〈きょうとシネマクラブ〉【ウェス・アンダーソン監督の作品のこと。】前編
★『ムーンライズ・キングダム』『アンソニーのハッピーモーテル』上映情報
そのほかにも
京都シネマでは、12/13(金)から
【サーチライト・ピクチャーズ設立30周年記念】上映として、サーチライト・ピクチャーズの代表作6作品の上映が決定!
12/13(金)~12/19(木)
🚙『リトル・ミス・サンシャイン』/💙『(500)日のサマー』12/20(金)~12/26(木)
🏨『グランド・ブダペスト・ホテル』/🌊『シェイプ・オブ・ウォーター』12/27(金)~1/2(木) *12/31と1/1は休館日です。
🐶『犬ヶ島』/🐰『ジョジョ・ラビット』
なんと!サーチライト・ピクチャーズとは縁の深いウェス・アンダーソン監督の作品が2作品もラインナップにイン!ウェス・アンダーソン好きにはうれしい12月です。この機会お見逃しなく。
★ウェス・アンダーソン監督作品のこと
ウェス・アンダーソン監督が大好きだ。といっても、早口のセリフとか矢継ぎ早に変わっていく映像、たくさんのモチーフ、引用に目も耳も奪われて、気づけば映画が終わりに差し掛かっている…なんてことばかりだったりします。アンダーソン監督自身「映画を作るというのは混沌を整理しようとしながら、同時に新しい混沌を生み出してしまうということです」と言っているぐらいなので、混乱に次ぐ混乱、発見に次ぐ発見、そして何度も見返して…というのもまたひとつの楽しみ方なんでしょう。まもなく22日から始まる『ムーンライズ・キングダム』の上映に向けて、ウェス・アンダーソン監督作品をいっき見してみるというのもおもしろいです。アンダーソン監督は新作にセルフオマージュをすることもしばしば。同じ監督の作品を連続してみるとおもわぬ発見が待っているかも。ここでは、アンダーソン監督の作品をいっきょ紹介してみようと思います。(長編は全部で11作あるので、前編と後編に分けてお送りします!)
1. 『アンソニーのハッピーモーテル』
Bottle Rocket|1996|アメリカ|91分
出演:ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソン、ロバート・マスグレーヴ、ルミ・カパソス、ネッド・ダウド、ほか
完璧な強盗計画!? おバカで憎めない男たちによるクライム・コメディ!
アンダーソン監督の商業映画デビュー作品であり、京都での劇場上映は(おそらく)京都みなみ会館さんでの上映以来となります!
テキサス大学在学中にルームメイトとなって以降、アンダーソン監督の良き共謀者となったオーウェン・ウィルソンと共同で脚本を執筆。当初の予定では『アンソニーのハッピーモーテル』はマーティン・スコセッシの影響を受けた骨太な犯罪ドラマになるはずだったそうです。しかし、できあがったのは、すっとんきょうな犯罪映画で、なにをしてもダメダメな男たちの行き当たりばったりコメディとなりました。計画と大きくずれた現実の結果(できあがった映画)が、映画内の主人公たちの行く末と共鳴していておもしろいなとおもったり。アンダーソン監督自身も「あの映画は、当時の私たちの生き方から発生したものです」*とコメントしています。
映画全体に漂う楽観性や職業選びを間違えた男のユーモアに満ちた悲哀、お揃いのコスチュームを着た“チーム”へのこだわりなど、現在わたしたちが知ることのできるアンダーソン作品がもつこだわりへの萌芽を感じさせます。
世の中に必要とされない夢をずっと見ていたいと願い、自分の人生を自分のものにできない男たちの、壊れそうで壊れない友情が忘れがたく、気が付いたら癖になっているはずです。
『アンソニーのハッピーモーテル』は興行的には大失敗。しかし、次回作『天才マックスの世界』で製作に名乗りをあげてくれたタッチストーン・ピクチャーズの当時の取締役会長ジョー・ロスが『アンソニー』の隠れファンだったり、スコセッシ監督が絶賛したりと、多くの味方を獲得した作品でもありました。
🌟上映情報:『アンソニーのハッピーモーテル』
12/20(金)~12/26(木)京都シネマにて上映です!
