非公式カバレージ DMGP2022Day1 決勝ラウンド4:Kyon_Kyon_ vs. ぬえろらいと
あと1回。たった1回勝てば、栄光へと手が届く。
ここまで残った選手は、おそらく例外なく優勝を目指しているだろう。それに予選と異なり、決勝ラウンドの4回戦までは負ければその時点で敗退が決まる。一戦一戦の価値はどれも等しく非常に重いものだ。
しかしグランプリにおいてベスト8進出には大きな意味がある。美麗なイラストのプロモーションカード、公式webページへのインタビューの掲載、そして今回は最強位決定戦への出場権……。様々なものを手に入れることができるため、ベスト8に到達することを到達点にしているプレイヤーが多くいることもまた間違いではない。この決勝ラウンド4は「持つ者」と「持たざる者」を残酷なほど明白に区切る戦いなのだ。
テキストカバレージでも、フィーチャーマッチテーブルでも語られなかった、「あと一歩」の激戦のひとつを、ここに書き記すこととする。
決勝ラウンド3で兵庫県の強豪まぁつとの延長3ターンまでもつれ込んだ接戦を制したKyon_Kyon_の目の前に現れたのは、先ほどばんぱくとのフィーチャーマッチテーブルでの対戦を終えたぬえろらいとだった。
Kyon_Kyon_が使用するのは【ネバーループ】と呼ばれる《天命龍装 ホーリーエンド / ナウ・オア・ネバー》と《龍素記号Sr スペルサイクリカ》を組み合わせたコンボデッキ。
バトルゾーンに自分の《電脳の海を彷徨うエレキギター》があるときに《ナウ・オア・ネバー》で《龍素記号Sr スペルサイクリカ》を出し入れし、《龍素記号Sr スペルサイクリカ》の効果で墓地の《ナウ・オア・ネバー》を唱えてまた《龍素記号Sr スペルサイクリカ》を出し入れする。
唱えた《ナウ・オア・ネバー》は手札に戻るが、ここで《電脳の海を彷徨うエレキギター》の効果で1枚ドローして手札に戻った《ナウ・オア・ネバー》を捨てると、《龍素記号Sr スペルサイクリカ》の効果を解決する前の初期盤面に戻り、好きな枚数ドローすることが可能になる。
あとは山札が十分に削れたタイミングで《神の試練》を唱えて追加ターンを獲得し、手札に集まったコンボパーツを駆使すれば無限の追加ターンを得ることができる。
元々高い防御力を誇るデッキとして有名だった【ネバーループ】は《電脳の海を彷徨うエレキギター》の登場によってループの安定度を向上させており、彼はそれに独自のチューンを施してこのラウンドまで勝ち上がってきていた。
対するぬえろらいとが操るは《13番目の計画》を超次元ゾーンに4枚採用した【60枚コントロール】。その名の通り山札の枚数は通常の1.5倍となる60枚であり、超次元ゾーンと超GRゾーンのカードを含めると総デッキ枚数は脅威の80枚となる。
本質は【ネバーループ】に【5cコントロール】を融合させたデッキタイプのようだが、その分厚い山札は対戦相手に容易な行動の予測を許さない。更に《ディメンジョン・ゲート》と《五郎丸コミュニケーション》によって、相手のデッキごとに最も効果のあるカードを選んでプレイすることを可能としている。
2人が卓に着き、ジャッジによるデッキチェックを待つ間、疲労困憊な様子のKyon_Kyon_の口から弱音とも取れる言葉が漏れた。
Kyon_Kyon_「なんでここで再会するかなぁ……」
実は彼らは予選8回戦で既に対戦しており、その際はKyon_Kyon_が先行5ターン目にループコンボを決めた……かと思いきや、キーパーツである《目的不明の作戦》と、シールドからコンボパーツを回収するための《黒神龍ブライゼナーガ》の両方がシールドに埋まっていたため無限に追加ターンを得るループに入ることができず、その隙を付いたぬえろらいとが《音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ》で呪文を封殺し勝利を収めていた。
【ネバーループ】は防御力に定評のあるデッキだが、呪文封じと大量の手札破壊に対しては脆いという明確な弱点が存在する。特に《音卿の精霊龍ラフルル・ラブ》や《ジャミング・チャフ》などを絡めて一気に攻め込まれると成す術なく敗北してしまうため、Kyon_Kyon_にとっては厳しい対戦相手と言えるだろう。
一方ぬえろらいとも悠長にゲームを進められるわけではない。予選8回戦では後手だったとはいえ5ターン目にループコンボを決められているのだ。
今回は先手を取ってコンボに対応できる以上はある程度余裕があるかもしれないが、僅かでも油断すれば二度とターンが帰ってくることはない。
《ナウ・オア・ネバー》を核とするデッキ同士の対戦となった決勝ラウンド4。
たった一度のチャンスを掴むのは、果たしてどちらか。
デュエマ、スタート。
先行:ぬえろらいと
