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まだ見ぬ私の宝物に恋してる 完結編

昨日、ついに届いたのです。
私の宝物が。
私の指の上で明るく輝く小さな太陽が。

そうです。
過去3回に渡りお伝えしてきたあの、人生の節目記念に購入したイエローダイヤモンドの指輪が、私の右手人差し指のサイズに調整され、ようやく我が家に帰ってきてくれたのです。

到着予定を目前にして、前日私の眠りは浅かった。
微かな緊張と興奮。
遠足を前にした小学生のような気分だった。

当日朝からソワソワふわふわした気分で仕事をしていた。
到着日指定を念入りに設定していたため、到着日午前中は会議も急ぎの仕事も入っていない。
荷物を義母が受け取ってしまうことだけは避けたかったため、彼女の仕事の休みとかち合わないように細心の注意を払っていた。

なにしろ高価な買い物である。
根っからの貧乏性、節約家の私にとっては大変な決意で購入したものだ。
夫の家族と同居させてもらっている身分でイエローダイヤモンドとは一体どういう了見だ!
そんなもん買う暇があったら1分でも長く働き1円でも多く義母へ生活費を渡せ!

そんな声が、義母からではなく、自分の脳内から聞こえてくるもんだから、正直少し後ろめたい気持ちがある。
だからこれは夫以外には内緒の買い物である。

商品の到着を知らせる家のベルが鳴り響き、私は弾かれたように立ち上がった。
この荷物を受け取るに値する人間であることを証明するために、普段は付けないピアスで顔面を飾り立てていた私は、我が人生最高額の荷物を余裕の構えで受け取って見せた。

しかし、平常心はそこまでだった。
荷物を受け取り家に戻った私は、階段を2段飛ばしで駆け上がった。
別の部屋にいた夫に上ずった声をかける。
「とと届いたよっ!!!!」
夫もまた弾かれたように立ち上がった。

いざ!開封の儀!!

細かく震える指先で段ボールを開く。
貴婦人が纏ったドレスを脱がせるような恭しさで梱包をといていくと、ティファニーブルーの小さな箱が白いリボンをかけられて、まるで厳重に警護されたお姫様のように鎮座していた。

ティファニーに特別な思い入れがない私ですら、その色を見ると心が浮き立つのは何故だろう。

白いリボンを恐る恐る解き、外箱と同じカラーのリングケースをゆっくり開く。
後ろで開封の儀を見守っている夫の緊張が背中越しに伝わってくる。

「大きい…」
思わず夫とシンクロした。
いや、指輪の中心で輝くイエローダイヤモンド自体はささやかな大きさなのであるが、それをダイヤモンドが2重に囲んでいるため、ぱっと見の印象がとても華やかなのだ。

ティファニーの計算されつくされた店内の照明の下、星が瞬くように輝いていたリングは、我が家の何の変哲もないLED蛍光灯の下でもウルウルと光を放っている。
「きれい…」
またしても夫とシンクロした。

恐る恐るケースから取り出し、自分の指にそっとつけると、私の右手人差し指は女王の指となった。
この指先で世界を支配出来るんじゃなかろうか。
この指輪で異世界への扉が開き、古の魔物の封印が解けるのではなかろうか。
脳みそふわふわである。

「似合う?ほんとに似合ってる?大丈夫?」
夫が激しく頷く。
「似合う似合う!!」
嘘じゃん。どう考えても私の指、指輪に負けとるわ。

そう思いながらも、これからだ。そんな決意のようなものが静かに自分から湧き上がってくるのを感じた。

今はまだ、指輪の力が強すぎて私には制御できない。

―今のお前の力では、指輪の力が暴走し、世界は混乱の渦となろう―

私の中のダンブルドア先生がそう言っている。

―己の力を磨く旅に出るのだ。さすればお前は指輪の力を自分の支配下におけるであろう―



これからきっと、この指輪にふさわしい私になっていく。
この小さな太陽に行先を照らされながら、私は人生を歩いていく。

きっといつの日もどんな時も、指輪は私に寄り添い力を与えてくれるはずだ。


ほんとにこれで、『完』。


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たいたい
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