
山本 僕としてはね、第一回~第三回までやってみて作品を作るって部分と役者をプロデュースしていくってのがどうも両立できない気がしてて、役者を売ったりとかプロデュースしたりすることまで手が回らないなって、それがすごく自分のなかで歯がゆくて。あー上手くいかないなって。
堤田 どう。俺役に立ってる?
山本 勿論ですよ。作品に専念出来るようになりました。大きいですよこれは。
堤田 そりゃよかった。
―プロデュースするにあたって
山本 そもそも展望とかってあったんですか?
堤田 そうだね、結局何やるにしてもだけども、何かやるって時に誰かにそれを意識して見て貰うためには他の人間とは違うってことが明確でないといけないよね。だから役者するにしても俺は常に役者であれっていうよね。プライベートな時間なんてないんだよって。そういう意味での意識付けからやらなくちゃって。
山本 舞台に乗ってるときだけが役者ではないってことですね。
堤田 そうそう。そういう意味ではこの企画のフリートークが大切だと思ってるね。でもひとくくりにプロデュースっていうんだけど企画のプロデュースと役者のプロデュースって違うからね。
山本 そういう意味では『班女』の時って役者のプロデュースに専念って感じでしたよね。
堤田 『熊野/双生児』から作品にも口挟むよって。
山本 『熊野』は周平さんのリクエストだったじゃないですか。
堤田 そうそう。俺あれ好きなの。狂天動智にお客さんで行って初めて見た作品だったんだけど、人によっていろんな見方が出来ていろんな考えが出来ていろんな感想を持てて、そういうのがこの企画の魅力だと思ったからね。
2 役者について
―狂天動智に出演している役者について
山本 実際僕たちって実は固定のメンバーをちゃんと持ってるわけじゃないじゃないですか。劇団じゃないので。だけども興行って考えるなら、ある程度誰か役者を主軸に持たなきゃいけなくなって、それを誰にするのかって事で僕たちは実はめっちゃ揉めたんですよ。
堤田 そうだね。
山本 うちの場合レギュラーで参戦してくれてる杉本佳毅だったり松岡なな子だったりいるわけだけど、僕は出来るだけこの企画特にリーディング公演では色んな役者を使いたいって欲求がかなり強いんです。だからニューフェイスの役者をって気持ちはかなりありますね。
堤田 作品によってって感覚になれたら理想だよね。
山本 それと今一番思っているのは、役者にとってこの企画って役が確約されすぎてると思いますね。特にレギュラー参戦組ですけど。僕は役は奪い取るものだって思ってる所あるんで。
堤田 自分の居場所は自分で作らないとね。
山本 そうです。あ、でも最近学生を指導する立場が多いんですが、最近の子ってなんだか似たり寄ったりの演技を目指してる気がしてて、すごく悪い意味で無難というか面白みがない子が増えちゃってるって印象なんですよ。うちに来てる子がそういうわけじゃないですけれど。
堤田 癖がないって感じだね。
山本 そうですね。引っ掛かりが見てて少ないです。おっ!て思う部分が本当に少なくて。
―公演後インタビューについて
山本 あれ僕すごく面白いなって思ってて。公演後にキャストのインタビューするなんて前代未聞ですよ。
堤田 そうなの?
山本 だってね、インタビューって普通宣伝目的でやるもんじゃないですか。だから普通は公演前にやるんですよ。この作品はこういう作品になってますよ、みたいな感じで。だから公演後にやるって面白いなって。仕掛け人としてはどういうつもりなんだ?ってなったんです。
堤田 俺の中では怪人カードみたいな感じなのよ。
山本 いや、意味わかんないです。
堤田 なんか舞台ってその公演が終わったらそのまま終わりって感じになっちゃうじゃない。俺はそれがすごく寂しくて、どうにか公演が終わった後も楽しんでもらいたいなって。付録って事じゃないんだけども。そういうことも大切にしたいなって。
山本 ってことはこれからもやるんですね?
