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7. アイルランド音楽という魔力
現在、Irish PUB fieldは休業を余儀なくされていますが、そんな折り、2000年のパブ創業以来の様々な資料に触れる機会がありました。そこで、2001~11年ごろにfield オーナー洲崎一彦が、ライターのおおしまゆたか氏と共に編集発行していた月刊メールマガジン、「クラン・コラCran Coille:アイルランド音楽の森」に寄稿していた記事を発掘しました。
そして、このほぼ10年分に渡る記事より私が特に面白いと思ったものを選抜し、紹介して行くシリーズをこのnote上で始めることにしました。特に若い世代の皆様には意外な事実が満載でお楽しみいただけることと思います。
noteから得られる皆様のサポート(投げ銭)は、field存続のために役立てたいと思っています。
前回の記事では、セッションを続けていく中で感じた「二重の矛盾」を吐露した洲崎、ですが一方で強烈なアイルランド音楽の魔力に取り憑かれるきっかけもこの頃から。今日はそんな体験をまとめた記事をご紹介します──。(Irish PUB field 店長 佐藤)」
↓前回の記事は、こちら↓
2001年、個人的に印象深かったアイルランド音楽関係の事柄 (2002年1月)
今回は新年号の特集で、「2001年、私のアイルランド音楽体験ベスト10」 という事なのだが、うううう。新譜もあまり聴いてないし、ライブにも通っ てないし、これは困ったぞ。私のこれまでの連載の流れからいくと「2001年 私の体験したセッション、ベスト10」というセンで書けたらキレイなんやろ うが、これもなかなか難しい。去年はほぼfieldでのセッションしか参加してないし、「fieldセッションのベスト」なんて言ってもきっと話が内輪ネタのチマチマしたもんになってしまうのがオチ。
ということで、この際このお題を少し広義に解釈させていただいて、「2001年、個人的に印象深かったアイルランド音楽関係の事柄」というのでお許しを。似たようなもんやないか、って?いえいえ、「個人的に」が重要なんですよ。そう、ごく「個人的に」。
まず第1位!!もうこれは「個人的」には絶対コレしかない!年末に発売 された音楽之友社の『アイリッシュ・ミュージック・ディスク・ガイド』。 実際に本になったのを手にして実はヒヤヒヤ冷や汗もんの日々なのですが、 こういうきちんとした出版物に原稿を書いたのはワタシ生まれて初めて。
↑350ものアイリッシュ音楽のアーティストとそのCD500枚を紹介、インタビュー、ダンスや映画などの情報も収載されている。
プロの編集の方とこんなあんな打ち合わせっぽい事しただけでオシッコちびりそう。という所から始まって、いざ何を書く?自慢じゃございませんがワタクシ、このクランコラ執筆チーム中、情報量 の無さでは最低最悪、不勉強極まりない輩。自動的に有名ミュージシャンぐらいしか知らないわけでして、他にお歴々の先生方が執筆されるのも知らず無鉄砲な挙に出てしまいました。特にアルタンなんかAで始まるわけやから、章の一番最初に出て来るんですね。身の程知らずとはこのことです。
でも個人的には非常にエキサイティングな経験でした。今まで、客観的にCDを聴いたり評価したりという経験があまり無かったので、すごく意味深い作業だったし、自分がアイルランド音楽をどういう風に聴いていたのか?という自問自答には新鮮な発見がいくつもありました。それというのも元はと言えば、このクランコラにお誘い頂いたのがきっかけですから、こっちの方が第1位 かな?いやほんまですわ。クランコラ参加こそが2001年の私的大事件だったかもしれません。
というわけで、もう順位をつけるのはやめにしますわ(いつのまにやら口 調も「関西弁ですます」調になってますね)。
そして、この時の自問自答は 後もずっと尾を引く事になるのです。自分がアイルランド音楽をどのように 聴いていたのか?
例えば、アルタンなどの長年愛聴しているバンドでも、いざ何か書いてみ ようと思えば、あらためてそれなりに調べもののひとつもしなきゃいかんわ けで・・・、元来、たとえ日本盤でもライナーノートもロクに読まないたち なので、今さらながらに「あ、そうなのか!」というような事実を知ったり とか。
そんなこんなで、CDから聞き覚えのメロディーをいいかげんな記憶で弾き ちらかしたり、ゲール語の歌詞をカタカナで聞き取って強引に歌ったりして いる演奏者としての自分が「こんなんでエエんやろか?」と思えて来まし て・・・。
「アイルランド音楽ってもっと深くて大変なもんなんとちゃうの?」とか、何かもやもやした感覚にだんだんと襲われて行くのでした。
まさにそんな時期に接したライブが、シェイマス・クレイ!!
