折々の絵はがき(72)
◆〈十二ヶ月草花図 柳に椿〉神坂雪佳◆
細見美術館蔵
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立春を迎えたころでしょうか、店先には菜の花が並び始めました。鮮やかな緑と黄色を目にするや、口の中にはフライングでほろ苦いあの春の味が広がります。…ということは蕗やたらの芽、筍にえんどう豆などが並ぶ日もそう遠くはないはず。まだ風は冷たいものの、そんな小さな楽しみを思い浮かべると心に明かりが灯るようで、寒さに縮こまった身体からすっと力が抜けるのを感じました。ふと見上げた道端の木々には新芽が顔を覗かせています。ああ今年もちゃんと。誰に急かされるわけでなく自ら季節を告げる自然のたくましさに、一人ほっと息をつきました。
絵はがきの柳にも新芽が描かれています。つくつくと顔を出す柔らかな芽のなんともいえない愛らしさに、春風に揺れる柳を思い浮かべました。しなやかに揺れる枝が生まれたてのさみどり色に包まれるのはまだ少し先のこと。そばに寄り添うように咲く八重の椿は今日開いたばかりといった風情です。すぐにメジロなどの野鳥がやってきては遠くへ花粉を運んでゆくのでしょう。
神坂雪佳は明治から昭和にかけ、京都を中心に図案家・画家として活動しました。彼は琳派に深く傾倒し、たらしこみなど伝統的な技法を活かした作風を確立したことでも知られています。柳と椿の足下、瑞々しい土の中ではそろそろ冬ごもりを終えた虫たちが蠢きだすころです。春の息吹に耳を澄ませながら、あと少し冬の名残を味わいましょうか。
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