材料系のための日本語固体物理学教科書比較&おすすめ
こんにちは。材料工学を学ぶ留学生です。今は東京理科大の4年生ですが,来年から引き続き日本の大学院に進学します。大学院入試や卒論のために固体物理学の勉強をいろいろしまして,ネット上に固体物理学の参考書に関する情報が非常に薄いと気づきました。なので,本記事は筆者個人の経験に基づいて固体物理学の初心者や,工学系の大学院入試を受ける人に向けて経験を共有したく思います。もし参考になっていただければ嬉しいです。また,筆者の母語は日本語ではないため,おかしい表現が出てくるかもしれないですが,ご容赦ください。
材料系のみんなさんは固体物理を学ぼうとするとき,多分先生から「Kittleの固体物理学入門」という教科書が勧められる場合が非常に多いと思いますが,一旦読んでみると分かりにくいと感じたではないですか?筆者も最初にキッテルで勉強しようとしたけど,やっぱり一通りやってみたら時間めっちゃかかってしまった上によく理解できませんでした。そのために別の教科書をいろいろ調べて読んでみました。
まず,一番よく使われてる「キッテル 固体物理学入門」ですが,発行時間が長く,非常に手に入れやすい固体物理学の“王道”の教科書と言えるでしょう。しかし,この教科書は式に対して解説が薄く,式の導出も非常にはっきりしてません。とくに,上冊の空格子近似あたりや中心方程式あたりは,解説が非常に分かりにくく,初見には流石にハードルが高すぎると思います。なので,始めて固体物理学を勉強しようとする方々にはキッテルはおすすめしません。この教科書は一旦固体物理学にある程度の概念を身についてから使ってください。
つぎは,「材料科学者のための固体物理学入門」とその姉妹篇の「材料科学者のための固体電子論入門 エネルギーバンドと固体の物性」の両冊です。この両冊はどちらも薄く,内容は非常にわかりやすいです。格子振動・電子系の固体物理学の入門について非常に適切な2冊と思います。最初はこの2冊を読んでみて,固体物理学の概念を身につけましょう。とくに,固体電子論のほうの補充資料に式の導出が非常に丁寧に書かれており,初心者と院試受験者にとても優しいです。しかし,この両冊はほんとに一番基本的な内容しか含んでいない(たとえば擬ポテンシャルなどの内容はない)ため,全般的に固体物理学を学びたい方にとっては全然足りないですね。この両冊は立ち位置は,「キャンパス・ゼミ」シリーズや,「単位がもらえる」シリーズに近いではないか,と勝手に思っています。
でも,たとえば授業でキッテルが指定教科書になる場合や,先生がキッテルに沿って講義する場合,他の教科書を使用すると不安になると思います。そこで,この「大学生の固体物理学入門」を使用してみてください。この本は,まさにキッテルを読むための教科書です。キッテルに出てきた物理モデルを丁寧に解説してくれたり,キッテルにあんまり触れなかったもの(たとば統計力学によりアインシュタインのモデルの導出とか)を説明してくれたりします。独学であろう院試であろう,この本はとても役に立つと思います。とくに,現在の工学系大学院入試は,複雑なモデルは出てこず,ほんとに全部この本程度です。でも,筆者がこの本に沿って式の導出を練習したときに,書き間違いを発見しました。調べたところ出版社からの修正アナウンスはなさそうで,この教科書を読むときにペンを握って導出を書いて確かめてください。ちなみに,筆者が書き間違いじゃないと思った式は,クローニッヒ・ペニーのモデルあたりに,周期ポテンシャルがデルタ関数のケースにあるはずがないとこりに2乗が入りました。
つきましては,岡崎先生の「固体物理学 工学のために」です。一言で紹介すると,大学院入試に固体物理学を受ける方は必ず1回も2回も目を通してください。東○大学の院試問題にこの本に書かれたものそのまま何回出たことがありました。この本に物性物理の内容がしっかり書かれています。解説も結構丁寧ですし,図も非常に多いです。とくに,この本の流れは個人的に一番気に入ってたため,少なくとも3回以上最初から最後まで読んでましたね。また,この本の範囲も広くて,「ボルツマンの輸送方程式」などの院試の過去問に出たことあるけどネットになかなか情報を見つからないものが入っています。院試のために参考書を探している方は是非読んでみて,演習問題も解いてみてください。
