45歳からのエクストリーム・ジョブ
ご無沙汰しています。最近自分の会社の仕事が忙しすぎて趣味の時間が取れませんでした。頑張って月1くらいは記事書きたい。いつものやつですが、韓国エンタメラボについての説明を貼っておきます。
さて、今日はここしばらく45歳定例に関する話題がホットだったので、遅くはなりましたが、それに関連して少し書いてみました。(アイデアだけあってなかなか筆進まない人)
サントリーの新浪さんが45歳定年論を唱えはじめ、大企業でももう65歳とかまで面倒みるのはむりぽとなっていますが、それがすすんだらどうなるか、韓国映画で見てみましょう~、というお話です。
ついにチキンがテーマに。映画『エクストリーム・ジョブ』
これはよくツイッターなどで貼られていますが、韓国ではみんな最終的にチキン屋さんをやるという話があります。私もやりたい。
そしてそんな韓国ではついにチキンがメインの映画も作られます。それがカバー写真として上げた『エクストリーム・ジョブ』。
まず『エクストリーム・ジョブ』ってなに?という方のために、簡単に映画の説明を。
昼夜を問わず事件や事故を追っているものの、実績ゼロで解体寸前のコ班長(リュ・スンリョン)率いる麻薬捜査班。ある日、国際的な犯罪組織による麻薬密輸の検挙指令が下り、コ班長はチャン刑事(イ・ハニ)、マ刑事(チン・ソンギュ)、ヨンホ(イ・ドンフィ)、ジェホン(コンミョン)ら班員と共に、犯罪組職のアジトの目の前にあるフライドチキン屋で潜伏捜査を開始。しかし、チキン屋の主人は売り上げが上がらないため店を閉めると言い出す。他に良い監視場所が無くこの案件を解決して仕事の成果と班の存続へと賭けているコ班長は、妻に内緒で前借りした退職金でフライドチキン屋を買い取り、班員らと偽装創業を始める。ところが、絶対味覚を持つマ刑事の協力もあってチキン屋は大繁盛。店の切り盛りに追われ、捜査が後回しになる始末。そんなある日、犯罪組織のアジトからもチキンの注文が入り、捜査官たちは満を持してアジトへ配達に向かう。「Wikipediaより」
もうストーリーだけで観たくなる映画ですよね。Netflixにあるのでぜひ観てほしいです。私は劇場で観ました。2度観ました。
韓国の国民食といえるチキン(とビール=通称「チメック(치맥)」)ですが、韓国エンタメの中では必ず登場します。そのため中国のK-Dramaファンの間では「炸鸡和啤酒」というのが慣用句になるほど一般的とか。ちなみに中国でチキンが流行ったきっかけとなったのがこちらのドラマ。
さらに、コロナ前は韓国ではチキン・ツーリンズムの一環として、外国人観光客向けのまつりなどを開催していました。
そんな韓国のチキン屋さんの数は2017年基準で約36,000店舗。マクドナルドの全世界の店舗数(約35,000店舗)より多いとのことです。
ちなみに韓国のコンビニは全国で約5万店舗です。外食産業ではなく、チキンだけでコンビニの3/4を占めるというのはなかなかすごいものがありますね。(日本だとコンビニの数は56,000店舗程度)
ではなぜ韓国ではここまでチキン屋さんが多いんでしょうか?
定年が短い韓国とフランチャイズ・ビジネス
突然ですが、外資系企業はよく「Up or Out」言われます。昇進できなければクビになるってやつですね。実はこのUp or Outが韓国で一番激しくかつ大規模で行われる組織が軍隊です。
ややこしいですが、韓国軍には2種類の定年があり、特定の階級で”何年間服務できるか”という「階級定年」と、特定の階級で”何歳まで服務できるか”という「年齢定年」があります。ただ、階級定年は准将以上でしか適用されないので、ここでは年齢定年のみを取り上げます。(便宜上、領官を佐官に書き換えています。e.g.少領→少佐)
少佐は企業でいう課長のような階級になりますが、定年が45歳ととても短いのがわかります(大体30代半ばで進級)。また、少佐から中佐への進級は15%といわれており、狭き門となります。そう、おわかりいただけましたでしょうか?これはまさに新浪さんが唱える45歳定年に近い形となります。
軍隊の一番のエリート、陸軍士官学校出身たちも少佐までの進級はある程度約束されていますが、中佐以上はガチ競争。要するに韓国軍はすでに45歳定年をある程度、実現しているんです笑
ちなみに少佐で満期退役すると軍人年金の対象にはなりますが、月数万円程度に過ぎず、とても生活することはできないので再就職のための教育期間というのも設けられたりします。
一方の日本は、人事院の調査をみてみると、役職定年はありますが、企業全体の約20%のみが対象となっており、一般的ではない模様です。また、役職定年後も(給与が下がるものの)雇用は継続しており、Up or Outとは遠いです。
日本では1994年、60歳定年制が敷かれて以降年々、定年が伸びてきていますが、韓国で60歳定年制が導入されたのはつい最近の2013年のことです。そのため韓国は国全体をみても定年が短く(事実上の定年が49.1歳という話もあります)、平均年齢が伸びて高齢化が進む昨今、第2の人生をどうするかはとても大きな問題となっています。