*イアン・ネイサン著/島内哲朗訳
『ウェス・アンダーソン 旅する優雅な空想家』参照
2. 天才マックスの世界
Rushmore|1998|アメリカ|93分
出演:ジェイソン・シュワルツマン、ビル・マーレイ、オリヴィア・ウィリアムズ、シーモア・カッセル、ブライアン・コックスほか
初期傑作として名高い、理想と現実の乖離に苦しむ若者の肖像。
「マックス・フィッシャーはわたしだ!」これを読んでいる人のなかでこの映画をみてそう叫んだひとはどれぐらいいるんでしょう。マックスという人間の外側にある爆発的なエネルギーや矢継ぎ早に繰り出されるハッタリのうまさでもなく、ただただ何者かになりたくて、何者にでもなれると思っている若者の挫折と痛みと独りよがりの肖像に驚くほど身に覚えがあったからだと思います。愛する人が自分のそばにいないことが理解できず、天才でないことを認めることができず、理解できないゆえに痛みを受け入れることもできなくて、礼儀と優しさを忘れてしまったマックス・フィッシャーの姿は、その特異なキャラクターの外側のちいさな割れ目の歪みから青春の歪んだ楽しい思い出と痛みを呼び起こすのでしょう。
ウェス・アンダーソン作品としてこのあと常連となるジェイソン・シュワルツマン(フランシス・フォード・コッポラの甥っ子で、本作が実質的な映画デビュー)やビル・マーレイが人生に希望を失った中年の男の役で出演し、そして盟友オーウェン・ウィルソンが共同で脚本を執筆(カメオ出演も◎!)。
3. ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
The Royal Tenenbaums|2001|アメリカ|110分
出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、ベン・スティラー、グウィネス・パルトロー、ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、シーモア・カッセル、ほか
機能不全に陥った家族の闘争を記録したユーモアを帯びた悲劇。
アンダーソン監督のフィルムグラフィーを彩る「家族」を初めて真正面から描いた長編3作目であり、日本で劇場公開された初めての作品です。家族の問題の原因の9割を占めるであろう家長ロイヤルと、それぞれに迷子として世間に放り出されてしまった3兄妹―チャス、マーゴ、そしてリッチー。そんな子どもたちを見守る妻で母のエセル。そんな家族がひとつ屋根の下に再び集い、反発し、傷つきながらも、傷と折り合いをつけていく物語です。
見返せば見返すほどこの映画にある深い悲痛を感じてしまいます。家族という最も身近な存在が、(その身近さゆえか)いかに同じ家族の人間を傷つけ、そしてその傷があまりにも深く刺さったとげのように抜けないものであるかを描いていくから。それにもかかわらず、失敗に対処するのに苦労した壊れた人々を誠実に、愛を持って描き、成長する風変わりな方法を喜びたっぷりに描いているので、なんだかとても愛おしい映画のような感触をもって終わるのです。「そう口にした瞬間、ロイヤルはそれが真実だと気づいた。」とロイヤルが家から再び追い出されようとしているときにナレーターが補足するこの言葉は、この映画の核を表しているように思います。そう、人間というは、嘘をつく。いろんなものがもつれ合って絡まり合った人生をまっとうに生きるのは難しい。そして、敗北と失敗の渦中で、時に自分のついた嘘が自分の気持ちよりも先に真実に近づくことがあるのは不思議なことだなと思います。
マックス・フィッシャーが高校を卒業するであろう2001年に、ロイヤル・テネンバウムの人生は幕を閉じます。相変わらず、son of a bitchでありましたが、しかし償いを終え、ありのままの姿で墓へ入るのです。
4. ライフ・アクアティック
The Life Aquatic with Steve Zissou|2004|アメリカ|118分
出演:ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、アンジェリカ・ヒューストン、ケイト・ブランシェット、ウィレム・デフォー、ほか
ヒーローへの理想と自己中のあいだを彷徨う中年男の冒険物語。
