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【レポート】アートワーカーのための起業講座(2024/8/27開催)
2024年8月27日(火)京都芸術センターで「アートワーカーのための起業講座」を開催しました。
大型台風の影響が懸念されましたが、開会時には雨があがり、定員20名を大きく上回る32名が参加され、会場は満席に。アーティスト、アートマネージャー、アートコーディネーターなど、文化芸術分野で活動する「アートワーカー」と呼ばれる方々が「起業」について学び、今後のキャリアや活動の選択肢を考える機会になりました。
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「起業」とは一体何か
前半は、株式会社ツクリエ代表の鈴木英樹さんが講師となり、「起業」に関してレクチャーいただきました。
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鈴木さんからは起業したきっかけ、経緯のほか「なぜ、失敗したのか」「失敗して何が分かったのか」など、自身の経験談を交えながら、鈴木さんが学んだ「お金と仲間の大切さ」について語られました。
「法人設立、お金、ビジネスのつくりかた」の知識とマインド
法人設立に関しては「法人格の種別、個人事業主との違い、営利法人と非営利法人の違い」になどについて、それぞれの特徴やメリット・デメリットを比較しながら説明がありました。
続いて、「原価、利益、収益の計算式」「売値の決め方」「融資と投資の違い」など、「お金」に関する基礎知識についても説明がありました。「誰に(何に)どのようにお金を使うかで未来が決まる」「経営者はお金の配分を決める力をもつ」といった話に対し、「資本主義に対して、そもそも批判的な姿勢のアーティストもいる」という意見も上がり、アートワーカーのための起業講座ならではの一幕も見られました。鈴木さんからは「成果物への対価を得ることは悪いことではない」として、アート分野での活動を継続するためにはマネタイズが不可欠であることが語られました。
「ビジネスのつくりかた」に関しては、事業計画書作成の項目と手順について語られ、リーンキャンバスが紹介されました。
*リーンキャンバス(英語:Lean Canvas)とは、「Runnig Lean(ランニング・リーン)実践リーンスタートアップ」の著者で起業家のアッシュ・マウリャさんによって提唱されたフレームワークで、スタートアップのビジネスモデルを可視化するためのツールのことです。
リーンキャンバスは、ビジネスシーンで広く用いられている「ビジネスモデル・キャンバス」から、スタートアップには重要ではない項目が省略されており、よりスタートアップにとって重要な顧客・課題・製品などにフォーカスできるように設計されている点が特徴的です。
ビジネスモデルをA4用紙1枚程度のサイズ内に整理できるため、起業・事業アイデアを可視化し、検証・改善するうえで役立ちます。
出典:https://www.utokyo-ipc.co.jp/column/lean-canvas/
参加者の多くが抱いている「起業に対する失敗や不安」に対して、「できるかどうかはやってみたらわかる」「起業とは失敗とうまく付き合うこと」と話す鈴木さん。参加者の起業への第一歩をあと押ししました。
ゲストをまじえての座談会
後半は、法人を立ち上げ、舞台公演の主催及び企画事業等を展開する演劇制作者の垣脇純子さんと、フリーランスで活動するアートマネージャーであり「器」のスタッフでもある高坂玲子さんをゲストスピーカーとしてお迎えし、鈴木さんのファシリテーションで起業/開業について座談会を行いました。
「起業しよう!」と意気込んで起業したのではない
まずお2人には、起業/開業したきっかけと法人化したタイミングをうかがいました。
垣脇さんは、個人事業主として演劇製作に携わっていましたが、劇団が注目されはじめたとき、今後の組織の成長を見据えて会社設立に踏み切りました。高坂さんは文化施設でフルタイムで働いていましたが、出産・育児を経て働き方を変えようと思ったことが開業のきっかけになったといいます。
法人継続の難しさは「お金」
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垣脇さんは、法人化に伴いひとつの仕事の期間が長くなり、売上の見込みがたてられず苦労したことを吐露しました。挑戦と失敗を繰り返しながら、自分の仕事に値付けをする過程で信頼のおける税理士との出会いに恵まれたといいます。
NPO法人の理事でもある高坂さんは、NPOには税制優遇などのメリットも多いが、法令にそった組織運営や合意形成が大変であるという特徴に触れながら、法人運営の難しさを語りました。
今後の展望について
アートワーカー、アートマネージャーとしてそれぞれ法人を設立し、走り続けているお二人に今後について伺いました。
垣脇さんは、これまで続けてこられた理由として「やりたくないことはやらず、やりたいことだけをやりたいようにやってきた」といいます。これからは、後進の育成などでこれまでの経験を還元していきたいと今後の展望を話されました。
高坂さんは、このまま個人事業主として活動するか、法人化を目指すか、今まさに悩んでいるテーマだと述べ、今後のやりたいことや仕事に応じて「動きやすい方」を選択していくとのことでした。
質疑応答
質疑応答の時間では多くの方から手が挙がる中、鈴木さんに「ビジネスを継続したほうがいい人、やめたほうがいい人とは?」という質問が寄せられました。鈴木さんは、「情熱が無くなったらやめた方がいい。お金はやめる理由にはならない」と力強く回答しました。
おわりに
鈴木さん、垣脇さん、高坂さんから、起業・開業を目指す参加者へエールが送られました。
高坂さんは「起業することで、社会の仕組みが分かり、新たな社会との繋がりができるのは面白い」と起業の魅力を語りました。
垣脇さんは「起業すると、自分が自分であると認められるようになります」と語り、自己認識の変化について触れました。
鈴木さんは「みんな不安です。私も不安でした。不安とは向き合うしかありません。世間は厳しいですが、時には良いこともあります。やりたくなったら、やってみるのが良いのではないでしょうか」と、不安との向き合い方を示しました。
座談会終了後は記念写真を撮影し、希望者による名刺交換・交流会が行われました。
【相談窓口のご紹介】
アート×ビジネス共創拠点「器」では、起業に関するご相談を受け付けています。
また、京都芸術センターにはKACCO(京都市文化芸術総合相談窓口)がありアートワーカーの活動全般に関する相談を受け付けています。弁護士さんや税理士さんといった士業相談にも対応しています。
株式会社ツクリエが運営する起業家・スタートアップをサポートするStartupSide Kyotoでも起業・経営相談を行っています。
起業したいと感じたら、気軽に各所にご相談ください。
●アート×ビジネス共創拠点「器」
https://utsuwa-kyoto.com/
●KACCO(京都市文化芸術総合相談窓口)
https://www.kyotoartsupport.com/
●StartupSide Kyoto
https://startupside.jp/kyoto/