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IB(国際バカロレア)について

海外大学進学を目指す上で必ず見聞きするIB(国際バカロレア)ですが、日本のIB認定校は、文部科学省IB教育推進コンソーシアムの情報によるとインターナショナルスクールを中心として全国で173校とのことです(2024年6
月時点)。
なんとなくですが、
・海外大学を目指してる上でIB受けときゃ何とかなるっしょ?
・国際的に認められているので安心!
・グループワークを通してプレゼンスキルが身に付く!
・詰め込み型ではなく探究心を育む理念がこれからの国際競争力で大事だ!
・IBってよく聞くし、日本でも増えているのできっと良いカリキュラム!
のような印象を持つ人も多いと思います。

IBとは?

私の子ども達は現在IBカリキュラムで学んでいます。この記事を読む方であれば釈迦に説法かもしれませんが、IBには以下4つのプログラムがあります。

  1. PYP(Primary Years Programme)

    • 3-12歳向け(幼稚園-小4)

  2. MYP(Middle Years Programme)

    • 11-16歳向け(小5-高1)

  3. DP(Diploma Programme)

    • 16-19歳向け(高2-高3)

  4. CP(IB Career-related Programme)

    • 16-19歳向け(高2-高3)

大学進学を目指すのであれば、最終的にはDPを取得する必要があります。DPには、以下の通り6つのグループと3つのCOREから構成されています。

グループ

  • グループ1: Language and Literature

  • グループ2: Language and Acquisition 

  • グループ3: Individual and societies

  • グループ4: Sciences

  • グループ5: Mathematics

  • グループ6: Arts

各グループのうち、3つのHigher Level(HL)と3つのStandard Level(SL)の科目を選択することになります。HLは最大4つ選択可能です。HL科目は240時間の授業があり、SL科目は150時間となっています。各科目7点満点で6グループ合計して42点満点となります。

CORE

こちらは以下3つから構成されています。

  • TOK: Theory of Knowledge(知の理論)

  • EE: Extended Essay(4,000字の自由課題、いわゆる論文)

  • CAS: Creativity, Activity, Service(クラブ・課外活動)

各1点ずつで合計3点満点です。

グループとCOREの合計45点満点で採点されます。IB取得には最低24点が必要です。なお、グローバル平均スコアは30点となります。トップ大学への出願を念頭に置く場合は、少なくとも42点以上のハイスコアが要求されます。

実際のところどうなのか?

私の子ども達はPYPで学んでいます。レッスンは確かに面白く、好奇心を持って取り組んでいるように思います。日本のカリキュラムで育っている私にとっては新鮮そのもので、3者面談でもSLC(Student-Led Conferences)を導入していて、日本だと学期ごとの成績表を担任が保護者に提示して子どもの良いところや課題を伝えるような場になるのが一般的ですが、SLCだと子どもが親の前で自分が学んだことをプレゼンし、親がそれに対して質問をして、子どもが更にそれに対して答え、先生がファシリテートする形で進めていき非常に興味深いです。グループワークなどを通してこういう訓練をするのは確かに良い側面もあるなと感じています。

一方、個人的にイマイチだと感じていることがいくつかあります(G1/G2のカリキュラムを受けての感想です)。

アカデミック面でのレベルが低い

IBカリキュラムをよく知らない人から見ると、授業の進め方にびっくりすることも多いと思いますが、基本的に遊びを中心として探究心を育んでいくスタイルです。国語、算数、サイエンスも学びますが、詰め込み型ではなく、生徒の好奇心を掻き立てながら本質を追求して学ばせていくので一見良いように思いますが、語学や算数に関してはある程度実践的に演習することで身につくことも多く、学校の授業だけだと日本の公立学校の生徒よりもペーパー試験の点数は低くなる可能性があります。学校の勉強だけではなく、個別に塾へ通ったり、別の場所でアカデミックを補充する保護者の方が周りにも多い印象です。
また、教科書や宿題もなく、学校によっては生徒ごとに机もないところで子ども達と先生が一ヶ所に集まってレッスンしているというケースもあったりします。

