eスポーツでプロになる方法を、「ブロスタ」世界一のプロゲーマーに聞きました
小暮陽さんは、マレーシア育ちの日本人。「ブロスタ」2020年世界大会のアジア代表で戦って、世界一になった経験を持つ19歳のプロゲーマーです。現在、フランスの名門サッカークラブ「パリ・サン=ジェルマン(Paris Saint-Germain)のeスポーツ部門のキャプテンとして活躍中。どうやってプロゲーマーになったのか、プロとして重要なことは何かなどを伺いました。
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なぜサッカー・チームがゲームをスポンサーするのか?
小暮陽さんはマレーシアに住むプロゲーマーです。Relyh選手として活躍しています。
2020年のブロスタ・世界大会で、予選を5連続で勝ち抜き優勝。
チームは賞金約2000万円を獲得しました。
所属するのはシンガポールのチーム、PSG Esports。2020年3月、フランスのサッカークラブ「パリ・サン=ジェルマン(Paris Saint-Germain、PSG)」とスポンサー契約しました。残りのメンバー三人は全員シンガポール人です。
ブロスタ(Brawl Stars)は、3対3のシューティングゲーム。eスポーツといえば、パソコン・ゲームが多い中、ブロスタはタブレットやiPhoneで遊べます。フィンランドのゲーム会社「スーパーセル」が2018年に正式リリースしました。
欧州では"FIFA"や"League of Legends"などのタイトルをはじめ、サッカーチームとeスポーツのコラボは珍しいことではありません。
スーパーセルも、フランスのサッカーチーム「パリ・サン=ジェルマン」とパートナーを結んでいます。以下はオフィシャルwebサイトです。
eスポーツのチームが、「パリ・サン=ジェルマン」ロゴのユニフォームを着てゲームをプレイしたり、逆にスーパーセルの公式ビデオにプロサッカー選手が出ることもあります。
以下はパリ・サン=ジェルマンのeスポーツ部門の統括責任者のインタビューです。
どうやってプロゲーマーになったのか
小暮さんは小さい頃、ポケモンやWii、DSで育ちました。小学校高学年でマレーシアにきてからは、しばらくゲームから離れていました。
インターナショナル・スクールで学び、英語はビジネスレベル、日本語をネイティブレベルで話します。
2017年6月、高校生の頃、開発中のブロスタのテスト・バージョン(ベータ版)を使い始めました。当時は英語版のみで、日本人コミュニティは20人くらいと小さかったそう。
ブロスタのサーバーはアジア、アメリカ、ヨーロッパを中心に全世界にあります。小暮さんは、自然に同じアジアのサーバーのシンガポール人たちと仲良くなっていきました。
「日本だとTwitter、マレーシアだとWhatsAppとDiscordで音声通話しながらやるのがメジャーです。上位同士は何度も対戦し、上手い人で組むようになります。僕も自然にシンガポールの3人と組みました」
2019年末に、プロチームからオファーがきました。
「プロになれたのは、早く始めていて、すでにゲーム内個人ランキングで1位を達成していたのも大きかったと思います。キャプテンのCoupDeAceは2019年世界大会の出場経験者。自分はPSGの採用担当のCGO(Chief Gaming Officer)、Yassineさんにソフトスキル、実績を評価してもらいました」と分析します。
プロとしての仕事は、ブランドの名前で大会に登録し、ユニフォームを着て一定の成績でプレーすること。とは言っても、当時は英国式の高等教育試験(Aレベル)の勉強もあり大変でした。
「親に内緒でやってたので、パリ・サン=ジェルマンからオファーがきたと伝えたら、『そんなのやってたの? すごいじゃん』と。でも『やってみなよ』と背中を押してくれました」
パリで契約。ポーランド遠征へ
2020年3月PSGとの契約のため、チームでフランス・パリに飛びました。
「パリには3、4日滞在し、ヘアメイク・カメラマンと顔合わせして、宣伝用の写真を撮影し、PSGのユニフォームをもらいました。初めてのヨーロッパ旅行をパリで満喫した後、ポーランドの予選に出場しました」
本来なら、8回の大会がポーランドで行われる予定でした。しかしパンデミックのため、最初で最後のポーランド遠征になりました。
「オフラインでプレーすると、コミュニティが盛り上がるんです。大会の前後にはファン向けの動画提供や交流があります。異文化の人々と同じホテルで宿泊し、英語で交流し、修学旅行みたいで楽しかったです」
会場はeスポーツ専用スタジアム。韓国やヨーロッパ、アメリカには、サッカースタジアム級のeスポーツ・スタジアムもあるそうです。
小暮さんのチームは、2020年初頭にはほぼ無名でした。
猛練習により、予選を5連続で勝ち抜き、世界大会で優勝しました。
「将棋に似ている」ブロスタ、どうやって練習する?
