ピエタ
彼の人のいない、世界が始まる。
うろろろろ うろろろろ
底の抜けた 慟哭の向こう側で
夜が口を開けている
うろろろろ うろろろろ
風が 丘を吹きすさぶ朔風が
この風穴の空いた顔を無遠慮に通り抜ける
うろろろ うろろろろろろ
声のない 喉の代わりに
しつこく、それはすさまじく
生身をば弄ぶ
白い身体は
血の抜けた証
閉じた瞳は
解放されたやすらぎ
薄く開いた唇の
このごろ見ない穏やかさは 息を引き取ったその名残
うろろ、ろ、ろ
風穴が鳴く
底の抜けた慟哭の向こう側で
夜が口を開けて待っている
うろろろろろろろ
生身を弄ぶ朔風が
東を目指し朝を連れてくる
よく見知ったその人が、もはやいないこの世界の感覚
彼の人のいない、世界が始まる。