実はそれまで一度も聴いたことなかったのですが、実際に生で接したその演奏たるや、もう何と申しましょうか、「生!」というか、「血!」というか、楽器の音としてはいつも聴き慣れているフィドルでしょ? いわゆるバイオリンでしょ??? それがですね、何か初めて耳にする民族楽器か何かのように耳に飛び込んで来たのです。圧倒されました。「民謡」としての「深み」みたいなそういうものに。鑑賞者としての感動も、裏返せば当然「演奏者」としての私は激スランプ。
次に私を襲ったのは、アメリカ西海岸からやってきたセタンタの面々。自 分の店でのライブだし、PAを操作するという「仕事」をしながらの鑑賞でし たが・・。これまた打ちのめされてしまうのです。懐の深さというか余裕と いうか、この3人は抜群の演奏技術に一切寄りかかることなく徹底的にエン ターテイメントだったのだ!! 芸人という意味ではなくて、自ら楽しみな がら観客を引き込んでしまう!
↑シアトルのアイリッシュ・バンド「セタンタ」左からフィン・マクギンティ(ギター・ボーカル)、デイル・ラス(フィドル)、ハンズ・アラキ(フルート)。
「そこで落ち込んでるfieldのオヤジ!今度はアメリカのやり方を見せてや るぜ!」 と言われているような圧倒的な空気。
おまけに彼らは予定になかった3ステージ目までおっ始めて、終演は午前0時を完全にまわってしまったというもの凄い勢い。
「ワシもう人前で演奏するの辞めよ・・」この夜、私はもうこんな風に口走ってましたよ。
そして、年末のドーナル&アンディ!!
ここまで来ると、「さあ、このおっさんらはどんな風にワシを叩きのめしてくれるのかな?」というマゾっ気すら抱いて臨んだライブ会場。楽器編成としても滅多にお目にかかれないブズーキ・デュオ! 私も一応ブズーキ弾きの端くれとしては、アイルランド音楽に初めてブズーキを持ち込んだとされるこの2人のおっさん達は一種教祖様でもあるわけですが、これがですね「あんたら、去年は手抜いてたやろ?」と突っ込みたくなるような演奏なのだ。
↑2000年9月にfieldを訪れてくれたドーナル・ラニー(最左)とアンディ・アーバイン(最右)。洲崎はこの時ライブハウス「磔磔」で行われた二人のライブを観に行っていた。
↑2001年12月の「磔磔」のインフォメーション。錚々たるミュージシャンたちがずらり。(磔磔HPより引用)
例えば往年のギターの神様クラプトンなんかでも今はもうギンギンのギターソロなんてやらないじゃないですか。それがこのアイルランドの大御所たちは演奏意欲丸出し!!
「弦 2本でどこまで出来るか!? 悪いけどワシらもちょっと本気出したからね!」と言わんばかりの小僧のようなおっさん2人。
そこには、「アイルランド音楽はこうだ!」とか「ワシらアイルランドの大御所やしね!」とか、そんな雰囲気全くなくて、「でや! 音楽ってオモロイやろ?(ニヤリ)」
てな感じ。ほとんど冗談で昨年fieldアイ研の部員になってくれたこの2人 のおっさんが、ステージの上から
「おいそこのfieldのオヤジ! アイルランド音楽いうても音楽や! 難しい事考えずに自分が面白いと思う音を出せばええんや! ほら、ワシらもただそうしてるだけやろ?」
と語りかけてくれている(勝手にそんな気がしただけですが)。いやもうこれは私にとって、観音様のお慈悲か阿弥陀様の本願か!!てなもんですわ。思わず手を合わせてしまいました。
こんな一連の流れだった2001年。なにかもうごく個人的な事ばかり書いて しまって・・・、「ベスト10情報」を期待していた読者の皆さんごめんなさ い。
さあ、今年は、いつまでも楽器の愚痴ばかり言ってないで、新しいブズー キを手に入れる計画でも練ろうかな?
<洲崎一彦:京都のIrish PUB field のおやじ>
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