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〈きょうとシネマクラブ〉特集「女性と映画」Talk Event REPORTS『天使の復讐』

〈きょうとシネマクラブ〉第一弾として、2023年12月~2024年3月に行われた特集「女性と映画」。上映に合わせて行われたトークの記録を連載します。


上映作品『天使の復讐』(アベル・フェラーラ監督|1981)
2024.3.14(木)|京都シネマ
トーク:鷲谷 花さん(映画研究者) 


魔女か、それとも守護天使か?性犯罪の被害者となった主人公が男性への復讐を果たしていく「レイプーリベンジもの」のカルト的金字塔作品として名高い『天使の復讐』のトークイベントには、映画研究者の鷲谷花さんをお招きしました。日本映画史の研究や昭和期の幻灯文化についての研究・上映などをされています。著書『姫とホモソーシャル: 半信半疑のフェミニズム映画批評』を読んだとき、すでに様々なところからフェミニズム映画かどうかという批評が出ていた『マッドマックス 怒りのデスロード』を宝塚歌劇として夢想する視点の楽しさに夢中になりました。読み進めていくと、黒澤の二本の映画『羅生門』と『隠し砦の三悪人』を現代フェミニズムから読む「黒澤明と逆らう女たち」という章があります。「女性嫌悪的な世界と人間たちを描く映画それ自体が完全に女性嫌悪的であるとは限らない」(P.75)という鷲谷さんの言葉に、衝撃的なラストを飾る『天使の復讐』をどう読むのか興味が沸き、鷲谷さんをお招きしたいと思ったことがきっかけでした。

50分でも足らないほどの重量級トークをしてくださった鷲谷さんのトークイベントレポートは、【「レイプーリベンジ」というジャンルが成立するに至った映画史の振り返り】、【「レイプーリベンジ」の映画の繰り返されるモチーフ】、そして【「レイプーリベンジ」映画の典型でもあり異端でもある『天使の復讐』について】でお送りします。ぜひお楽しみください!
※映画のラストにも触れています。お読みの際はご注意ください。

ニューヨークのドレスメーカーに勤める内気な女性サナは、声を発することができない障がいを抱えながら、日々真面目に働いていた。ある日の帰宅途中、仮面をつけた男に路地裏に連れ込まれ、強姦される。心身ともに傷つき、やっとの思いで帰宅すると、部屋で待ち伏せていた別の強盗にも襲われてしまう。恐怖のなか、とっさの反撃で形勢逆転し、アイロンで相手を殴り殺したサナは、強盗が持っていた拳銃を手にし、夜な夜な街をさまよっては男たちを殺していく……。

https://kyoto-cinemaclub.com/

●鷲谷花さんによる『天使の復讐』のコメント●
レイプと報復の暴力を抱きあわせた通称「レイプ-リベンジ映画」の系譜の代表作にして異端作『天使の復讐』の主人公サナは、自身をレイプした犯人への報復にとどまらず、社会から性的な加害・搾取を一掃する勢いで殺しつづけるが、殺すべき相手は際限なく湧き出てくる。個人間の加害と報復の応酬では完結しない暴力の際限のなさが、「レイプ・カルチャー」の不気味な相を浮かびあがらせる。

◎鈴木史さん(映画監督・美術家・文筆家)による映画批評はこちらから読めます。
◎鷲谷花さん『姫とホモソーシャル: 半信半疑のフェミニズム映画批評』はこちらから


1. はじめに

『天使の復讐』は、いわゆる「レイプ―リベンジ」映画、あるいは「レイプ復讐」映画と呼ばれる系譜の代表作のひとつという定評が確立している映画です。「レイプ―リベンジ」映画というのは、まずレイプがあり、その後、加害に対する暴力的な報復が行われるパターンのもので、80年代ぐらいから総称するようになりました。最近だと、『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)や、ちょっと違うかもしれませんが『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)等がこの系譜に入りそうな作品です。継続的に作られてきている「レイプ―リベンジ」もののサイクルがはっきりと立ち上がってきたのは、アメリカ映画の表現規制システムが変更された結果のひとつと言えると思います。

2. 1970年代以降の「レイプ-リベンジ」映画サイクル

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