先行を取ったぬえろらいとは《一王二命三眼槍》を2回チャージしてターンを返す。【アポロヌス】対策として採用されているカードだが、このマッチアップにおいて使う機会は全くと言っていいほど存在しない。デッキに採用されている枚数は2枚だが、その2枚全てを引き込んでしまった彼の顔は僅かに渋っていた。
対するKyon_Kyon_は2ターン目に《電脳の海を彷徨うエレキギター》を設置する順調なスタートを切る。続くターンで《フォーチュン・ドンキッキー》や《ストリーミング・シェイパー》といった3マナのカードをプレイすることこそ叶わなかったが、手札には《サイバー・ブレイン》があった。次のターンで一気に手札を潤し、あわよくば5ターン目にループしてしまおうという算段だろう。
一般的な【5cコントロール】であれば《ナウ・オア・ネバー》や《ドラゴンズ・サイン》から《龍風混成 ザーディクリカ》を踏み倒し、更にその効果で《ロスト・Re:ソウル》を唱えて相手の手札を全て捨てさせるのが王道のコンボだ。
Kyon_Kyon_にはデッキの内訳がわからないため確信は持てないが、仮に《ロスト・Re:ソウル》が採用されていたとしてもぬえろらいとがマナブーストするカードをプレイしていないため、手札破壊などのビッグアクションまでにはまだ少し時間があると推測できる。ぬえろらいとが次のターンで相手に干渉することができなければ、先手と後手が入れ替わった形になってしまう。
しかし、Kyon_Kyon_が相対するのは、ぬえろらいとが操っているのは、常識外れの【60枚コントロール】。Kyon_Kyon_の目論見は意識外からの攻撃によって呆気なく崩れ去ることとなった。
4ターン目、先ほどのフィーチャーマッチでばんぱくの猛攻を無効化した無敵の盾《青守銀 シルト》が、今度は最強の矛《解体事変》として襲い掛かり、Kyon_Kyon_の手札を貫いた!
手札にあった唯一にして最強のドローソース《サイバー・ブレイン》を捨てられたKyon_Kyon_は動くことができず、苦しみながらターンを返すしかない。
そうしている間にぬえろらいとは《五郎丸コミュニケーション》で《機術士ディール / 「本日のラッキーナンバー!」》をサーチ。Kyon_Kyon_にタイムリミットの訪れを告げる。
……が、バトルゾーンには《電脳の海を彷徨うエレキギター》が、そしてKyon_Kyon_の手札には《龍素記号Sr スペルサイクリカ》がある。
ここで《天命龍装 ホーリーエンド / ナウ・オア・ネバー》を引くことができれば、前のゲームのようにコンボパーツが行方不明にならない限り、そのまま勝利することができる。
彼に残されたのはたった1ターン。まさに「Now or Never」だ。
Kyon_Kyon_は力強くドローする!……が、引けない!!
…………そこからは、ぬえろらいとの独擅場だった。
《「本日のラッキーナンバー!」》で「5」を宣言してコンボの起点となる《ナウ・オア・ネバー》を封じ、次のターンでKyon_Kyon_が喉から手が出るほど欲していた《ナウ・オア・ネバー》で《龍素記号Sr スペルサイクリカ》を出し入れして《「本日のラッキーナンバー!」》を再利用する。
こうしてぬえろらいとは着々とターンを稼ぎ、フィニッシュに向けた準備を進めていった。
だが、Kyon_Kyon_の目から光が消えたわけではない。
諦めずにドローソースをプレイし続けた彼の手札には《ファイナル・ストップ》が収まっていた。ぬえろらいとのデッキも呪文主体のコントロールデッキである以上、呪文を封じ込めながらドローもできる《ファイナル・ストップ》を唱えることができれば、僅かだが時間稼ぎが出来るかもしれない。
まだだ。まだ勝機はある。
次のターンで「4」と宣言されなければ、呪文詠唱自体を封じられなければ、まだ希望はあった。が……。
ぬえろらいと「……いや、ダメだ。《ファイナル・ストップ》がある」
長考の後にぬえろらいとが呟いた一言は、Kyon_Kyonを絶望させるには十分だった。
予選8回戦でKyon_Kyon_はぬえろらいとに《ファイナル・ストップ》をプレイしていた。自らのデッキには致命傷となる《ファイナル・ストップ》の存在を、彼が忘れる筈など無かったのだ
気がつけば場には《音卿の精霊龍 ラフルル・ラブ》が着地し、Kyon_Kyon_に長い戦いの終わりを告げた。
Winner:ぬえろらいと
この日まで大会での入賞経験が無いというKyon_Kyon_にとって、グランプリ本戦でここまで勝ち上がるという経験はまるで夢のような時間だった。
その刺激的な経験は未だに彼を捕えて離さない。
あの時もし引けていたら。もし勝てていたら。
そんなもしも、の思いがずっと頭から離れないという。
彼は本気で戦うことの楽しさ、そして負けた時の悔しさを知り、一層デュエル・マスターズに魅せられてしまったのだ。
そしておよそ半年後、Kyon_Kyon_はグランプリの会場へと戻ってくることになった。
あの日の忘れ物を取りに来た選手として、そして真剣勝負を見守るジャッジとして。