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『ストーナー』という完璧な小説を書いた男 ジョン・ウィリアムズの伝記

The Man Who Wrote the Perfect Novel:
John Williams, Stoner, and the Writing Life

「完璧な小説を書いた男:ジョン・ウィリアムズ、『ストーナー』、執筆生活」
by Charles J. Shields
October 2018 (University of Texas Press)

あーやっちゃったかな。

「ストーナー」を読みはじめてすぐそう思った。
いわゆるアメリカ文学。いわゆる純文学。きっと私は最後までこの小説のよさがわからないまま終わるたぐいの、そういった作品の匂いがプンプン。

これを書くと、頭悪いことがバレてしまうので書きたくなかったんだけど、エラい作家さんやら研究者やら読書好きの人たちが、ドストエフスキーとかフォークナーとかをほめるときの「おもしろい」っていうおもしろさが、私にはイマイチよくわからない。でも、こういうおもしろさがわからないって、きっと頭悪いうえに文学的センスないってことなんだろうなー

ちょっとばかり純文学コンプレックスのある私は、かなり及び腰で「ストーナー」を読みすすめた。

だって、冒頭って、農家出身のウィリアム・ストーナーが、農業の知識を身につけるために大学に入って、そこで文学にめざめるってところなんだけど、まあひたすら地味でつまらない。ストーナーは、いかにももっさりとしていて田舎者で冴えないやつだし。この冴えないやつの冴えない人生が延々300ページもつづくのかぁ~ ふー。

でもその不安が、いい意味で裏切られたのは、どのあたりからだったろう。たしかに、冴えないやつの冴えない人生の物語だったんだけど、読み終えたとき、悲しみで胸がいっぱいになった。でもそれは、人生の「ままならなさ」を知った人ならだれでも共感できるような悲しみで、人はそれを抱えたまま生きていかなくてはいけない。この「感じ」をなんといったらいいのか。

そして、悲しいんだけど、同時に満たされているような感覚。それから、とてもはかなくて美しいものに触れたような、、、。

やっぱりうまく言葉にできない。

でもたぶん、この小説を読んだのがだいぶ年を重ねてからだったのも大きいのかも。若いころだったら、よくわからなかったと思う。

とにかく「ストーナー」には、圧倒された。

本書は、「ストーナー」の作者、ジョン・ウィリアムズについての伝記だ。
著者のチャールズ・S・シールズはアメリカではハーパー・リーの伝記「『アラバマ物語』を紡いだ作家」がベストセラーになった、わりと有名な伝記作家だ。

シールズがあきらかにする作家ジョン・ウィリアムズの生涯は、なんと「ストーナー」の主人公ウィリアム・ストーナーの生涯と重なる部分が多いことか。アメリカの田舎の労働者階級の出身であることや、地方の大学で30年間、文学と文章技法を教えていたことなど。ウィリアムズの実人生が、どの程度、どんな形で小説に反映されているのか、興味のあるところだ。

本書では、「ストーナー」以外の著作にもふれている。Nothing but the Night, 「ブッチャーズ・クロッシング」「アウグストゥス」など、寡作なウィリアムズの小説を1作につき1章割いて論じている。

「ストーナー」以外は、翻訳されてないと思ってたけど、「ブッチャーズ・クロッシング」と「アウグストゥス」は、同じ版元からちゃんと日本語版が刊行されていた。今度、読んでみよう。

「ストーナー」は、1965年に刊行されたが、その当時は一部の愛好家に好まれただけで、それほど売れなかった。それが2006年に復刊され、フランスの人気作家が英語版を読んで感動し、フランス語版を出版するとたちまちベストセラーになった。そこからヨーロッパ各国でベストセラーになり、ようやく本国アメリカでもベストセラーになったという、いわくつきの小説だ。

ニューヨークタイムズは「ストーナー」をa perfect novel 「完璧な小説」と評した。

もしかして「ストーナー」のような、埋もれた名作ってまだあるんじゃないかな。そう考えるとちょっとワクワクする。




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