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5「魚のおしろい」(GIF小説集『雨具と日傘』)

GIF小説
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「魚のおしろい」


月曜日 22時

 海に月が映ると、輪郭がぼやけて黄色い絵の具のようにぼんやりと広がる。何かを思い出すときはいつも暗い頭の中にほんの一瞬だけ光がよぎってみえて、もやもやしていた気持ちがすっきりする。その一瞬の光と海に映る月がとてもよく似ている気がして、もう少し生前の記憶を思い出せるのではないかと思ってしまう。

 だけど、きっとそこに答えはない。

 これ以上思い出しても、ぼくが成仏できない理由をみつけられるわけではないと思う。雨が降るのを待つしかない。

 海の水が砂浜を食べるのを見ていると、潮の満ち引きは月の引力によって引き起こされることを教えてもらった。くわしくは全く分からなかったけど、月は吸い込む力をもっていて海水もひっぱるらしい。物知りな彼女が言ったのだから間違ってはいないのだろうが、それを聞いてぼくは海にいる魚が月まで泳いでいこうとする光景を想像した。暗い海を泳ぎつかれた魚が反射した月の世界に新しい居場所を求めて泳ごうとしている。そんなおかしなことを考えた。

 ぼくが成仏する先にも月明りのような光があって、ぼくは無意識にそこを目指しているのではないかとさえ思った。

 そこで見える月はどんな形をしているのだろう?

 地球の上でみる月は、全部満月のはずだ。

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