いつかの台風の晩のこと
大学生のとき、当時下宿していた滋賀から広島まで、お金はないが体力はあった私と女友達は青春18切符で電車をのりつぎ展覧会を見に行ったことがあった。
広島市現代美術館というところがあり面白い展示がやっているので時々訪れることがあった。当時の展覧会の内容は忘れてしまった。全く記憶にない。
ただ記憶にあるのは台風が近づいていて、あっという間に在来線の電車が停まってしまったということ。新幹線ならまだ帰れるような状況だったけれど新幹線で帰るお金ももったいないし、だからといってホテルに泊まるお金もない。
どうしようかと思っていたら、私たちの高校の同級生が広島に住んでいるというので、いそいで連絡をとってその晩は彼の家に泊めてもらうことにした。
彼の家も広島の市街地から少し離れたところにあったので停まる寸前の電車を乗り継ぎたどり着いた。
突然来た私たちを嫌な顔一つせずに迎えてくれた。
私と一緒に来た女友達はシンガーで、泊めてもらった彼はギターすごく上手だったので、高校生の時は2人でライブをするような関係だった。
台風は過ぎ去ったのか、静かな夜だったと思う。
2人が何曲が披露してくれた。
どんな曲を歌ってくれたかも忘れたけれど、2人が私のために演奏してくれて、それがとっても素敵で友達の歌声が静かな夜に響いて心地良かったこと、彼のギターがとっても優しかったことを覚えている。
それから女友達は10年ほどシンガーを頑張っていたのだけれど、今はもう歌わなくなってしまった。
泊めてくれた彼とはあれから一度も会っていない。
2人はあの夜のことを覚えているだろうか。
私はあの贅沢な時間をふと思い出しては引き出しに大事にしまっている。
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