きょうのわたし#2 離郷前夜
きょうのわたし#2 離郷前夜です。
県外の大学に通う私は、コロナ禍の中、実家に帰省していた。
もとは、帰省するつもりなど微塵もなかった。
実家が嫌いになっていたからだ。
ここでわたしの家庭状況を明かすようなことはしないが、決して恵まれているとは言えない。しかし幸せな家庭であることに変わりはない。両親のことは愛しているし、また愛されている。
しかし、コロナの影響で帰省したまま大学へ戻ることができず2か月ほどはリモート授業でのスタートだった。
そこでは、今までよりも家族との時間が増えた。
お互い大人になり、お互い別居状態が続いたため、生活リズムに違いができていた。
言葉には出ないものの感じる険悪。
家にしかいれないストレスからくるものだろうか。
なにもないが、なにもないゆえに家族であってもぴきぴきと亀裂が入る音が聞こえた。
「早く自分の家に帰りたい」
これが夏前の素直なわたしだった。
しかし9月上旬。
何を思ったのか突然「実家に帰ろう」そう思った。
9月から始まる大学の集中講義。実習で出れない先輩の分もシフトの入ったバイト。学祭の実行委員会の仕事。
すべて放り投げて帰ってきた。
そのくらい心が弱っていた。みたいだ。
大嘘ついて、周りに迷惑かけて、それでも帰りたかった。
なぜ帰りたかったのかは、またいつか。
前夜である きょうのわたし を。
今日は、母親と愛犬の散歩に行った。これは毎日の日課だ。
しかし、今日の散歩は特別だった。
いつもは母親の仕事帰り、仕事の服を着た母となにも予定はなくても着替えている私。化粧もして、誰に見られるわけでもないけど、体裁を気にする。
今日は、母も私も一日中寝て過ごし、いつもより遅い時間に散歩に出かけた。化粧もせず、ジャージと部屋着姿で。
涼しくて「夜の部屋着の散歩はいいね」と母親が言った。
なぜかその一言に涙があふれそうになった。
誰かと過ごす着飾らない日常が幸せで、明日からこの日常がなくなることが寂しくて不安で。
そして帰宅後、なんでもない夕食を食べ、面白いテレビはないかと番組表をあさる。
「テレビつまんな」
そういって、母親と好きなアーティストのライブDVDをつけた。
わりとこれは日常的だ。
「一緒にジャンプして下さい」
テレビの中のひとりがそう声をあげる。
跳んだ。跳んで跳んで、下の階の迷惑なんて考えもせず、
とにかく声をあげて跳んだ。
そして飛んだ。心が。
必死に涙をこらえた。
20歳目前にして 甘えたかった。
誰かの腕の中で、誰かの胸で、大泣きしたい。
毎日、甘えたくて、期待されていることなんてほったらかして
駄々をこねて、慰めてほしい。
今日も私は、涙をこらえる。
まだ強がっていたい自分がいる。
矛盾の中で生きる私は、今、苦しい。
本気でといったから。嘘はつかない。
きょうのわたし 苦しい。
きょうのわたしからは、以上です。