四月十二日 生きたがる脳の歌
目を瞑るのが惜しいと思える世界に生まれて
耳を塞ぐのが惜しいと思える世界に生まれて
物を言わぬあなたと歩く丘の上は
こんなにも美しい
囀りしかしらぬあなたと過ごす朝は
こんなにも穏やかだ
血と皮と骨だけで私が出来ていたのなら
きっと私もそれらと一つに
私がここを立ち去った後
脳みそだけがちょこんと残される、
そんな光景を夢見ながら
そんな光景を夢見ながら
目を瞑るのも辛いそんな世界に生まれて
耳を塞ぐのも難しいそんな世界に生まれて
刻一刻と移り変わる空を描いた誰かを思い
過ごす夕べは生きている匂いがする
歌い続ける唇をつけた誰かの隣で
迎える宵闇の風は真綿のように柔らかい
血と皮と骨だけで私が出来ていたのなら
泣き笑いしたいようなこんな心地も知らないまま
脳みそをちょこんと置き忘れていくには
まだ少し早い春の夕暮れ
目を瞑れば一歩も進めない、そんな身体に生まれて
耳を塞げば一人ぼっちになる、そんな身体に生まれて
仔犬の柔らかさを
蜂蜜の甘さを
藤の花の芳しさを
私は覚えている、記憶し続ける。
荊の棘に
腐った魚に
泥のような河に
苛まれる時
私は覚えている、思い出す。
絹のなめらかさ
薫り立つ小麦
梅の花の芳しさ
目を瞑るのが惜しい世界を見つけて
耳を塞ぐのが惜しい世界を見つけて
私は覚える。
私は記憶する。
私は、思い出し続ける。