昨今のエンタメビジネスの傾向と脆さ
こんばんは、競馬実況Vtuberの京野聖也です。
更新が著しく滞ってはいますが、noteの名前を変えてみました。
エンタメを研究しているからエンタメ研究所です、別に意識していないです大丈夫です。
今回書くのは上記のタイトル通り昨今のエンタメビジネスが抱える脆さや問題点的なところです。
そこそこ前の話にはなりますが、アニメ声優である成海瑠奈さんの一件がこのnoteを書くきっかけになりましたので、声優ビジネスというところを中心に話を進めていこうかなと思います。
成長するエンタメ業界
誰もが予期していなかった新型コロナウイルスで、伸びたエンタメと大ダメージを受けた業界がはっきりと分かれました。
映画市場やライブエンターテインメント市場は大ダメージを受けましたが、それを合算しても全体で見ればエンターテインメント市場は成長し続けています。
そのなかでも特に市場の成長を牽引している分野が「アニメ市場」「アプリゲーム市場」です。
コロナ前のデータではありますが、
アニメ市場は2015年と比べて4割増の約2兆5000万円(2019年)
アプリゲームは2015年と比べて3割増の約1兆3000億円(2019年)
という伸び率となっています。
(出典 アニメ産業レポート2020、ファミ通ゲーム白書2020)
上記二つのコンテンツの共通点がありまして、「声優」とは切っても切り離せないこと。
声優という職業に憧れる人は絶えず、声優育成も立派なビジネスとして成り立っています。
アニメ市場の拡大はアニメが増えているという背景があり、民放のアニメ放映数を年度別に観てみると以下のように増加傾向にあります。
1990年 39作品
2005年 69作品
2015年 129作品
2020年 142作品
(出典 「ビジネスモデル学会2021」)
それに伴い声優の数も2001年には370人しかいなかった声優も2021年には1562人と約4.2倍に増えています。(出典 「声優名鑑」)
声優名鑑に記載されているので約1500人であって、業界団体に所属している声優は最低でも5000人以上はいるらしいですけれどね。
アニメ産業全体の成長はアニメ数の増加&声優数の増加意外にも、「アニメの売り方」が変わってきているということもあるのですが、それは本題からは逸れるので、最後に記す参考文献にてご覧いただければと思います。
話を戻して、昨今のアニメ特にソシャゲで「豪華声優陣」という売り文句をよく見かけると思いませんか?
あまりに「豪華声優陣」を売りにしたアニメ・ゲームが多いので、自分のような天邪鬼は豪華声優陣という単語を聴くと、逆に安っぽく思えてしまいます。
でも実際に豪華声優はオタクにはよく刺さるようでして、2018年矢野経済研究所の調査では「声優オタク」は累計108万人に達し、イベントには年間3万円を使うというデータが出ています。
ちょっと規模感が異なる為先ほどの市場伸び率では敢えて入れなかったのですが、「アニメ関係のライブ・イベント市場」の伸び率はすさまじく2019年には433億円という数字を叩きだしています。
これは2015年と比べて8割増です。
ウケるエンターテインメントの傾向
昨今のエンターテインメントには声優の存在が切っても切り離せないという話をしましたが、今度は「そもそも昨今のエンターテインメントのトレンドとは何なのか」という観点から話を進めていこうかなと思います。
結論から先に申し上げますと、昨今のエンターテインメントのトレンドは
①共体験を味わうことができ
➁常に運営されており
③タイムパフォーマンスが高いコンテンツ
ということができます、順を追って観ていきましょう。
①共体験を味わうことができるコンテンツ
共体験というのは「同じ空間で同じエンターテインメントを体験することができる」という意味で、代表的なものでいえばアイドルのライブだったり、プロ野球の球場での観戦だったりといったものです。
ですが共体験を味わえるのはコト消費だけではなく、エンタメを共に楽しむ場所にはSNSも含まれます。
TBSのドラマ「半沢直樹」がその代表例になるでしょう。
どんでん返しが続き爽快感のあるシナリオだけでなく、堺雅人さんや香川照之さんの過剰なほどの顔芸や思わず口にしたくなるような印象に残るセリフがドラマの面白さを引き立てました。
ところで、半沢直樹を観ていた方はCM中や放送が終わってからTwitterで半沢直樹関連のツイートを漁りませんでしたか?