あまり知られていないことですが、PYP/MYPと比較してDPは桁違いにレベルアップします。IBを採用している学校は多いですが、MYPを採用している学校が少ないのは、MYPはアカデミック面で強化できずDPへの準備カリキュラムとしては不十分であると考えられているためです。実際に、PYP→MYP→DPと受講した生徒よりも、IGCSEなどアカデミック面を強化した上でDPを受講した生徒の方がIBの点数は高い傾向にあります。日本のIBトップスクールのKインターナショナルスクールは、MYPカリキュラムを採用してなかったりしますよね。海外のIBハイスコアの学校を見ても然りです。

先生への依存度が大きい

IBの教育理念は個人的に素晴らしいと思っていますが、生徒にとって充実したものになるかどうかは先生次第です(IBに限った話ではないですが)。
各学年ごとに目標レベルは設けられていますが、そこに到達するためのアプローチの仕方は先生の裁量に任せられています。よって、子どもと先生の相性は重要なポイントです。先生も人間ですから、好きな生徒とそうでない生徒がいます。よく目をかけてくれる子とそうでない子がいて、不公平感を感じることがあるかも知れません。成績表も、日本のようなテストの点数で何点取得したか?という客観的な指標で決まるわけではなく、先生の主観的な成績表になりがちです。例えば、算数で「Outstanding」と評価されたとしてても、先生の主観が入っていたりするので注意が必要かも知れません。なぜなら、評価の軸はテストの点数だけではなく協調性やコミュニケーション能力、レッスンの態度など総合的に評価されるからです。算数は得意だけど、先生と合わないだと点数が低くついてしまうこともあるようです。

また、IBの優秀な先生は日本を職場に選ばない問題もあります。香港とかシンガポールなどに偏っているイメージでしょうか。実際にIBのトップスクールを世界規模で見ても、日本でトップ100に入っているのは片手で数えられるくらいではないでしょうか。IBカリキュラムを採用している学校の共通の悩みとして良質な先生の確保は大きな課題の一つです。

IBは大学進学に有利?

日本の大学進学を目指す場合は、IBスコアによる出願ができる学校が多くはないので選択肢は少ないのが実情です。
一方、海外の大学に関しては出願という意味では選択肢は広がります。日本のカリキュラムは国際的に認められたものではないため、たとえばUKの大学へ進学しようと思っても出願すらできないわけですが、IBを取得していれば出願できたりします。大学によってはIBのスコアで入学ができるところもありますので、ハイスコアをとっていれば有利に働くことも多いと思われます。

トップ大学を目指す場合は?

米国や英国などのトップ大学に出願する場合ですが、世界中から優秀な学生がたくさん出願してくるので、IBの得点だけで合格するのは難しいです。42点以上取るのは当たり前でその上で他の生徒とどう差別化を図るのかがポイントです。
DPは、科目数もHLで最大4科目しか取得できないのでアカデミック面での差別化で苦労します。また、UKのトップ大学ではSLスコアは評価対象外です。HLでどれくらいのスコアを取ったかが重要になります。とはいえ、仮にHL4科目7点満点だったとしても、そんな学生が数万人規模で応募してくるので入学審査官の目を引くためにはDPのハイスコアに加えてアカデミック面でアピールできる何かが必要になります。
また、DPは芸術や外国語(第二言語)が義務付けられているので、これらに興味のない生徒は嫌でも頑張ってハイスコアを取らないといけないので結構苦痛だと思います。ジェネラリスト思考の生徒には向いている一方、何かの専門性を高めたいという人にとっては専門科目の数が制限されているので、どういう戦略でトップ大学を目指すか、そのためにIBカリキュラムが本当に合っているかは見極めが必要です。
そして、トップ大学の出願には課外活動が非常に重要です。DP過程はかなり忙しいので、その片手間に例えばA-LevelsやAPのカリキュラムを並行して受講してアカデミック面のアピール材料を増やしたり、出願時に差別化できるような課外活動に勤しむ時間を確保するのは相当のタイムマネジメント力と自己管理力が求められます。DPでは鬼のような宿題や多くのグループワークを必死にこなす必要がありますので、相当な時間を投資することになりますが、IBをこなすのに精一杯になってそれ以外全く何も手がつきませんでしたとなると、出願書類へ書くネタに困ることになりそうです。

最後に

ネガティブな側面ばかりを書いてしまいましたが、IBカリキュラムは素晴らしいものと感じています。しかしながら、あまり良い幻想を抱くのもよろしくないと思います。生徒の個性を見極めながら、どういう環境で学ばせるのがその子にとって良いかを模索していくことは、どのフェーズでも重要なのだと思います。

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