「ショートショート」平均男の特殊能力『筆記用具』編①
私は平均男である。器用貧乏という方が、馴染みがあるだろうか。
名前は小林学人。名前もよくある名前だ。
昔は、平均以上の男だと思っていた。昔というのは今から20年以上も前の話になる。
親の転勤が多く、様々な土地へ行ったのだが、行く先々で方言を身に付けた。
そう、方言のトリリンガルだ。
更に、転校予定先の小学校で、1学年2組になるか、3組になるかの瀬戸際だった時は、私の入学のおかげで3組になるという救世主的な扱いを受けた。
その小学校では、1年中、半ズボンで過ごしたりもした。
そんなトリリンガルで、救世主で、季節感をものともしない平均点以上の男は、小学校の卒業アルバムに大きな夢を書いた。
「高卒で、ドラフト1位で野球選手になる。4番センターで活躍。40歳で現役引退し、タレントへ転向。」と。
どうやら、『てんこう』に良いイメージがあるらしい。
中学生になった時、そんな小学生時代の成功体験は、ただの偶然や、痩せ我慢だった、ということに気がついた。
ただ、夢を追いかけたかったのか、単純に好きだったかは当時の私しか知らないが、中学入学後は、野球部に入部した。
野球部ではレギュラーだった。
レギュラーになれた時点で、平均点より上じゃないか?
残念ながら違う。
なぜなら、その野球部は9名しか部員がいないからだ。
勉強だって得意ではない。
テストの点数も70点前後が多い。
平均点だ。
体育と音楽はそれなりに得意だった。
しかしながら、授業レベルの話。
その道で輝けるほどの実力は無い。
そう、平均点な才能である。
そんな典型的な平均男であった私が、ある時特殊能力と呼ぶべき能力が芽生えたのである。
・・・続く。