多くの方が顔芸の瞬間のキャプチャ画像をリツイートしたり、「大和田常務」で検索をかけていたのではないかと思います。
実際に半沢直樹関連のツイートの勢いは凄まじく、#半沢直樹 が含まれていたツイートだけで見ても、放映日には毎回100,000~200,000ツイートされており、最終回の日にはなんと500,000ものツイートがされました。
多くの人が「私が面白いと思った半沢直樹を他の人も同様に面白いと思っていることを確認したい」という衝動に駆られていたのです。
AmazonPrimeやTVerでいくらでもアニメやドラマを後追いで視聴できるご時世で、半沢直樹はSNSを牛耳ることで圧倒的なライブエンターテインメントへとドラマを昇華させたのです。
➁常に運営されているコンテンツ
そんな半沢直樹ですが、盛り上がりは最終回以降下がり続け #半沢直樹 が含まれているツイート数も2021年になってからは毎日1,000ツイートにも達しないほどに勢いがなくなっています。
理由は単純で半沢直樹というコンテンツが更新されていないからです。
昨今のエンターテインメントには更新し続けることが求められています。
昨今のアニメの特徴が2.5次元を前提(メディアミックス)としていることが多いのは、アニメで人を集めたうえでアニメ以外のコンテンツを提供することでコンテンツの寿命を伸ばそうと試みているからです。
この動きの旗手となったのがブシロードで、「ガールズバンドパーティ(略称ガルパ)」がその一つ。
ガルパはアニメをプロモーションの軸として、声優が実際に楽器を弾くライブやスマホゲーム、トレーディングカードゲーム、関連グッズなどで幅広く提供することでコンテンツを維持し続けています。
おびただしい数のエンターテインメントで溢れる供給過多な現代社会においては半沢直樹ほどインパクトを残した作品ですら、コンテンツが更新されなければ数か月後には話のネタにもならなくなってしまうのです。
インパクトを残すだけではダメで、エンタメ大好きオタクを飽きさせないような運営が必要となっています。
③タイムパフォーマンスが高いコンテンツ
費用対効果のコスパはよく聞きますが、時間対効果のタイムパフォーマンス(タムパ)はあまり聞かない単語かもしれません。
エンタメにおけるタムパとは「時間当たりでどれだけ心が揺さぶられるか(楽しめるか)」と言い換えることもできます。
例えば、私はベイスターズファンですのでたとえチームが最下位でも勝てば嬉しいし勝てなくても選手が頑張っている瞬間を観るのは楽しいですから、仕事終わりの19:00~21:00の時間はほぼプロ野球中継の視聴に割いています。
でもクライマックスシリーズに関しては贔屓でもないスワローズVSジャイアンツを観るよりはゲームをしたほうが楽しいなと思っているので19:00~21:00の時間はだいたいゲームをしています。
そして最推しであるぽこピーの配信があれば他のいかなるエンターテインメントよりも優先して視聴します、最も心が満たされるからです。
上記はあくまで一例ですが、これがエンタメにおけるタムパになります。
金はその気になればいくらでも増やすことはできますが、時間を増やすことは誰にもできません。
そこまで面白くないコンテンツにダラダラと時間を費やしている暇はないのです。
エンタメ供給過多な今、オタクは
「このコンテンツは自分が時間を割いて視聴するに値するか」
「投資した時間に対して得た揺さぶられた感情は適切なものか」
にかなりセンシティブになっています。
企業側としてもユーザーが集まらない(もしくは減少が著しい)コンテンツからは撤退するわけですが、あらゆるデータが手に入るこのご時世においては未来予測も容易にできるわけで、企業の意思決定(撤退の判断)も非常に早くなっています。
企業からすればよい経営判断かもしれませんが、コンテンツを楽しんでいたユーザーはただ振り回されるだけです。
運営されるエンターテインメントを楽しむユーザーは「このコンテンツは長く楽しむことができるかどうか」という点にも強く目を光らせています。
エンターテインメントの脆さ
成長著しいエンタメですが、そのエンタメにも弱点や脆さがあります。
①運用コストが高い
➁声優への負担が大きい
とりあえず上記の二つについて述べようかと思います。
①運用コストが高い
例えば何十人の職人で立てたマンションは以後数名の管理会社の担当と1人の管理人、そしてほころびが出てきたら適宜業者を手配するという形で、少ない人数で運用することができます。
しかしエンタメコンテンツに関してはマンションのようにはいきません。
エンタメコンテンツは現状を維持しているだけではユーザーが離れていくため、日々アップデート等の更新を行わなければならないからです。
100人が携わったゲームであれば、その後運用していくにも100人の力が必要になります。
これは日本型エンタメコンテンツの特徴であり、海外のコンテンツであれば上記のマンションのように、大人数で作ったものを少人数で省エネで運用していく方向へと移行していきます。