その中で多くの人が手を出すのがフランチャイズ事業、というわけです。事業と言っても自分でフランチャイジーとなって一つの店舗を運営する、いわゆる個人商店となります。このように、韓国でチキン屋さんが多い原因の一つが低い定年年齢≒「一定数の人が起業しないといけない状況」といえるわけです。韓国ではこれを「生計型起業」と言います。(ここテストに出るよ)
チキンだけじゃない韓国の外食フランチャイズ
これは何もチキン屋さんにとどまりません。韓国はフランチャイズ事業における飲食の比率が高いことが一つの特徴となります。2018年のフランチャイズ業界の統計をみると、約120兆ウォン(約12兆円)あるフランチャイズ市場のうち、実に36%にのぼる約43兆ウォン(約4.3兆円)が外食のフランチャイズとなります。
一方、日本のフランチャイズはほとんどが小売中心となっており、全体26兆円のうち、外食が占める比率は約4.3兆円の約16%と、全体の比率は韓国の半分以下で、金額だけでみたら韓国と対して変わりません。(ちなみに小売のフランチャイズが伸びたのはおそらくワークマンだろうと想定されます。詳しくは下の表のリンク先をご参照ください)
また、外食チェーンの割合が高いのに加えて、チキン屋さんは他の外食に比べ初期費用が5,716万ウォン(約550万円)と低く、人気の業種(?)とのことでした。(ほかの外食は1億ウォン超えがほとんど)
日本でも似たような流れはすでに出ています。
なので、そもそも「韓国ではチキン屋さんが多い」のではなく、「韓国はフランチャイズの外食産業が発達しており、その中で初期費用が少なくて済むチキンが人気がある」と言い換えるべきでしょう。
韓国の現状からみた日本の今後
日本で45歳定年の浸透(≒65歳定年の解体)が進んだときに何が起こるか。おそらく韓国同様、SMB(Small Medium Business)の拡大と、それにともなうフランチャイズ業界の(さらなる)拡大ではないかと思います。
すでにみたように、コンビニなど日本のフランチャイズビジネスは26兆円規模ではありますが、外食に限って言えば4,300億円と、金額自体は韓国とさほど変わりません。なので、この領域はまだまだポテンシャルがあるのでは?という気もします。
一方、飲食は倒産率も高く、誰もがうまくいくわけではありません。
エクストリーム・ジョブのコ班長は退職金を前借りしてチキン屋を開業しましたが、実際に多くの韓国の50代は退職金を利用して一部は財テクで株をやりつつ、チキン屋などの事業を始めます。一方、廃業の数が上回ってきています。下のグラフはチキン屋の創業/廃業のグラフですが、2015年からはオレンジの創業数を青の廃業数が上回っています。
映画『パラサイト』の「台湾カステラ」もまた、韓国のフランチャイズ業界の闇が生んだものです。日本でも今後、同じようにフランチャイズで失敗する人はさらに増える可能性はあります。
45歳定年によって社外へ押し出すと同時に、社会的な安全網を確保できるか、は大きな争点になりそうです。また、これまで企業に社会保障を丸投げしてきた日本政府のあり方に対して、国民が声を上げるタイミングかもしれません。(厚生年金から国民年金の原資を拠出する、というニュースが記憶に新しいです)
韓国フランチャイズ市場の今後
韓国の様々なエンタメで「食」が取り上げられている影響もあって、韓国の食文化(K-Food)は海外でも市民権を得つつあります。
すでに中華圏を中心とした東南アジアではグッネチキンなどがローカライズされた戦略で成功している事例として取り上げられています。
以下の図表の右下のグラフは年度別の外食企業の海外展開に関する統計となっており、黄色い棒グラフが店舗数、線グラフが企業数となります。2018年に減少したのは中国との外構摩擦(いわゆるTHARD問題)による中国撤退が影響していると観られますが、概ね成長してきていることがわかります。中国を撤退した企業はより東南アジアや日本に注力すると考えられます。今後、日本への進出も徐々に拡大するでしょう。
すでに新大久保周辺では韓国では馴染みのペク・チョンウォン氏(韓国の料理評論家/事業家)による店舗が拡大しており、仮に最初は直営店であっても今後はフランチャイズ戦略を取ってくるだろうと予想しています。(赤坂の店舗などは数年前に一度進出→撤退)最近は色々大変そうですが、ゴンチャなどはそれがうまく行ったモデルケースでしょう。
韓国ドラマで見た食べ物が来月にはあなたの街で、ということも十分考えられます。エンタメを起点にした食ビジネスの影響力/拡大力は果たしてどこまで行けるのでしょう。今後も注目したい領域です。
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