第829話 『領土開発省と慶長大地震』

 慶長元年閏うるう七月九日(1596/9/1)

 純正は肥大化する領土経営の効率化のため、領土開発省大臣の日高甲斐守喜と行政区画の再編成を協議していた。

 まずは台湾と東南アジアであるが、これはあくまで領土開発省の管轄であり、陸海軍の管理地域とは別問題である。そのため鎮守府と総督府は役割や管轄が違う。

 台湾総督府は海外領土としてはもっとも古く、日本の文化や習慣、言語などが浸透している。行政区画は現在の台湾と同じく台湾島と周辺の島嶼とうしょ部であった。




 台北県……基隆を県都として、淡水を第2都市とする。

 台南県……安平(現在の台南)を県都とする。

 人口の増加、明国からの移民や難民の移住先として開発が進み、効率的に統治するために分割。




 東南アジア地方は統治区域が広大なため、当初より分割構想が練られていた。

 ブルネイ県・スラウェシ県・インドネシア県・ニューギニア県・オーストラリア県・インドシナ県の6つの県を内包する地方である。特にニューギニア県とオーストラリア県は広大であり、オセアニア地方としての昇格は時間の問題であった。

 ところが海軍の拡大とともに統治範囲が拡大してきたため、行政区画の再編成が必要になってきたのだ。

 新たにミクロネシア・メラネシア・ポリネシアの島々も行政区画に組み込むことになる。

 協議の結果、以下のとおり区分する事となった。




 ・メラネシア地方(ニューギニア含む・総督府はポートモレスビー)
  フィジー県/ニューギニア県/ソロモン県/バヌアツ県/ニューカレドニア県

 ・アオテアロア地方(ニュージーランド・総督府はウェリントン)
  ワイポウア県/テ・イカ・ア・マウイ県/タラナキ県

 ・ミクロネシア地方(総督府はパラオ・コロール)
  ナン・マドール県/ヤップ県/パラオ県

 ・ポリネシア地方(総督府はホノルル)
  ハワイ県/タヒチ県/トゥアモトゥ県

 ・メラネシア地方(フィジー・総督府はレブカ)
  フィジー県/バヌアツ県/ソロモン県

 ・サフル地方(オーストラリア・総督府はシドニー)
  ガリンディ県/ワルング県/ヌーンガー県




 各地方の総督府予定地には、現在は支所が置かれている。その支所の権限を順次拡大させつつ、地方都としての機能を拡充させていく予定であった。

「甲斐守(日高喜このむ)、これで良いか? この行政区域拡大案で問題なければ、他の地方も昇格させて円滑に統治できるようしていく所存じゃ」

「ございませぬ。ただ各総督に相応の自治権を与えるのは良き考えにございますが、専横とならぬようせねばなりませぬ。定期連絡を欠かさず、殿下の意向が速やかに行き届くよう連絡網を整えるが急務かと存じます」

「うむ」

「バンテンは彼の国の事とは言え、乱が起きるまで総督の籠手田どのが知らなかったのは、以後警いましめねばならぬ題目にございます」

「わかっておる。内務省による国内の総督府のごとく、月に一度は報告ができるよういたす。要は距離の如何いかんにかかわらず報告ができるよう、定期便の本数を増やすのだ。荷船と兼用してもよい」

「はは」




 ■慶長元年閏七月九日(1596/9/1)~閏七月十二日(1596/9/4)

