④札幌のお笑い市場の現状と課題【3.1.2 太田プロダクション札幌/3.1.3 その他/3.2 札幌お笑い界の成績】

3.1.2 太田プロダクション札幌

 吉本興業に続いて、札幌に進出したお笑い事務所は「太田プロダクション(以下、太田プロ)」である。2016年4月に「太田プロエンタテイメントカレッジ札幌校」として養成所が開校されたことにより、所属芸人が誕生した(31)。これによって、北海道で初めてのお笑い養成所ができたことになる。2020年現在、3期生までが存在している(4期生は在学中)。なお、開校に合わせて2017年10月に東京からお笑いコンビ「センチメンタル」が移籍している(正確にはフリーからの所属となる)。
メディア出演としては、テレビでは2019年7月4日から放送されている(32)『いまなにしてる?』(HBC)に太田プロ札幌所属のお笑いコンビ「36号線」の「大田黒ヒロタカ」がレギュラー出演している(33)。

(31) 太田プロエンタテイメントカレッジ HP「大田プロエンタテイメント学院 札幌校開講のお知らせ」2015年10月26日、https://oec.ohtapro.co.jp/info/detail.php?id=6(2020年6月19日閲覧)。
(32) Twitter「いまなにしてる?(@hbcimanani) 」、2019年7月1日、https://twitter.com/hbcimanani/status/1145584027463647237?s=20(2020年11月25日閲覧)。
(33) HBC北海道放送 公式HP「いまなにしてる?」、https://www.hbc.co.jp/tv/imanani/(2020年9月15日閲覧)。

 ラジオでは2019年4月7日から放送されている(34)『コメディアン・ラプソディ』(STVラジオ)に「36号線」と「センチメンタル」が隔週でレギュラー出演している。また、コミュニティFMのさっぽろ村ラジオにて放送されていた『むらラジOH!ちゃぼのコーナー』(さっぽろ村ラジオ)が2020年4月6日から『太田プロ札幌のおかえり!!ラジオ』(さっぽろ村ラジオ)としてリニューアルされた(35)。番組では太田プロ札幌にタレントとして所属している元芸人の「ちゃぼ」がメインパーソナリティを担当し、週替りで太田プロ札幌の芸人が出演している。なお、同番組は2021年1月からは同じく太田プロ札幌所属のお笑いコンビ・「TwoT」にメインパーソナリティがバトンタッチされる。
 SNSや動画サイトでの展開としては、YouTubeにて『太田プロ札幌チャンネル』を開設しており、2020年7月17日には同チャンネルでお笑いライブの無料配信が行われた。また、2020年8月22日には1期生を中心とした生配信を初めて行い、以降は毎月第4土曜日に同じ形態での生配信を行っている。また、2020年2月頃より所属芸人のセンチメンタルが単独の公式チャンネル『センチメンタルのYouTube channel』を開設し、2020年9月25日より定期的な動画投稿を始動した。なお、それ以前は週に1回程度の生配信を行っていた。
 以上の通り、新しく北海道に参入してきた事務所としてさまざまな活動を行っていることがわかる。しかし、養成所が開校されたばかりであることや吉本興業と比較するとどうしても資本力に差があるため、メディアのみならずライブシーンに関してもなかなか満足には活動の幅を広げられずにいることが見て取れる。

(34) Twitter「センチメンタル 伊藤祐輔(@yusukeit)」、2019年3月24日、https://twitter.com/yusukeit/status/1109781500663230464?s=20(2020年11月25日閲覧)。
(35) Twitter「ちゃぼ(@chaboyd_27)」、2020年3月23日、https://twitter.com/chaboyd_27/status/1241999010648322048?s=20(2020年12月14日閲覧)。

3.1.3 その他

 上記2社以外のローカル事務所としては「夢カンパニー」、「CREATIVE OFFICE CUE」、「オフィスセブン」などが存在している。
 「夢カンパニー」が設立されたのは2011年である。夢カンパニーはもともと人材派遣の会社であり、そこに追加されるように芸能事業部が立ち上げられたという経緯がある。なお、2015年12月に上京し、2020年現在東京のサンミュージックプロダクションに所属しているYes!アキトは所属第一号の芸人(36)(当時の芸名は「アキト」)である。

(36) ウェイビジョン『BLOCH AID』「札幌インディーズお笑い史トーク」2020年8月9日放送、https://www.youtube.com/watch?v=HWdzAcbvFJw(2020年8月12日視聴)。

