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三郎 丸
2024年3月31日 05:32
名前も知らない花が咲くいつもの角の植え込みでいつか浮浪者のおじさんが眠っていた場所赤ん坊のぼくの泣き声を吸った小さな路地裏埃っぽい花壇取り込まれない股引き油の固まった換気扇斜向かいのうちの新しい赤ん坊は僕が通り過ぎたたくさんの辛いことをまだ知らないままに泣いている余所者が通るたびに違う声で泣く砂利道を僕は四畳半の部屋で聞いて大きくなった四畳半から僕がはみ出し
2024年3月31日 05:22
稲刈りの終わった秋の畦道に祝福の満ちたその畦道を紺色のセーラー服の深く涙を染み込ませた影とぼとぼと歩いて行く深く暴力的な夏の緑が暗く焼き付く夏の緑があらゆる歓声を吸い込んでうるさいほどの沈黙で応える天まで届くその青におしまいだけがこだましている全ての生命が終わりを始める春全ての生命が喚呼して終わりを始める春に山門をくぐる母と娘、その幻祭囃子から逃げ回って
2024年3月31日 05:11
私が口を開くともうずっと止まらないからサヨナラを先に伝えて夕暮れまで座っている私がボールを持つと周りをみんな跳ね除けてしまうからサヨナラを先に伝えて一人毬をついている私が鉛筆を持つと全部真っ黒になるまで塗りつぶしてしまうからサヨナラを先に伝えて君と違うノートに向かっている私が靴を履くと夕日のその袂まで歩いていってしまうからサヨナラを先に伝えてお友達になんかならな
2024年3月31日 05:19
もし、許されるなら。もう一度だけ、あの海岸沿いを君と歩きたい。なんのしがらみもなく。なんの恐れもなく。なんの屈託もなく。ただ、あの穏やかな海岸線を、君と歩いてみたいと思うのだ。砂に引いた一本のお芝居の線、その向こう側すべての来し方が霧散しすべてのつじつまが溶けてなくなり私と、私の夢とが現れる夢だから夢だからこそなんのしがらみもなく。なんの恐れもなく。なんの屈託もな