ないものねだり田畑愛#1

-田畑愛-

 カンカンカンカン。
 生活感のない簡素な部屋に目覚まし時計が轟く。携帯に元から備わっている目覚ましでは起きれない為、店員さんに「これ絶対に起きれますよ!」と激推しされた目覚まし時計を使っている。圧に負けて買ったけれど、毎日私の指定した時間に必ず起こしてくれるこいつは私の生活にはもう手放せない存在だ。瞼が重くて、頭も痛い、昨日飲みすぎたせいだろう。親友の梨香子が彼氏に浮気をされたらしい。昨日急遽呼び出しをくらい朝の4時までバーでしくしく泣いている梨香子を無精髭を生やし笑うと目尻に皺ができるバーテンダーと共に慰めていた。梨香子が浮気をされるのはこれで4回目だ。こういった悲しい事があった時はお互い様だが、浮気をされる度に呼び出されるので、そろそろ梨香子の彼氏には浮気をやめてほしい。太郎という名前なので浮太郎と心の中で呼んでいる。あぁ、浮太郎のせいで。

 浮太郎を心の中で罵倒しながら、体温で温もった布団からしかたなく体を起こす。「愛ー、ご飯できてるよー。」キッチンから聞こえる愛しい人の声。同棲中の私の彼氏岡田健一。基本的にご飯は私が作るが、こういった時は気を利かせて作ってくれる、なんてできた彼氏なんだろうか。私は健一がよそってくれたしじみ汁と箸を2人分持ってせっせと白いダイニングテーブルまで運ぶ。健一が、白米と目玉焼きとウインナーを乗せた皿を持ってやってきたところで「いただきます。」
 付き合って4年。親や友人からは結婚しないの?と聞かれるが、お互い仕事が忙しかったり、相手の様子を伺っているのかまだそういった話は一度もしたことはない。正直、私は仕事も落ち着いてき出したしそろそろだと思っている。だがしかし、最近健一の様子がおかしい。

                  続く

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