⑤札幌のお笑い市場の現状と課題【第4章 大学生のお笑いに対する意識分析-消費者側の意識-/4.1 お笑いへの興味/4.2 お笑いライブへの興味】

第4章   大学生のお笑いに対する意識分析-消費者側の意識-

 お笑いが文化として広く浸透されていくためには、若者の支持を得ることは避けては通れない。それでは、実際に現代の若者、中でも札幌で大学生活を行っている学生たちはどれほどお笑いというものに触れているのだろうか。そして、札幌で展開されているお笑いは大学生にどれほど周知されているのだろうか。
 そこで、今回はアンケート調査を通じてこれらの内容を明らかにしていくこととする。なお、今回は対面でのアンケート依頼が困難であるため、オンラインのみでアンケートが完結できるようにGoogle社が提供しているGoogleフォームを利用した。
本章では以下の方法で本学の大学生に行ったアンケートの結果を述べていく。

 調査対象:本大学に在籍する18歳から23歳の男女学生117名。
 調査期間:2020年7月28日(火)から2020年10月20日(火)まで。
 調査方法:Googleフォームを使用し、URLを直接学生に配布及び担当教諭を通じて講義用Moodleへの掲載を依頼。得られたデータを整理し、分析した。
 調査目的:実際に札幌で大学生活をしている大学生に対しアンケートを取ることで、「若者である大学生は地元のお笑い文化に対してどの程度の知識・興味を持っているのか」「どのようなアプローチを行えば札幌という地でお笑い文化を活性化させることができるのか」などを調査・検討するため。

4.1 お笑いへの興味

図 1 大学生が興味を持っているエンタメ

図 1 大学生が興味を持っているエンタメ

 お笑いへの興味を調査する前に現代の大学生がどのようなジャンルのエンタメに興味を持っているのかを調査した(図1)。図1で示しているように、特定のエンタメに応じて「好きなジャンル」、「自分でチケットを買って見に行くもの」、「誰かに誘われて行くもの」の3つに当てはまるものを選択してもらった。今回調査の対象にしたのは「お笑い」、「演劇」、「音楽」、「落語」、「スポーツ」、「美術」の6項目である。なお、この質問は複数回答を可としている。
 図1を見ると、「音楽」は「好きなジャンル」で93票(80%)、「自分でチケットを買って見に行くもの」で82票(70%)、「誰かに誘われて行くもの」で80票(68%)もの票数が入っており、3項目すべてでもっとも得票が多かったことがわかる。
 その中で、「お笑い」は「好きなジャンル」で63票(54%)を得ており、2番目に多いという結果となった。しかし、「自分でチケットを買っていくもの」では票数が少なく、“好きではあるがライブを観に行くまでではない”というような判断が下されていると考えられる。その一方で、「誰かに誘われて行くもの」では45票(39%)入っており、“1人では抵抗感があるものの、誰かと一緒ならば観に行っても構わない”と考えている者が多い可能性がある。
 それでは、ここから「お笑い」というものに絞ったアンケートの結果を述べていく。まずはじめに、“そもそも現代の大学生は「お笑い」というものに対してどれほどの興味を持っているのか”ということについて改めて調査した。
 まずは、「お笑いは好きですか?」という質問に対し、「はい」か「いいえ」の2択で答えてもらった(図2)。

図 2 お笑いは好きですか?

図 2 お笑いは好きですか?

 図2を見ると、お笑いが好きだと答えた人数は103人(88%)という結果となった。後に続く設問の都合で「どちらでもない」などの中間の答えを省いているため、それぞれがどの程度の好感度かまでは調査できていないものの、9割近くの大学生がお笑いを肯定的に捉えていることがわかった。
 続けて図2の質問で「はい」と答えた103人に対し「お笑いを好きになったきっかけ」を尋ねた(図3)。

図 3 お笑いを好きになったきっかけは何ですか?

図 3 お笑いを好きになったきっかけは何ですか?

 図3を見ると、「テレビ」と答えた者は103人中80人(78%)おり、もっとも得票数が多いことがわかる。「動画サイト」や「SNS」などのインターネットを介した情報源も上位には存在していたが、現代の大学生にとっても未だにテレビは大きな情報源のようだ。
 では、現代の大学生はどれほどテレビを普段見ているのだろうか(図4)。また、普段お笑いを見る機会はどの程度あるのだろうか(図5)。117人全体に向けて質問をした結果を述べていく。

図 4 普段テレビを見ますか?