堤田 やるやる。怪人カード第二弾。
山本 それは本当によくわかんないです。
堤田 でもインタビュー読んでどう思った。あの子たちに対して。
山本 そうですね。やっぱり苦しんだんだなって。特になな子や佳毅は主役として舞台を背負うっていう経験が初めてなわけだし、盛大に苦しんでくれたんだなって。その公演のクオリティが自分の出来不出来で決まってしまって、公演の色合いは自分の演技の色合いで決まるっていう。誤解を恐れずに言うなら初めて自分自身で演技をしたって事じゃないですかね。
堤田 最後まで歯を食いしばってやってたよね。
山本 僕が一番思ってるのは、『熊野』組と『双生児』組とで役者間の関係性が露骨に違ったことですね。『熊野』組がどちらも「助け合い」って言ってたことに対して『双生児』組はどちらも「ライバル関係」って言ってるんですよね。これ面白いなって。
堤田 あーそれはわかる。明らかに違ったよね。まったく打ち合わせとかしてないのにね。同じこと書いてきて、おっ!って思ったよ。
山本 板の上ではどちらも必要なんですが、やっぱり露骨に違いましたね。大倉と佳毅は明らかに、自分の作ってきたものと相手の作ってきたものを利用しあいながら競っていたのは稽古場で手に取るようにわかりましたし。
堤田 さいとう君となな子ちゃんは二人で空間を作ることを最優先させて作ってたもんね。
―魅力的な役者について
堤田 テレビの役者とは一線引いてもらいたいってのはあるね。リアリズムで写実的な演技は舞台にはあまり必要じゃないと思ってるかな。ある種異質なものであってほしい。
山本 引っ掛かりって部分ですね。僕の演劇感の話にもなってしまうんですが演劇空間って非日常で異端なものって概念があるので引っ掛かりを自分で見つけられない役者ってちょっと厳しいと思いますね。
堤田 それはプロデューサーとして、一緒に見つけていかなくちゃいけないことだよね。
山本 役者ってすごく変な仕事で、誰もがスキルを高めていけばハムレットとかジュリエットをできるわけじゃなくて、それを演じることをお客さんが納得するのかって所がかなりあって、見た目とか声質とかそういうもって生まれたものとどう付き合っていくかを知らないとまず話にならなくて、それを分かった上で自分の売りをどう見つけていくかなんですよ。そういう役者を育成していきたいなって思ってます。
堤田 でも、狂天動智売りってなると言葉だと思うんだよ。日本語をきちっと操れること。
山本 あー
堤田 日本語って本当にかっこいいと思ってて、英語にはできない表現方法だったりとか。
山本 僕が作品を作る上で一番重点を置いてるのはモノローグですしね。日本語って曖昧な言語だからすごく面白くて、外国の言語で書かれたモノローグとは全く違うんですよ。だから今既存の作品を主にやっている訳なんですけど、文体の長さっていう所を戯曲を選ぶ基準にしている部分がありますね。
堤田 もろに曖昧やしね。
山本 日本語の面白さって回りくどさにあると思ってて、それをきちっと熱量こめて発語出来て、それをお客さんに納得させてるかって事はかなり自分自身こだわってる所ですね。
堤田 想像してもらおう考えてもらおうって。見終わった後に疲れたってなるかもしれないけれど。
山本 むしろ疲れに来てもらおうって思ってます。僕は客前に出す以上はエンターテイメント性は大事にしたいと思ってるんですが、今のエンターテイメントって頭を停止させるものが多くて、例えば有名なアミューズメントパークなんかもそうなんですけども、非日常でそれ以外のものは頭に入れる必要のない世界に逃避出来て、自分の日常とか困難みたいなものを忘れられるエンタメ性のもが受けているんですが。
堤田 舞台で言うなら2.5次元なんかもその路線だよね。
山本 でも僕はそれの逆なんですよ。そういうものを無理やり舞台上に引っ張り出してお客さんに消化してもらうって感じなんですよね。演劇ってもっと思想的で哲学的でってそういうエンタメ性だと思ってます。
堤田 面白いよね。山本君の作品って見る人によって答えが何パターンも出てくるように作られてて、作為的なんだろうけど絶対に自分自身の解答は見せないように作るから。
山本 考えるって面白さを追求したいなって思ってますね。
―次の作品『熱帯樹』ですが
堤田 また三島由紀夫だね。
山本 そうですね。
堤田 これは何か意図してるの?
山本 別にそういう訳じゃないんですけども、三島の作品って政治的だって誤解されがちなんですけど個人的には本当に文体が美しいなってのが大きいんですよ。僕たちが主軸においている日本語の美しさみたいなものが前面に出せる劇作家だなって思ってます。自分が能楽師だってのもあるんですが『近代能楽集』は僕はかなり影響されてますし。
堤田 なるほどね。
山本 今回は『フェードル』以来の久しぶりの1時間オーバーの作品になるんですが演出するのがすごく楽しみです。やっぱり僕は演劇って長尺であるべきだと思ってるところあるんで。こんなもんですかね?これ以上あんまり言えないんですけど。
堤田 あんまり喋れないよね。ネタバレなっちゃうし。(笑)
3 本公演について
―挑戦って言葉が前回公演で出ましたよね。
堤田 『双生児』書き下ろしたじゃん?何をイメージした?
