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6「禁断の檸檬」(GIF小説集『雨具と日傘』)
GIF小説
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金曜 23時
女と出会った日のことを思い出した。その時は春の匂いがしていて、飛行機雲もなかったら油断していた。雨宿りしていると、すれ違った女が日傘を差し出してくれた。雨具を着ていても雨が怖かったぼくに差し出された傘からは、太陽の匂いがした。彼女の体は不思議なヴェールに包まれたようで、濡れてなかった
それから、ぼくは彼女と一緒にいることになったのだった。そうして日々を過ごしていると、今までなんともなかったものにおもしろさを見出せるようになった。彼女が触れるものには不思議な力が宿る。鳥や花にも同じ人間のように接して、手でつくるものを大切にする。きっとその心が自然から恩恵を得られている理由なのだろう。
この前に聞いてみて驚いたのは、彼女も死んでいるということだった。幽霊でも地縛霊でもなく、それらを成仏させる役目を果たしているのだとか。
ならぼくは成仏しなくてならない。いつまでも迷惑をかけてはいけない。
戦争で死んだことはわかった。雨が怖い理由もわかった。近い内にその時が訪れる気がする。
それまでに、あと何文字書けるだろうか。
どれだけこの楽しい毎日を過ごせるだろうか。