図 4 普段テレビを見ますか?

図 5 普段お笑いを見ますか?

図 5 普段お笑いを見ますか?

 図4を見ると、「普段テレビを見ますか?」という質問に対して「はい」と答えた者は86人(74%)であり、図5を見ると、「普段お笑いを見ますか?」という質問に対して「はい」と答えた者は75人(64%)だったことがわかる。
 娯楽がSNSやYouTubeに世代交代していると言われて久しい昨今だが、図3の結果と合わせて未だに一定数はテレビを視聴していることがわかった。しかし、図2でお笑いが好きであると回答した者は9割程度いたにも関わらず、図5を見る限り普段お笑いに触れている者は6割程度に留まった。

 では、さらに「お笑い」というエンタメに関する質問を見ていく。
 まずは、現代の大学生はどの程度賞レースを視聴しているのかについて調査した結果を述べていく(図6)。ここでの賞レースとは、“賞金のかかったお笑いの大会”のことを指している。
 今回選択肢に採用したのは「M-1グランプリ」、「キングオブコント」、「R-1ぐらんぷり(現・R-1グランプリ)」、「THE W」、「ABCお笑いグランプリ」、「NHK新人お笑い大賞」の6つである。これらの他にも大小問わず数多くの賞レースが存在しているが、今回は地方地域での放送がなかったり動画サイト等での配信がなかったりするために北海道で視聴ができないと思われるものは省いた。なお、この設問の回答は複数回答を可としている。

図 6 見たことがある賞レースは?

図 6 見たことがある賞レースは?

 図6を見ると、「お笑いの賞レースを見たことはない」と回答したのは117人中17人(14.5%)であったことがわかる。一方、見たことのある賞レースとしてもっとも票数が多かったのは「M-1グランプリ」であり、回答したのは94人(80.3%)と8割もの学生が視聴した経験があることがわかった。続いてコントの大会である「キングオブコント」が70人(59.8%)、ピン芸人の大会である「R-1ぐらんぷり(現・R-1グランプリ)」が50人(42.7%)存在している。
 また、関西圏の賞レースであり、あまり北海道には縁のない「ABCお笑いグランプリ」や芸歴10年未満の芸人を対象にしていることもあって予選の参加数が少なく(2020年度大会のエントリー数は東京・大阪合わせて272組(42))、他の賞レースよりもあまり知名度のない「NHK新人お笑い大賞」に関しても視聴経験のある学生の存在が確認できた。

(42) お笑いナタリー「『NHK新人お笑い大賞』本選にカベポスター、フタリシズカ、吉住、令和ロマンら8組」、2020年10月12日、https://natalie.mu/owarai/news/400212(2020年11月28日閲覧)。

4.2 お笑いライブへの興味

 上記までのアンケートで、現代の大学生は「お笑い」そのものへのライトな興味だけではなく、少々深掘りした賞レースなどの大会にまで関心があるということがわかった。
 では、「お笑いライブ」への興味はどのようなものとなっているのだろうか。録画や見逃し配信を駆使すれば自由なタイミングで見ることのできるテレビ番組などとは打って変わって、ライブは実際に劇場まで出向く必要性があり、場所や時間などの拘束力が発生してくる。なによりも札幌のお笑い界はライブシーンでの活動がメインであるため、必然的に本研究を行なっていく中での「お笑いライブ」の重要性は高くなる。
 そこでまずは、117人全体に対して「お笑いライブにはどれぐらいの頻度で行きますか?」という質問を行った結果を述べていく(図7)。選択肢は「年に1回程度」、「半年に1回程度」、「2~3ヶ月に1回程度」、「月に1回程度」、「月に2~3回程度」、「開催されるものほぼすべて」、「行ったことはない」の7つである。

図 7 お笑いライブにはどれぐらいの頻度で行きますか?

図 7 お笑いライブにはどれぐらいの頻度で行きますか?

