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記憶を辿る46

『 怪しげな白人 』

早朝から出かけた私は、昼にホテルに帰った。
上司や先輩はアラモアナだカメハメハだと周っている。
まして真平と一緒に居たら殺されるばかりに敬遠されているのだ。
そうなると単独行動を取らざるを得なく、昼からはワイキキでレンタルロングボードを楽しむことにした。

俗に言う横乗り系の代表スケートボードから入った私は、その後スノーボードやウェイクボードを楽しんでおり、サーフィンにも興味があった。しかし市内から海に向かうには、最低2時間半かかり中々実現できないでいた。
その点でワイキキのレンタルはサーフィンを体験するには丁度良かった。

サーフィンをする人にとってハワイは天国だ。
四方を大海に囲まれ、緩い波から荒い波が体調や実力に合わせて選べる。それも24時間。
出勤前にサーフィンをしてから仕事に向かい、仕事が終わってからまた楽しむなんて事も可能なのだから最高の環境である。
後に書くことになるが、大分に住み出した頃はそんな生活を目指した。

サーフィンには2通りあり、短いボードでアグレッシブに波を楽しむサーフィンと、長いボードの浮力を活かして緩く波を楽しむロングボードの2通り。その点でもハワイは、様々な波を作る岩礁に富んでいるから、老若男女が楽しめる環境にある。ワイキキなんて最たるもの。緩い波に加えて遠浅で、私のような初体験組から緩く楽しみたい人まで様々だ。

浮力の高いロングボードを選んだ私は、ワイキキの緩い波をすぐに捕まえた。
これがサーフィンか。スカイダイビングのように生死を分けてしまうようなスピードとは違う、滑り落ちるようでいて優しく包み込むような加速感。また違う遊びを覚えた瞬間だった。

何時間レンタルしたんだろう。
気づけばワイキキのサンセットの中にいた私は、流石にやり過ぎた事に気づく。
慌ててレンタルボードを返しに行くと、白人の青年が声をかけてきた。

「 What’s Up 」

音楽のベクトルをパンクに向けていた16歳の頃、本気でイギリスに行こうとしていた時期があり、その時にある友人から「 行くんやったら、耳は慣らしといた方がえぇで 」こんなアドバイスをされた事があった。

当時人気海外ドラマだった”Xファイル”や洋画を字幕なしで見るように心がけていたり、母が常にラジオでNHKの英会話を聞いていたので、聞くだけ英会話は”英語は全く駄目です”と言う人よりは一歩ぐらい歩き出していたんだと思う。

「 What are you doing here? 」

(見たら分かるがな、サーフィンしてたんやん)と心で思っていても表現が出来ない。こういう返答をする時、中学で習う英語力しかない日本人、いや私か(笑) 凄く謙虚でいて丁寧な返答をした覚えがある。

「 I’m playing Surfing. 」

こんなトコだろうか。
その後は俺もサーファーなんだ、サーフィンが好きなら俺が持ってるボートでウェイクボードをしないか? 近所だよ、楽しいよと続いた。それらしく「 アハン、ウフン 」だの返答していたが、この怪しげな白人の持つボートにも興味があったし、経済力も必要なウェイクボードもしたかった。

身振り手振りでウェイクボードをしたい事を伝えると、明朝ホテルに迎えに来ると言うではないか。若いというのは素晴らしい。安全よりも興味が優先されるのだ。
こうして全く信用するに値しない白人と握手をしビーチを後にした。

ホテルに戻ると上司や先輩から、スカイダイビングの質問攻めにあう。
生死を彷徨うような思いをしたと告げると、皆が一様に「 行かんで良かった 」と言った。単独行動を取った事は詫びたのだが、彼らの翌日の予定を聞いてもアウトレットだ、ダイヤモンドヘッドだと言っている。


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