アンダーソン監督が大好きな海洋学者にしてドキュメンタリー監督のジャック=イヴ・クストーへ捧げられた1作。アンダーソンが敬愛するルイ・マル監督とともに『沈黙の世界』という海洋ドキュメンタリーを手がけた人です。『アンソニーのハッピーモーテル』ではヘンリーの家の壁にクストーの写真がかけられていたり、『天才マックスの世界』ではクストーの本が物語を進めるきっかけとして機能していたのですが、ついにクストーへ捧げる1作をつくります。前作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』でニューヨークらしからぬ、おとぎ話のなかのニューヨークを描いたアンダーソン監督は『ライフ・アクアティック』では憧れのイタリアへ。そして船員らしからぬ人々の、船の上の生活を描いてみせました。この映画は、いろんなジャンルを横断しながらも、血縁がない人々がひとつの“ファミリー”を形成し、揉め事もありつつ、ひとつの目的にむかって進んでいくという、まるでアンダーソン監督の映画作りのあれやこれやを観ているような気持ちにさせられます。実際、フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』やフランソワ・トリュフォーの『映画に愛を込めて アメリカの夜』の要素をいれたかったと語っていました。また、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のヘンリー・セリック監督が手がけた海洋生物たちの作り物感がたまりません。アンダーソン監督の作品は、作り物と生身の人間の感情のフュージョンが思わぬ感動を呼び起こしてくれますが、この作品でシガー・ロスの「Starálfur」とともに訪れるクライマックスシーンほどそのことを実感する作品はないかもしれません。
5. ダージリン急行
The Darjeeling Limited|2007|アメリカ|91分
出演:オーウェン・ウィルソン、エイドリアン・ブロディ、ジェイソン・シュワルツマン、アンジェリカ・ヒューストン
疎遠だった三兄弟による、仲直りをめぐるスピリット・ジャーニー。
『天才マックスの世界』では学校を、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』では家を、そして『ライフ・アクアティック』では船を舞台にしたアンダーソン監督がこれまでの作品を煮詰めて醸成するかのように列車を舞台にした作品を5作目につくりました。幼少期からインドへの想像を掻き立てていたアンダーソン監督は、マーティン・スコセッシ監督が自らの手で上映したジャン・ルノワールの『河』をニューヨークで観たことをきっかけにインドという舞台が決まったのだそう。そして『ダージリン急行』のエピソードは、アンダーソン監督と、ジェイソン・シュワルツマン(出演も)、そしてロマン・コッポラがリサーチのために訪れたインド旅行が基になり、その後、3兄弟を演じたシュワルツマン、エイドリアン・ブロディ、オーウェン・ウィルソンにキャラクターが当て書きされました。顔が似ているわけではないのに、兄弟に見えてくるウィルソン、ブロディ、シュワルツマンのアンサンブルが絶妙ですよね。前作で血縁関係のない家族の可能性を描いたアンダーソン監督は、『ダージリン急行』で血縁という関係のいびつさに“縛られた”3兄弟たちがたくさん物がつまったルイ・ヴィトンのかばんに入った必要のないものを捨てて、血縁という関係を“繋ぎとめる”までを描いた旅の最後に待ち受ける爽やかさは、アンダーソン作品のなかでも随一かもしれません。
以上、長編デビュー作『アンソニーのハッピーモーテル』から『ダージリン急行』までの紹介でした。
🔻『ムーンライズ・キングダム』キャストにまつわるあれこれ🔻
映画館・京都シネマと配給会社・Gucchi’s Free Schoolが、規模や知名度、新作、旧作にこだわらず、いまこそ見たい映画作品を上映する企画です。
vol.1では、特集「女性と映画」と題して、4作品を毎月1作品上映しました。vol.2では『ムーンライズ・キングダム』、そしてvol.3では『アンソニーのハッピーモーテル』を上映します!今後の上映もお楽しみに。
きょうとシネマクラブ:hp
https://kyoto-cinemaclub.com/
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🔻キャスリン・ビグロー監督『ラブレス』×映画研究者・原田麻衣さん🔻
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