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替えられた傘
私の住む町に雪が降った。冬の季節がやってきた。
子どもの頃は大喜びだった雪も、雪かきが重労働だと気付いてからは鬱陶しいものとなってしまった。
チラつくくらいならいい。積もらないで欲しい。本当に。
雪が降っても、私は傘をささない。私の住む町の人の多くがそうだ。
でも「東京で大雪」とかのニュースでは傘をさして歩く人を多く見る。
雪ははらい落とせばいいのにと、雪レベルが低いなと思っていたのだが、どうやら雪質が違うらしい。
東京の雪は服に付くなりすぐに溶けて濡れてしまうのだという。
それなら仕方がない。
雪レベル低いと思ってごめんなさい。
でも、東京で雪が降ると車がスリップして動けなくなっているのも見るけど、あれは本当に雪レベルが低いと思っている。
冬になると出番の無くなる傘だが、私は自宅に一本、職場に一本、傘を常備している。二本傘の使い手である。
雨が降るかもしれないと思って予め傘を準備するような周到さに欠ける私にとっては、いつでも濡れずに済む効率的な方法だ。我ながらとても素晴らしい手段だと思っている。
とはいえ、雨の翌日の晴れた日に傘を戻すためだけに持っていく姿は、雨が降るかもしれないために傘を持っている姿とは違って間抜けさがある。
それでも私は傘をそれぞれ常備していきたいと思う。
私の傘はどちらもビニール傘。いたって普通のビニール傘。
でも、実はビニール傘にもグレードがある。
一昔前まではすぐ折れて破れてしまうビニール傘は使い捨ての代表だった。その分安価でもあった。
一昔前までは100円くらいで買えていたのに。今はコンビニで買おうとすると1,000円近くするものしかない。
そうなるともとを取ってやろうと大事に使おうとする。
ビニール傘はもはや使い捨てではない。
私の傘はコンビニで買った物だ。2~3年使っている。
100円ショップの傘とは大きさも丈夫さも何から何まで違う。柄のところだって太くて立派だ。
二本傘使いの私だが、朝から夜まで雨が降っている時は家から傘をさして、そのままの傘で家に帰る。
驚くほどに当たり前のことを書いてしまったが、どちらかというと家の傘の出番の方が多いということだ。
先日、仕事から帰る時に雨が降っていた。
置き傘を持った瞬間、私の傘ではないことに気付いた。
二本傘使いは職場に私しかいない。有効性に気付いているのは私だけ。そのため、傘立てに傘は一本しかない。
そうなるとそこにある傘は私の傘であるはずだが、そのビニール傘は私の傘ではない。
柄も細くて貧弱だし傘自体小さい。コンビニ出身の私の傘ではなく、100円ショップ出の傘である。
誰かが間違えたのだろうと思うが、持ったらすぐに違うことに気付くはず。
相手はよっぽど急いでいたが、もしくは気付かぬふりをしてグレードアップを図ったのかもしれない。
問題は貧弱な傘をこのまま使うかだが、私はその傘を戻した。
私の傘ではない。ビニール傘だけど私の傘ではない。そんな傘を使う気にはなれない。
その日私は濡れて帰った。二本傘使いにとって屈辱的だった。
もし私の傘を持ち出した人が急いで気付かなかったのだとしたら、私の傘はまた戻ってくるはずである。気付かなかったのだとしても、雨の日に傘立てに帰って来ている可能性も大いにある。
それからしばらく経ったが私の傘は未だ帰ってこない。傘立てにはその日から、100円ショップの傘がい続けている。
どこか悔しさがあるため、またコンビニで買おうとは思えず、私は今、一本傘使いに成り下がってしまっている。
そして、雪が降ってしまった。
来年の春まで一本傘使いのままだ。