海外では、ある程度の栄枯盛衰を許容していると言えるかもしれません。
そして日本型エンタメコンテンツは舌の肥えたユーザーの期待に答え続けるために、日々の運営に費やされる費用(開発費)もだんだんと向上していきます。
必然的に維持していくために必要な売り上げも増加していくため、採算が取れず終了してしまうことも多いです。
ゲームに限らず、エンタメコンテンツの維持には莫大なお金がかかります。
運営に値するコンテンツであり続けることへのハードルはとても高いものになっています。
➁声優への負担が大きい
当初noteを書こうと思っていた際に最も伝えたかったのはここなんです。
昨今のエンターテインメントビジネスは声優への依存度、並びに声優への負担がかなり大きなものになっています。
その理由は上記で語っている通り、「運用されるエンタメにこそ価値があるから」です。
コンテンツを長いスパンで運用していくためには、メディアミックス戦略が最有力手段です。
アニメだけでなく歌・ラジオ・コンサートなどの表舞台に顔を出さなくてはいけません。
ゆえにやることは多いですし、顔の良さも求められます。
声優市場の拡大やアイドル声優という呼び名からもわかる通り、声優そのものが大きなコンテンツになっているのです。
ちょっと昔ではドラえもん、最近ではクレヨンしんちゃんのようなコンテンツで声優の交代がありました。
声優の交代があるということはこのコンテンツはこれからも続いていくということの明言でもあります。
ファンとしても馴染み深い声優が離れるのはつらいことですが、喜ばしいことかもしれません。
それと比べれば、昨今のアニメでは上記のような声優交代は難しく思えます。
引き継ぐことがあまりに多いですし、「歌NG、舞台NG」のように項目を設けている声優もいます。後任探しは難航するでしょう。
突然声優になにかアクシデントがあったという際に、コンテンツそのものが揺らぐ可能性すらあります。
「声優はキャラクターに声を吹き込んで命を与える仕事」
という言葉はかつてアイマス声優だった友利花さんが語った声優観です。
キャラクターあっての声優であるはずのコンテンツが、声優あってのキャラクターになってしまっている。
柔軟にコンテンツを提供しようとするあまり、いざ何か起きた際に柔軟に動けなくなっていることが成海瑠奈さんの一件を経て問題だと再度認識した次第です。
Vtuberというビジネス
日本においてVtuberがこれほど流行ったのも、エンタメのトレンド傾向をなぞっていたからです。
かつての四天王(キズナアイ・輝夜月・ミライアカリ・シロ・のじゃおじ)からにじさんじ・ホロライブへとVtuber人気が以降していったのはユーザーが共体験を求めたからに他なりません。
ANYCOLOR株式会社(当時いちから株式会社)とカバー株式会社はVtuberというジャンルだけでなく、共体験に目をつけたからこそ今の地位を確立できたのです。消えていった企業はその逆だったり。
Vtuberビジネスで面白いのは、中の人(アニメでいう声優)との結びつきが強すぎるあまり、中の人の離脱=そのVtuberの更新終了となる点です。
ここまで何度も語っている通りコンテンツは運営させ続けなければいけないのですが、Vtuberに関しては中の人を交代してコンテンツを維持し続けている例はないように思えます。
何よりファンが交代を求めていないということも面白いですね、「他の人になっても運営し続けるぐらいなら終わってくれ」と。
こうなったら終わりという明確なものがあるからこそ、運営が上手くいっているように思えます。
SONYにしろ日テレにしろVtuber事業でその後ほとんど音沙汰がないのは不思議ですが、運営のコストさえ乗り切ればまだまだ伸びる業界だと私は考えています。
まとめ
上記のように語ってはいますが、だからといって「エンタメはこうあるべきだ!」とか「こう改善しろ!」とかいう意見もなく、この話題の着地点も特にないので最強のエンターテインメントの話でもして終わろうかなと思います。
皆さんは「最強のエンターテインメント」と言われたら何を頭に思い浮かべますか?
ミッキーマウスという人もいればディズニーランドという人もいるでしょうし、任天堂といったような企業名を思い浮かべる人もいるかと思います。
もちろんこの質問には正解がないのですが、私は最強のエンターテインメントは「初音ミク(ボーカロイド)」だと思っています。
タムパの高さは申し分ないですし、ライブで共体験も味わえます、声優にも依存していません。
特筆すべきはその運営です。
かつて何度「初音ミクはオワコンだ」と言われたでしょうか。
でもそのたびに才能あるボカロPがニコニコ動画やYouTube上に現れて我々にボーカロイドの存在を思い出させてくれました。
ボカロは有志によってここまで運営され続けているのです。
こういう状態になったらエンタメとして最強ですよね。
参考文献
『オタク経済圏創世記』日経BP 中山淳雄
『推しエコノミー』日経BP 中山淳雄
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