息子の話【其の壱】
今年の頭に10数年会ってなかった息子が僕の実家に来た。突然来た。
彼がまだ3歳頃の時に離婚してから数回面会を繰り返したが最後に会ったのは小学校の入学式だったと思う。
それからずっと会ってなかったのは単純に僕の精神衛生上の問題で、まあ良い別れ方では無かったので元嫁の顔を見たくも無かったのと、息子と会える事は嬉しかった反面その度に辛かったし、いっそ会わない方が良いと思ったからだ。
そんな経緯があったものの、そんな事は息子にはわからないので恨み言の1つも聞かされるとは思ってたが実際話してるとそうでも無かった。
母親からは「お父さんは別の女子供作って私達を捨てた」とありもしない話を聞かされてたらしいが、勿論事実無根であり、その辺りの話もしたので本人的には理解したようだった。
と言うのは僕の一方的な思い込みかも知れないし、当の本人がいまだに本心でどう思ってるかはわからない。
まあでもそこから何回かは会ったが、嫌な素振りは見せず接してたように思う。
しかしながら僕に直接ではなく、毎度僕の両親、彼から見れば祖父母に直接連絡を入れ、実家に訪れるのが気になっていた。
僕自身の住所は教えてなかったが、連絡先の交換はしたので必ず僕に連絡を入れてから訪れるようには言っていた。
何故なら、彼は血縁ではあるものの僕や両親にとっては10数年のブランクがありどんな人間に成長しているかわからないので、年老いた両親しか居ない家にそんな得体の知れない人間が訪れる事に一抹の不安を覚えていたからだ。
こんな事を言うのはアレだが、両親にお金の無心をするかも知れない。或いは何か良からぬ事を考えているかも知れない。そんな不安がいまだに拭いきれていないのが正直な僕の考えだ。
そこまで我が子を疑うの?って思う方も居るかも知れないが、ある日突然親戚を名乗る人間が訪ねて来るのを想像して欲しい。心当たりがあったとしても素直に受け入れる事ができるだろうか?
極端な話かも知れないが、今はそんな状況である。
実際身分証明も見せて貰ってないのだ。たしかに話をした感じ息子であることは紛れもなく事実だろうが。
なので、両親には息子から連絡があれば必ず連絡を入れることと、もしお金などを要求されてもその場で渡さずこれもすぐに相談しろと言うことで釘を刺して置いた。
正月に初めて来てから、2月、5月と計3回訪ねてきた。
両親はこの10数年とても彼に会いたがっていたし、幼い頃は初孫ということもありそれそれは可愛がっていた。ので、来る度にご馳走を用意したり服や靴を買い与えている。
僕も一応父親として5月の誕生日には欲しいと言っていたAirPodsの代金を手渡した。
それから夏になり一度両親に連絡があったみたいだが、今年は猛暑なので涼しくなってからまた来いと返事をしたと両親から報告を受けた。
その後何事もなかったが、ついこの間実家へ訪れた際に先週息子が突然来訪したという話をされたのである(続く)