「直ちに現地へ救援部隊を送るのだ。災いの有り様をつぶさ(詳細に)に調べ、生存者の救出を最優先とする。食料・医薬品・毛布などの物資も同時に送れ」

 慶長豊後地震が発生し、純正は即座に対応を指示したのだが、災害対策庁長官の対応は迅速であった。

「御意。すでに部隊を編成し、派遣いたしております。現地の有り様(状況)をつかむため、腕木通信網を含めたすべての通信を活用いたします」

 まず自己判断で対応し、同時に純正に報告したのである。

「うむ、よくやった。引き続き対応せよ」

「ははっ」

 純正は続けて命じる。

「知らせによれば海沿いの災いが甚大と聞く。船による支援も行え。漁民たちの協力を仰ぎ、海路からも助けるのだ」

「承知しました。海上検非庁にも命じて海沿いの被災者を助くを重しといたします。加えて海軍の沿岸警備隊、艦隊にも助力を請うべきかと存じます」

 国土交通省大臣の遠藤千右衛門せんえもんが応じた。

「あいわかった! 海軍大臣を呼ぶのだ」

「はっ」

 小姓がすぐに立ち上がり、走っていく。




「甚左衛門じんざえもん、罷り越しました!」

 ほどなくして海軍大臣の長崎甚左衛門純景がやってきた。

 純正はこの時のために震災時の連絡体制を整備していたのだ。

 そのおかげでまず連絡が災害対策庁へ届き、その後関係各省庁へ伝わると同時に純正に知らせが行くようになっている。




 純正は純景を見て、すぐさま命令を出す。

「甚左衛門、豊後と伊予で大地震が起きた。特に海沿いの災いが甚大である。海軍の全艦隊を総動員し、救援活動に当たれ」

「御意。すでに呉の第二艦隊、佐世保の第一艦隊には出動を命じております。加えて隷下の周辺の沿岸警備隊にも物資の輸送を指示し、掃部助かもんのすけ……佐世保鎮守府にも沿岸警備隊の出動を要請いたします」

 純景は厳しい表情でうなずいた。

 犬塚掃部助鎮盛しげもりは少弐氏・龍造寺氏の元家臣で、武勇優れた藤津両弾二島の4人うちのひとり、犬塚弾正鎮家の嫡男である。父である鎮家は70歳を超える老齢で隠居していた。

「よくぞ先手を打ってくれた。では、つぶさ(具体的)な計らい(計画)はいかがじゃ?」

 この事態において海軍の迅速な対応は不可欠である。

 純景は懐から地図を取り出し、机の上に広げた。地図には豊後と伊予の海沿いが詳細に描かれており、すでにいくつかの印が付けられている。

「まず、府内沖浜を中心に湾周辺に第一陣を送ります。続いて臼杵と佐伯にも艦隊をり、伊予方面には宇和島と松山に向けて出港させます」

 純正は地図を凝視しながら、さらに指示を出す。

「日向はいかがだ? 日向灘なだにも津波の影響があったかもしれん」

「はっ。第二艦隊の一部を周辺の調査に向かわせるよういたします」

 この時、災害対策庁長官が割って入る。

「殿下、陸路からの救援隊と海軍の連携が重しかと存じます。特に物資の輸送と被災者の移送において急務にございましょう」

 純正はうなずき、純景と災害対策庁長官を交互に見た。

「その通りだ。両者で逐一報せを交わし(連携し)、無駄なく行え」

「 「御意」 」




 ■慶長元年閏七月十三日(1596/9/5)

 豊後・伊予の地震への対応に追われていた純正のもとに、今度は畿内を中心とした大地震の報告が届いた。京都・大坂では甚大な被害が出ているようだ。

 純正は顔色を変え、即座に行動に移った。

 歴史どおり豊後と伊予の地震は起こり、伏見地震まで起こるとは……。

 変わってほしいのに、変わらない。純正は歴史を知り得る者だからこその苦悩に襲われた。

 しかし、悲嘆に暮れていても現状は変わらない。




 即座に大日本国の国交大臣である災害対策本部を招集した。豊後・伊予の地震対応に続き、畿内の被害状況の把握と救援活動の指示が急務である。

「京・大坂への部隊を直ちに編成せよ。御所付近には特に大き(大規模)部隊を送れ。天子様ならびに閣僚(大日本国)の安否確認も行うのだ」

「ははっ。すでに阿波の第三師団に出動を命じております。また中央軍も即応能う部隊ができあがっているはずですので、連携して救助に当たります」

 災害対策庁長官が応じた。

 豊後地震と同様、地震対応の部隊編成は練ってあったのだ。




 次回予告 第830話 『地震のその後と内憂外患』

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