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弟に最後にしてあげたこと。

 2024年12月初旬。タイで旅行中だった弟は脳梗塞で倒れ、そのまま亡くなってしまった。手続きをしにタイに飛んだけど言葉は全く分からないしお腹は壊すし…まったくとんでもない目に合ったぜ。

いろいろあったけど、お兄ちゃんがお前のためにやったことを話すよ。

 領事館から一報があったときに真っ先に思ったのが、お前(弟)のPCにエロい動画が入っていてそれを両親に見られたらどうしよう、ということだった。親にお気に入りのエロ動画を見られる…これは男なら避けねばならぬ一大事だ。ましてやデスクトップに「エロ」なんてフォルダがあったら大変だ。よし、ここはお兄ちゃんが一肌脱いでやるからな。お前のエロフォルダの件は任せろ!

 家族会議で旅行保険の話になり、弟はネットから申し込んでいるのではないかという結論に至った。ということはあれだ、当然PCを開くことになるわけだ。これはヤバい展開。
 パスキーが分からない→業者に出す→業者ポンと開く→お母さんポルノにびっくり…これだけは避けたい。なんとしてもPCを一番最初に見つけてパスキーを探し当てなくては…。いの一番に手を挙げた「俺が弟の家に行く」

 不動産屋からカギを借りて弟の部屋に入り込む。整理された部屋。きれいな机の上にブツ(PC)はあった。おお、これがあいつの性の神殿(いや、それ以外も入っているだろうが)弟よすまん、拝借するよ。決してヤマシイことをするわけではないんだ。エロの…いや保険が第一だ。電源を入れると当たり前にパスキーの画面に。弟の誕生日、バイクのナンバー色々入れてみたが駄目。秘密の質問もわからない。

 ん?机の端っこに10桁の番号が書いてある。これをランダムに入れるくらいしか思いつかない。これがだめなら業者にもっていくしか…ラストチャンス、とりゃー!3回目のチャレンジで「ガチャ」神殿のカギが開いた。えええええー。自分でもびっくりした。

 「勝手に入ってすまんなあ」心を痛めながら神殿に突入。デスクトップにエロ動画があったら真っ先に消してやるからな。しかし、部屋同様綺麗なデスクトップだった。エロフォルダなんて一つもなかった。エロフォルダ、作るだろ普通。俺だけ?

 奥の奥には動画があるのかもしれない。しかしそれは俺が立ち入る場所ではない。一安心して保険の探索に入る。ブラウザを立ち上げる。

 ブックマークを見てあ!と声を上げた。一番最初にFANZAがあるではないか!セクシー女優に課金してたのか!その姿勢たるやよし!それでこそ俺の弟だ(ちなみに私はソクミル派)かくして弟の秘密は兄の隠密行動によって守られた。おーい弟よ!お兄ちゃんはやったぞ!やってやったぞ!ほぼなにもしていないけど。

 これがお兄ちゃんがお前のためにやった唯一のことだ。そう、これだけ。難しい保険とかは俺の奥さんともう一人の弟夫婦がやってくれてる。俺はみんなができない「男のケア」に心血を注いだってワケ。

あんまりお兄ちゃんらしいことできなくてごめんな。これで許してくれ。

 なんかさ、あまり女の子との浮いた話もないし、兄弟間でエロ話とか話そうとしなかったから興味ないと思っていたんだ。ブックマークを見つけた時にちょっとホッとしたよ。少しは好きなセクシー女優の話とかしたかったな。趣味合ったかな?合わねーだろうなあ。ずっと隠していやがって。

 勉強もスポーツもお前の方がずっとできて、ちゃんとしてて…そんなしっかり者が最後ずっこけやがって。

 タイに着いて面会した次の日に死んじゃってさ。意識がないお前といろいろ話せてうれしかったよ。一日待っててくれたんだよな。ありがとう。息抜きに観光したけど、タイはいい国だな。好きになるはずだ。

  俺は胸を張って言える。お前は真面目とお人よしが取り柄のナイスガイで、さらにセクシー女優に課金する立派な男だったと!

 大好きな弟よ、安らかに眠れ。でも早いよバカ。

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きょーき
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