「ショートショート」平均男の特殊能力『筆記用具』編⑤(最終回)
・・・④からの続き。
すると、
「身を削って働いているのに、正式な書類では必要とされないことが悲しいんだ」
ん?どういうことだろう。
身を削る・・・、正式な書類で必要とされない?
話しているのは鉛筆か?
続けて、そいつは、
「HBには勝てないし」と言った。
確信した。鉛筆だ。
鉛筆が話している。
私はもう少し、鉛筆の心境を聞いてみた。
「身体を削られてしまうのに、正式な書類ではボールペンや万年筆ばかりだし、シャーペンが出てきてからは、僕は必要とされない。」
私は周りに悟られないように小さい声で、鉛筆を励ました。
「でもさ、適材適所や役割分担っていう言葉があるよ。野球だって、先発、中継ぎ、抑えと、強みに応じて役割があるし。」
「確かにそうだよね。言ってくれている通り、僕らでも輝けるのがマークシート!」
良かった。私は鉛筆を励ますことに成功した。
しかし、喜んだのも束の間。
「でも、2Bの僕はダメみたい。」
そうか。確かに、マークシートの注意書きに書いてある。HBの鉛筆を使って下さい、と。
「HBは人気があって羨ましい。キャップもちゃんとつけてもらっている。キャップが付いていない鉛筆は、ブレーキのない車くらい危ないことなんだよ。すべらない話をしていて、オチのところで噛むくらい危ないことなんだよ。テトリスをしていて、落ちてきた棒を中途半端な場所に置いてしまうくらい、危ないことなんだよ。生卵を・・・」
「危ない例えはもう分かったから。」
すかさず私は、割って入ってしまった。
生卵の時に、"割って"入るのは良くなかったかな。
それにしても、まずいな。
キャップを買うのをケチったせいで、2Bが落ち込んでいる。
しかも私の中でもHBを重要視していたため、HBにキャップをつけていたのだ。
そして、どうやら、筆箱サイドからも、身体が黒鉛で汚れるということで、2Bのみが責められていたらしい。
鉛筆は話を続けた。
「どうしてこんなに人気がないんだろう。顔が濃いからかな。」
いや、薄め、濃いめ、どちらもニーズはある。
「右利きの人が書く、縦書きの作文の時は、必ず右手を汚してしまうからかな。」
鉛筆あるあるを言ってきた。
自覚はしているが、どうしようもないようだ。
いや、あるあるというよりは、自虐ネタとして、筆記用具界では鉄板ネタなのかもしれない。
もし自虐ネタではないとしたら、やっぱり励ましてあげないといけない。
私はひとしきり悩みを聞いた上で、アドバイスを与えてみた。
もちろんまだ授業中なので、小さい声で。
「じゃ、消しゴムの帽子をかぶってみたり、髪を染めて色鉛筆になりなよ。」
我ながら良いアドバイスをしてあげた。
消しゴム付き鉛筆はハイブリッドで便利だし、色鉛筆なら、一定層に需要がある。
鉛筆は、
「それはしたくないんだ。」
と言った。
なぜだ、少し変えるだけで、ニーズが増えて、人気が出るはずなのに。理由を聞いてみた。
すると、
「僕は僕のままで、真面目に働くよ。だって、1本芯が通っている、しっかり物だから。」
これは1本取られたな。
ここで、鉛筆に賛辞を贈るように、授業の終わりを告げる3時のチャイムが鳴った。
・・・終わり。