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7「天気飴」(GIF小説集『雨具と日傘』)

GIF小説
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「天気飴」


水曜日 12時

 天気雨に打たれながら、ぼくの体は光に包まれるようにとけていった。塵のように光っていくのは、成仏している証だろう。

 ぼくはペンをとっている。紙の先で女が目にしわをよせて、雨で顔を濡らしていた。彼女は最後に憐みをかけるように駆け寄ってきたが、その手は僕には触れられなかった。

 彼女の姿が遠ざかっている。まだペンを握れているのが不思議だ。ぼくはきっと雨によって成仏される。戦争で失った一つしかない目で、ぼくは空から世界を見ている。

 なんて美しいんだろう。あの日から、この景色をもう一度見て見たいと思っていた。

 なんてことない日常が美しく見える。

 空から降る雨をぼくが過ごした幸福の対価だとは思えない。

 天の飴は一つ舐めただけで幸福感を感じた。

 なら本当に、天気雨というのは、神様の嬉し涙なのかもしれない。

 だったら素敵だ。

 ぼくはきっとそんな美しいものをもっとみたかった。それが未練だったんだ。

 雨はこんなに美しいのに、ぼくは気づかなかった。

 文字は本当に奇跡だった。

 こんなに美しい世界を残しておくことができたのだから。

 これだけ書ければ充分だ

 ぼくに文字を教えてくれて、ありがとう

 バイバイ


END
 

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