山本 ミステリー書きたかったんです。久しぶりに書き下ろすしエンターテイメントとして書いてみたいなっていう欲求ですね。
堤田 今まで書いたことあったの?
山本 ないですね。そもそもミステリーってジャンル自体があんまり演劇にないです。それと、個人的には自分の文体が三島由紀夫だったり江戸川乱歩であったりという日本で屈指の作家にどれだけ勝負できるかってのもありましたね。
堤田 なるほど。で、どうだったの?
山本 自分の中ではある程度勝負出来たかなってのはありました。ウケが良かったってのが一番ですけど。それと、江戸川乱歩の特徴であるエログロみたいな世界観をどれだけ熱量落とさずに上品に仕上げれるかみたいな挑戦もありましたね。
堤田 絞殺とか姦通のあたりだね。
―アングラ芝居、エログロとの対峙
山本 スタイルとして僕は完全にアングラ芝居の流れだと思うんですが、個人的にはエログロみたいなものにそこまで魅力を感じてない世代だと思うですね。ある種エログロのサブカルブームに演劇がのっかってた時代って、そういうものが簡単には見れない社会で、その欲求を満たす対象として演劇があったと思うんです。でも、今はそういう画像だったり映像だったりって携帯で検索すればすぐに出ちゃうから、演劇はそういう役割じゃもうなくなったって思ってますね。だから僕たちにとってそういう描写は出来る限り高尚なものとして提示した方が面白くなると思いますね。
堤田 スタイルの話だね。
山本 そうですね。
―執筆中の戯曲について
堤田 書けてるの?
山本 今大変革中です。さっきはじめの長台詞消しましたもん。
堤田 そうなんだ。(笑) でも今回はありものじゃないじゃない?自分が一からでしょ?そこにプレッシャーはある?
山本 ないですね。
堤田 ないんかい!
山本 それは前にやってたことでもありますから。でも、一つ違うのは、自分で好き勝手書いていいわけじゃなくて、僕も興行を意識して書いてる側だからそこに関してはどうしようってのはありますね。
堤田 俺は売る側としてプレッシャーやで。
山本 でも本公演は全くリーディングしないわけじゃないですか。そういう予告をしたわけで。それがどうなんだろうって不安はありますね。それと今までのリーディングとまるで毛色が違うことになると思うのでそれを受け入れてもらえるか。
堤田 山本君の本来のスタイルになるもんね。
山本 リーディングって僕はかなり足枷を自分につけて演出してるイメージなんで。モノローグに特化させるように作ってるんで、それではない僕の姿みたいなのをお客さんに受け入れてもらえるのかっていう。
堤田 前回から少しずつその部分出してるよね。本公演の布石として。
山本 それはそうなんですけど。それをどこまで受け入れてもらえるんだろうっていう恐怖感はありますね。
堤田 いいギャップになればいいと思うな。俺たちはずっと変化していかなくちゃいけないから、お客さんに合わせるわけではないけれど、満足させなくちゃいけないしね。
山本 兎に角僕は面白い本書くしかないですね。
4 今後の話
―リーディング公演・演出家へのインタビュー
堤田 ここで俺としては、山本君にもインタビューしたいと思ってるのよ。役者にしたみたいな。
山本 マジっすか。
堤田 マジマジ。
山本 えー緊張するな。
堤田 そもそもなんでリーディングって思ったの?普通に演劇ってなると、芝居小屋で照明音響美術使ってって、演劇って聞くと10人が10人そう思うと思うんだけど。
山本 個人的な演劇理論になってしまうんですけども、僕はモノローグや語りの部分にフォーカスを当てたいってのがあるんです。台詞を発語するっていう役者にとっての当たり前の部分をもう一度一から考えてみようって感じですね。
堤田 じゃあリーディングをするにあたってやっぱり役者の声質って大切だと思ってる?