 「CREATIVE OFFICE CUE」は上記で示した通り、代表的な所属タレントは「TEAM NACS」や「オクラホマ」である。お笑い事務所ではなくタレント事務所ではあるが、北海道内では他のお笑い事務所以上に根強い人気がある。特にTEAM NACSのメンバーである大泉洋は1996年に放送が開始された『水曜どうでしょう』(HTB)に出演しており、2002年にレギュラー放送が終了した以降も道内だけではなく、全国的な人気を博し続けている。
 「オフィスセブン」にも何組か芸人は所属しているが、現在はレギュラー番組の出演が主でありライブ出演等の芸人活動は稀である。現在放送されているレギュラー番組は『しんや一族』(TVH)や『ちっぷいんBogey』(HBC)など。
 また、事務所や養成所とは性質が異なるが「札幌放送芸術&ミュージック・ダンス専門学校」という専門学校の中には「お笑いコース」が存在しており、芸人を養成する授業が行われている。このコースの卒業生の中には実際に東京のお笑い芸能事務所に所属した前例がある(37)(38)。

(37) 松竹芸能公式HP「デコンボコン」、https://www.shochikugeino.co.jp/talents/dekonbokon/(2020年7月29日閲覧)。
(38) Twitter「【SSM SAPPORO】札幌ミュージック&ダンス・放送専門学校(@sbassm)」、2019年3月22日、https://twitter.com/sbassm/status/1108917132253782016?s=20(2020年7月29日閲覧)。

3.2 札幌お笑い界の成績

 ここまでは札幌のお笑い界やお笑い事務所の歴史などについて述べてきたが、次は札幌芸人の活動を深掘りしていく。一般的な芸人の活動の主軸となるものは“賞レース”と言っても過言ではないだろう。札幌のような地方であっても地方予選があったり、東京などに出向いて予選に参加する場合があったりする。
 それでは、実際に札幌で活動している芸人は賞レースでどのような成績を収めているのだろうか。ここでは過去から現在までの賞レースでの実績を述べていく。なお、ここで記載するものはインターネット上などで正確な記録が確認できるもののみとなるため、必然的に近年の情報に留まる。たとえば、M-1グランプリは公式ホームページ内にデータが残っている2015年以降の賞歴のみを調査の対象にしている。
 独自で調査を行ったところ、近年での大きな賞レースの成績としては札幌吉本所属のお笑いコンビ「コロネケン」が2020年に行われた「ABCお笑いグランプリ第41回大会」の準決勝に進出していることがわかった(39)(40)。今まで前例のない快挙ゆえに最終予選に進出したことを事務所すら把握できておらず、本人たちも直前まで気が付かなかったというエピソードを本人たちのYouTubeチャンネルに投稿された動画内で語っている (41)。
 その他の札幌芸人の活躍としては、Yes!アキトが2018年にR-1ぐらんぷり(現・R-1グランプリ)の3回戦まで進出している。また、タカアンドトシやトム・ブラウン、そして錦鯉がそれぞれ2004年、2018年、2020年にM-1グランプリで決勝に進出している。しかし、これらはどの例も上京後の成績であり、札幌という地から出た成績ではない。
 前述したとおり、近年では札幌で活動している芸人がM-1グランプリ、キングオブコントなどで2回戦以上に進んだ例はないようである。東京や大阪など主戦場から遠く離れた場所から参戦することになる札幌芸人にとって賞レースで戦うことは不利なのだろうか。実際、ABCお笑いグランプリで準決勝に進出した際の動画内でコロネケンの渋谷氏は「やる気ないとかじゃないけど、札幌にずっといたせいでそういう賞レースの最終予選とか準決勝とかって関係ない話というか、選んでもらってないんじゃないかみたいなのがちょっとあった。ちゃんと通るんだね」と相方の束田氏に向かって内情を話していた(41)。
 このような現状から見て、札幌芸人は賞レースではなかなか実績を積むことができていなだけではなく、“どこか遠い存在のもの”というふうに感じてもいるように思われる。

(39) お笑いナタリー「『第41回ABCお笑いグランプリ』56組が最終予選進出、MCは南キャン山里」、2020年6月23日、https://natalie.mu/owarai/news/383407(2020年11月26日閲覧)。
(40) よしもと住みます芸人47WEB 北海道「コロネケンがABCお笑いグランプリ最終予選に進出!」、2020年6月24日、http://47web.jp/hokkaido/2020/06/abc.php(2020年11月26日閲覧)。
(41) YouTube コロネケンチャンネル「【ABCお笑いグランプリ】決勝進出者発表直前トーク!」、https://youtu.be/mt6MagdKHPM(2020年12月30日閲覧)。

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