元ロリだった私の防犯ブザー・レクイエム

私が防犯ブザーを使ったことがあるのは過去一度だけだ。
赤い、スケルトンの防犯ブザーだった。

小学校低学年、学童に行っていない私の下校時刻は午後の浅い時間だった。
住宅街を歩いていると、ゆっくり自転車をこぐ男がいた。男は木の生い茂った公園の前に自転車を止め、公園の木に向かい股間を触っていた。
「うっわ〜こいつ、立ちションすんのかよ!」
そう思いその場を足早に過ぎ去った。

少し歩くと、重いランドセルを背負ったロリの足早なんかにすぐに追いついた先ほどの男が、股間を露出した。
「マジかよ!これ、変質者ってやつか!」
真新しい防犯ブザーの使い所は今だ。
そう思って紐を引いた。

聖なるベルは想定より大きな音がした。近所にはクレーマーで有名な家があり、幼い私は「こんな大きい音を出したら、近所迷惑だって怒られちゃう」と思った。
そして迷惑にならないようにと紐をすぐに戻し、音を止めた。
男は逃げ、私はすぐに家に帰った。

「ただいまー。今ね、なんか、ちんちん出してる人いたから防犯ブザー鳴らした。」
気にしたら負けだと思い、明るく母に打ち明けた。
一気に険しくなる母の顔に事の重大さを知った。
母に話していくうちに、怖くなって、後から後から涙が出てきた。
「防犯ブザー鳴らして、逃げたけど、逆恨みされたらどうしよう?怒ってるかも。怖い。すぐ帰ったから、おうちもバレたかもしれない。どうしよう。」
涙が止まらなかった。
家がバレたら家族にも迷惑をかけると思った。
警察に電話をする母は淡々と話していたが、明らかに怒っていた。
詳細に特徴を伝えたものの、犯人が捕まったなどの情報を知ることはついぞなかった。

その後防犯ブザーを使うことはなかった。
ロリ神といえど鐘を常に持っているわけではなかったからだ。

しゃがんでいる私のスカートの中を覗く素振りをした男子中学生が、「お前ロリコンかよ!」と笑ってふざけ合っていた。
理由はそれだけではないが、その頃から私はスカートを履くことをやめた。

ロリコン、ロリ、そんなワードは、今やキャッチーで子どもたちも知っている言葉だ。
言葉は変動する。だからそんな言葉がありふれてもそれ自体が問題視されることは滅多にない。
そんな歌詞の歌が流行ったって、分別のある大人たちが楽しむ分には咎めることではない。

ただその流行りの歌を聞き、救済されることのない私の気持ちを思い出したので、ここに記載する。

今、子どもたちを性犯罪者から守ろうと感情を昂らせているのは、救済されることのなかった私のためのレクイエムでもあるのかもしれない。
子どもたちを守ることで、元ロリたちに救済を。


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