ネクストは永田先生の「物性物理学」です。実際この本の範囲は広くて固体物理学を中心に書かれてるけど,ランダウ理論まで統計力学などの内容が含まれています。結論から言うと,この本は筆者が一番独学者に勧めしたい固体物理学の教科書です。網羅する範囲が広い上に解説が非常に丁寧で,演習問題はちゃんと理解を深めさせます。また,この本は他の教科書(キッテルなど)と違って,ちょっとした変化した物理モデルも説明したりしてくれます。筆者が初めて読んだときにほんとになんも入っていると感じてビックリしました。とくに,バンド構造で中心方程式の導出によくわからない人は,図書館でこの本を探してください。院試勢はもしこの本を一通りやっておけば半導体以外の部分は全部大丈夫であろうと,思います。ただし,半導体物理学
の内容はこの本にないため,購入を考えてる方は注意してください。
最後は,「初歩から学ぶ固体物理学」です。この本は割と新しく,解説は従来の教科書と異なります。この本は,文字ではなく,数式で固体物理学を説明しています。文章の解説はとても少なく,文字に鈍感の筆者にとってはとてもありがたいです。フォノン・電子・光学・磁気・半導体は主要内容としている一冊で,勉強するに良い本です。でも,この本の式はほとんど3次元で,見た目は基本的に複雑のため,初心者がいきなり使うとやる気が失ってしまうかもしれないですね…簡単な教科書で一次元のモデルを一旦勉強してからこの本を使用するのがおすすめです。逆に言うと,三次元で固体物理学を勉強したい方は,是非この教科書を読んでみてください。
以上は,筆者が時間をかけて使った固体物理学の教科書です。つぎは,多少読んでみた教科書もいくつかの紹介していきたいと思います。これらの教科書は難しく,完全に入門ではないため,初心者や工学系の学生にそこまで向いてません。量子力学,統計力学と固体物理学にある程度身についてから使用してください。
この辞書並みの分厚さの持ち主「固体物理学 物質科学の基礎」は研究室においてるため,好奇心で読んでみました。内容はそこまで学部範囲に逸脱してないですが,学部生が読む教科書でもなさそうです。キッテルのプラスアルファ版的な(?)教科書と思います。ある程度の基礎知識を持てればわからないことはないと思います。また,この本は上記の基本的な教科書より複雑な例や実例が多く,気になる方はチェックしてみてください。
「固体物理学の基礎 上・1」「固体物理学の基礎 上・2」という名前でありながら上・2からめっちゃ基礎ではない話が飛んでくる感じです。上の2冊は全部電子論とバンドについて話しています。下の2冊について筆者は読んだことはなかったためよくわからないです。上・1にはk空間やブラッグ格子の前に電子の輸送性質やフェルミ分布などの波数に関連する概念を解説しているため,この流れはあまり好みではありません。上・2はバンド計算(第一原理計算でよく馴染むKKR法とか)や電子の動力学の話をしてます。とりあえずこの2冊は大学院生用の教科書確定ですね。
「固体物理学」のタイトルに”基礎”はないですが,上述の同カバーの「固体物理学の基礎」よりは簡単と思います。計算物理学の入門教科書であり,ブラケットで書ける数式は全部ブラケットで書かれてます。(JJサクライの量子力学みたい)ガチ物理的な感じしますね。第一原理計算に興味がある方は,量子力学や固体物理学の基礎をよく勉強してからこの本を読んでみてください。
「物質の電子状態」計算系研究室の方々は逃げずに読みましょう。DFTやKKRなどの背後の数学原理を解説してくれる本はなかなか少ないと思います。筆者はまったく理解していないため,吉倉書店の「固体物理学」をやってからこの本をチャレンジしようと考えています。各汎関数を理解するためにこの教科書は結構大事じゃない?と勝手に思います。
最後までご覧いただきありがとうございます。もし参考になっていただければと思います。
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