A Map of the New Normal
2024年トロント国際作家祭で目に留まった経済書です。刊行は2024年5月。日本の出版社に持ち込もうと努力しましたがうまくいかなかったし、内容的に、今年前半までに読んでおいたほうがいいので、ここで紹介することにします。
日本で活躍しているエミン・ユルマズさんがよく解説している内容に近いですが、カナダのエコノミストが書いているので少しだけカナダに寄せてあります。経済ユーチューバーさんのいいネタ本になるはずです。
従来のグローバルサプライチェーンがパンデミックとウクライナ戦争に絡んだ経済制裁で崩れた今、資源国が有利になると著者ジェフ・ルービンは予想します。ま、そりゃそうだろ!という予想ですが、新興の資源国がアメリカと距離を置きはじめれば世界情勢がシフトし、(中略)アメリカは自国の巨額財政赤字をいよいよ、他国に頼らず、自分でなんとかしなければならなくなるんでは? それはアメリカ国民にとっても良いことなんではないか? と考えていらっしゃる。
個人的に興味深かったのは、対ロシア経済制裁で、ロシアがリースしていたボーイング機やエアバス機が差し押さえられ、ロシアは自国機の開発・生産を加速化させる一方で、ボーイング社などが航空機や部品をロシアに売りつけられなくなったことです。そして、ロシア空域を飛べなくなった西側の航空会社に代わり、彼らに比べると飛行距離が短く安価でフライトを提供できるエミレーツ、カタール、トルコなどの航空会社がアジアとヨーロッパを結ぶ路線で増便し、勢いを増している。経済制裁は思わぬチャンスを生むという事例がいくつも挙げられています。
資源国が有利になるのなら、資源大国カナダはどうなるのか。なぜ最近カナダのアメリカ国境に近い土地に大規模なバッテリー製造工場ができているのか(日本の自動車会社が関係してますね!)。なぜカナダとアメリカを結ぶパイプラインは建設されないのかについても、面白いことがいろいろと書かれています。カナダはNATO加盟国ですから、はるか遠くで起きている諸問題も他人事ではありませんしね。
第二次トランプ政権発足前に刊行された本ですが、この政権が誕生することを想定して書かれていると思います。
英語が読める人は是非どうぞ! 日々英語で経済ニュースを追っている人ならすらすらと読めます。
これのレジュメが読みたいぞ!という編集者の方、あるいは経済ユーチューバーの方、こちらからご一報くだされば、メールでお送りいたします。
文責:新田享子