病院は病気になったときだけ行くところ?
このタイトルを見て、「そりゃそうでしょう。病気でないのに病院に行く必要なんてあるの?」と思われたのではないかと思います。そう、私たち日本人にとっては病院は病気になったから行くところだと多くの方が思っていると思います。私自身もそう思っていました。
先日読んだ記事に「国立がんセンターが子宮頸がんの予防に関して日本の現状をまとめたファクトシートを公開した」というのがありました。子宮頸がんのワクチン接種率が他の先進国に比べて進んでいないことは、きっとこれを読んでくださっている方もご存知だと思いますが、子宮がん検診への受診率が先進国の中でも低く、43.7%と書いてありました。ちなみに、一番受診率が高いのはチェコの
90.9%、ついでオーストラリアの84.6%。米国は72.6%となっていました。
私たち日本人は、検診だけのために毎年病院に行くということが、あまり習慣化していないように思います。欧米のように家庭医制度がある国は、赤ちゃんの時から1年に1回はなんの症状もなく、健康であってもチェックアップにドクターを受診することが習慣になっています。それなので、婦人科検診もその流れで、「特に自覚症状がなくても1年に一度は婦人科を受診する」という意識が、人々の中にあるのではないかと推測します。つまり、何も症状がなくても病院を受診すること自体が当たり前のことになっているということです。
一方、私たち日本人は医者にかかるというと「何か症状があるから行く」というイメージではないでしょうか。
歯科だけは別で、定期的に検診を受けている人が多いかもしれないと思い、調べてみたところ受診率は46.8%でした。(令和3年に出された厚労省のデータ)
20代の若い人たちが一番受診率が低かったですが、それはなんとなく予想がつきますね。
先ほどの記事に戻すと、婦人科の受診率の低さには、
※ 婦人科の受診自体、ハードルが高い
※ 仕事を休んででも婦人科検診を受診しにくい
※ 学生なら、大学で検診を実施すべきだが、考慮されていない
などの理由が挙げられていました。どれももっともなように聞こえますが、本当にそうだろうかと疑問にも思います。
私たち日本人の意識の中に「病院は何か症状があったら行くところ」という考えが根強くあるので、何も症状がないのに「なんでわざわざ受診しなくてはいけないの」「健康だから大丈夫」と考えてしまう傾向が、特に健康な若者などには多くみられるのではないか、というのが私の意見です。
と、こんなことを言っておきながら、私自身、基本的には健康なので1年に1回家庭医に会いに行くことを忘れそうになります。汗
健康だし、特に医者と話すこともないし、と。笑
ポジティヴヘルスのような会話がなされるなら、1年に1回の受診ももっと楽しみになるのになぁと思うところです。
病気にのみ焦点を当てている医療なら、病気になったときのみ受診することになります。
人間全体に焦点が当てられて、健康志向の医療であれば、症状の有無に関わらず
受診する意義が見い出せます。
ポジティヴヘルスとはまさに後者の医療です。人間全体に焦点が当てられますから、病気があるなしということに関係なく、どうしたらより健康でいられるのかを医療者と話をします。そしてポジティヴヘルスでの「健康」とは、単に身体的な健康を指すのではなく、6つの次元「身体的状態」、「心の状態」、「生きがい」、「暮らしの質」、「社会とのつながり」、「日常機能」が含まれます。病院に行って、こんなにいろいろなことを話すの???と驚かれるかもしれませんね。こんなふうに健康を広く捉えると、「体に問題がないから病院に行って医者と話すことがない」という状況は無くなりますね。
私自身、一年に1回の婦人科受診をとても楽しみにしています。幸い、特に問題はないので本当に検診のための受診なのですが、婦人科のドクターがとてもいい先生で、その先生に会いに行って話をするのが楽しみだからです。一方の先ほど少し触れました家庭医のドクターは、体の状態などを聞くだけで、特にプライベートな話やら、上記に挙げた6つの次元に関わるような質問は一切ありません。ドクターとして当たり前の仕事をされているとは思いますが、体に問題がなければ、何のために会いにいくの?と受診する理由が見つからず、足が遠のいてしまいがちになります。
病院を受診するとき、病状があって、それを治してもらいたいから受診するというのが一番の理由だとは思いますが、もっと人と人との交流があるような温かみのある医療であったら、なお受診のしがいがありますね。
ポジティヴヘルスのように人間全体に焦点を当てて健康志向に重点が置かれ、必要に応じて病気志向の見方もする、という形が、本来の医療の在り方なのではないかなと思います。そして未来の医療はこのような医療になる、とポジティヴヘルスの創設者マフトルド・ヒューバーは言っています。実際に、すでにこのような考え方を取り入れて医療をされている医療者も増えてきていますね。今は、より良い医療に向かう転換期にあると希望を感じています。