小暮さんは、「ブロスタは将棋に似ている」と話します。
勝つには反射神経だけではなく、チームワークと戦略が必要です。
どうやって練習したのでしょうか?
「プロのお話をいただいた1月からは、結果を出すため、人生をかけるつもりで猛練習しました」
ブロスタにおいて、強さの基準となるプレイヤースキル(PS)は3種類あるそうです。
「一つが視野の広さ。二つ目が状況を判断する頭の回転。三つ目はアウトプットのスピードと正確さ。2本の指で操作するのですが、緊張の中、ミリ単位で正確にキャラクターを動かせるかがとても重要です。練習すればするほど力がつくと感じました」と話します。
当時はトータル8時間くらい練習しました。まずはチームでの練習です。同じレベルのチームと練習試合。リプレイを見て、改善。大体これが一日6時間。
次に個人練習です。うまい人の録画を見て分析したり、指の準備運動やソロでのプレイ練習に2、3時間。
プロになるためには『SNS がきれいであること』
プロチーム代表になるには、実は「ゲームが強いだけ」ではダメだそう。『SNS がきれいなこと』がゲームの実力と同じくらい重要だといいます。
「対価をもらってチームの名前を背負う以上、責任が発生します。まず『SNS がきれいなこと』が重要です。失礼な言動、差別発言、汚い言葉はブランドのイメージダウンになり、周りのプレイヤーからも距離をおかれます」
どんなことに注意すればいいのでしょうか?
「差別発言はNGです。性別、宗教、政治の話題は避け、常に相手を尊重すること。とはいえ、無理に人格を作ってるわけじゃなくて、ダメなところを削ぎ落としてるだけです」
小暮さんは小学校6年生からマレーシアで育っています。
「多様な文化の国で育ったことが、宗教や人種の理解に役立っています。Twitterとかでネタにしたらダメなことは、常識として備わりました」
海外の大会では、英語も重要です。
小暮さんの英語はビジネスレベル。ゲームの大会での通訳も行っています。最初にブロスタのテスト・バージョンを使えたのも、英語ができたからという背景がありました。中国語は日常会話レベル・日本語はネイティブで、読み書きも問題ありません。
卒業後は日本で就職活動予定です
高校では、数学・物理・化学で好成績を収め、プロになった直後にオーストラリアの大学へ進学し、コンピュータ・サイエンスを学んでいます。ただし、大学は勉強量が多く、両立は大変です。
卒業後は、日本で就職活動をしようと考えています。キャリアプランはまだ決まっていないので、何がしたいのか、分析していく予定です。
そんな小暮さんは、プロになったことで世界が変わったと言います。
「プロになるというのは、社会人になるってことです。意識も変わる。家族、友達、ファンのありがたさと同時に責任も実感します。SNSや人付き合い、何かに全力で取り組む努力を学ぶのなら、ゲームはすごくいい経験になると思います」と語ります。
2021年はプロとしてPSGとの契約を更新。
さらにチームのキャプテンになりました。
「数年前はこんなことになるとは思ってなかった。人生何があるかわからないです」
最後に、子どもがゲームにハマルことを嫌がる大人もいますが? と聞いてみました。
「ゲームで人生を棒に振る人もいるかもしれないけど、ある程度、自由を与えたら、子どもは自分で人生を考えます。すると、ゲームを楽しむだけじゃなくて、人生をきちんと考えられるようになると思います」
最後に「自分は今後も人間力を磨きながら、辛かったときに支えてくれた人達や環境への感謝は忘れないでいきたいです」と締め括ってくれました。
ありがとうございました。
写真提供 ESL/Supercell Oy
Relyh(レリー)選手のTwitter: twitter.com/Relyhh
次回以降は小暮さんに「eスポーツプレーヤーとして生きていく方法」「日本のeスポーツと世界のeスポーツの違い」を聞いていきます。不定期ですが、お楽しみに。
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