山本 そうですね。これはリーディングだけに限った話ではないと思ってますけど。例えばいい声である必要はないんです。ただ明瞭である必要はあると思ってますけど。結局役者は自分の持って生まれたもので勝負するしかないので、それ自体に説得力を持たせることだと思いますよ。この役はこの声でこのスピードでこの語り口調をするんだっていう説得力ですね。例えば役者が持ってきたものが僕がイメージしたものとかけ離れていたとしても、それに説得力があればそちらを優先するっていうのは僕が演出する上で心掛けている事です。
堤田 リーディング公演をやり続けるこだわりって何?
山本 さっきも言ったんですけど、台詞を発語するってことが役者の基礎になるって思ってるからですね。だからある意味演劇を見に来てもらうっていうよりも、聞きに来てもらってるって思ってるかもしれないです。アクセントとして動きを作ることはありますけど、本を離しても離さなくてもこれは変わらないですね。
―フリートークについて
山本 逆に、僕が周平さんに聞きたいのはフリートークの話ですね。
堤田 なになに?
山本 周平さんにとってフリートークって何ですか?
堤田 お客さんが自主的に作品にかかわれる場。僕がお客さんだった時にそうだったし。それがすごく面白かった。ああ、俺も参加していいんだって。
山本 あー成程。フリートークって周平さんが狂天動智に入ってすぐにグレードアップさせた所ですもんね。それって仕掛け人としてはそれが狙いだったんですね。
堤田 そうね。初めて客として『熊野/AOI』を見に行った時に、役者全員と話せなかったのね。それがあまりにももったいなかったなって。色々解釈の話なんかもっとしたいなって。その欲望をきちっと満たしてあげたいなって思ったのね。舞台観て「はい、さよなら」じゃない土壌はすでにあったわけだから。
山本 お客さんがきちっと作品に参加できる場ってことですよね。
堤田 そうそう。お客さんの存在をこっちサイドもものすごく意識せざるを得なくなるわけで。お客さんに一緒に作品を作ってもらってる、作品の一部になって貰ってるって思う事ってすごく大切じゃない。
山本 役者に個別で意識させてることってありますか?
堤田 まずはお客さんとの会話を楽しみなさいってことだよね。でもそれはみんな自然とやれてるんじゃないかな?
山本 客席の意見をダイレクト聞ける場ってこっちサイドとしてはめちゃくちゃ貴重ですからね。
堤田 ありがたいよね。
―今後やりたいことを自由に話しちゃってください
堤田 リーディングはこれまで通りやるとして、本公演とリーディング公演といい感じで差別化したいな。
山本 ニューフェイスはやっぱり入れていかないととは思います。
堤田 作品としては?
山本 喜劇やりたいですね。僕本職コメディアンの端くれなんで。
堤田 書いてる作品全然ちゃうやんけ。
山本 おかしいなぁ(笑)
堤田 学生と何かやりたいな。感受性豊かな時アフタートーク含めてどういう風になるのかってのを見てみたい。
山本 あぁ、いいですね。学生と企画やってみたいなぁ。
―最後に一言ずつ
堤田 演劇を見に来るっていうハードルをいい意味で下げたいな。それがお客さんの楽しみにしていきたいです。日本語の良さ美しさをもっと日本人に知ってもらいたいです。今日はありがとうございました。
山本 言語を主体でする部分はぶれるつもりはありませんので、このスタイルのまま少し大きなキャパシティの芝居も視野に入れていきたいですね。狂天動智という企画のポテンシャルはこんなものじゃないので、皆さんと一緒に成長していけたらなと思います。今日はありがとうございました。
(2019.10.17 掲載)
堤田周平△Shuhei TSUTSUMIDA
滋賀県出身。1982年3月2日生まれ
大学時代に海外に魅了され、卒業後日本、アメリカの二重生活を送る。
様々な経験から多種に渡るイベント企画などを行う。
山本善之▽Yoshiyuki YAMAMOTO
奈良県出身。1992年10月15日生まれ。
狂天動智主宰。
大蔵流能楽師狂言方 戯曲家 演出家 役者
6歳の頃四世茂山忠三郎倖一に師事、現在は五世茂山忠三郎良暢に師事
二十歳で「千載」を披く
舞台を中心に能狂言問わず様々な公演にて活動中
主な出演作品は、狂言風オペラ「フィガロの結婚」(ケルビーノ/蘭丸役)演 藤田六朗兵衛、「繻子の靴」(国王役 他)演 渡邊守章 等
又、狂天動智における全作品を演出する
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Links
演劇企画「狂天動智」
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