 図7を見ると、もっとも多い回答は「行ったことはない」が90人(77%)と、全体の8割近くを占めていることがわかる。一方で、「月に2~3回程度」「開催されるものほぼすべて」にはひとつも票が入っていなかった。頻度の差はあっても「行ったことはない」を答えた者以外、つまり、お笑いライブに行くと答えた者は117人中27人しかいなかった。

 次は、ここでお笑いライブに行くと答えた27人に向けていくつかの質問をした。質問は「主として見に行く頻度が多いのはどちらの形態のお笑いライブですか?」、「どれぐらいの距離までお笑いライブを見に行きますか?」、「どのようなきっかけでお笑いライブに足を運ぶことが多いですか?」の3つである。
 まずは「主として見に行く頻度が多いのはどちらの形態のお笑いライブですか?」と質問した結果を述べていく(図8)。

図 8 主として見に行く頻度が多いのはどちらの形態のお笑いライブですか?

図 8 主として見に行く頻度が多いのはどちらの形態のお笑いライブですか?

 この質問では「劇場や小屋等で行われる有料でのお笑いライブ」と「学校祭や地域のイベント・お祭り、ショッピングセンター等での無料イベント」の2択から選択してもらった。これは、“有料”で行われるお笑いライブと“無料”で行われるお笑いライブのどちらに行くことが多いのかを調査することを目的としているためである。無料のお笑いライブであれば、そこまでお笑いに対して興味はなくとも気軽に足を運ぶことができる。一方、有料でのお笑いライブはお金がかかる分、お金を出してでもその芸人自体を観に行っても良いという考えを持っている必要がある。なお、「その他」として自由回答も設けていたが、今回は回答がなかった。
 図8を見ると、前者が17人(63%)、後者が10人(37%)であり、今回は無料ライブよりも有料ライブに見に行く者のほうが多いということがわかる。

 次は「どれぐらいの距離までお笑いライブを見に行きますか?」と質問をした結果を述べていく(図9)。ライブという形式が存在しているタイプのエンタメには「遠征」というものが付きものである。自分の好きなコンテンツを観に行くために自身の在住している場所から遠方に出向く必要が生じる場合があるのである。これには金や時間などのコストがかかるが、特に北海道のような離島の場合、他の地域よりもさらに多くのコストを要することになる。

図 9 どれぐらいの距離までお笑いライブを見に行きますか?

図 9 どれぐらいの距離までお笑いライブを見に行きますか?

 図9を見ると、「市内近郊」が18人(67%)ともっとも回答数が多いが、「北海道内」が5人(18%)、「道外」が4人(15%)となっており、遠方まで足を運ぶ者も存在していることがわかった。
 北海道は土地が広く、都市から離れれば離れるほど公共交通機関が整備されていない土地も存在してくる。そのため、札幌から出向くとしても容易にはいかないであろう。そもそも、札幌市外地で行われるお笑いライブというものはほぼ「営業」という側面が強い。東京から有名芸人を招致して行われる大規模ライブの地方公演なども存在しているものの、札幌で活動している芸人がどこかの地域で行われるイベントに営業として出向くというものが一般的である。ただし、旭川市(43)や函館市(44)では地元で活動する芸人も存在しており、独自のお笑いライブが開催されている様子もある。
 さらに、道外に行くとなると移動方法は飛行機等に絞られるためかなりのコストがかかる。そのため、北海道在住ながら道外にまでお笑いを観に行こうとする者は他の地域のお笑いファンよりも“コアなファン”という要素が強いと予想される。

(43) あさひかわ新聞「まちなかぶんか小屋でお笑いライブ 『第2回トライアンドエラー』」、2020年10月20日、http://www.asahikawa-np.com/digest/2020/10/021023848/(2020年12月5日閲覧)。
(44) 函館新聞「現役高校生お笑いコンビ「ダブルグッチー」がトークショー」、2020年1月14日、https://digital.hakoshin.jp/life/event/58048(2020年12月5日閲覧)。

 次は「どのようなきっかけでお笑いライブに足を運ぶことが多いですか?」と質問をした結果を述べていく(図10)。

図 10 どのようなきっかけでお笑いライブに足を運ぶことが多いですか?

図 10 どのようなきっかけでお笑いライブに足を運ぶことが多いですか?

 選択肢は「友人に誘われて」、「出演者に誘われて」、「SNSで情報を知って」、「自ら情報収集をして」、「偶然見かけて(飛び入り参加)」の4つである。なお、「その他」として自由回答も設けていたが、今回は回答がなかった。
 図10を見ると、もっとも多い回答は「友人に誘われて」の17人(63%)であることがわかる。これは、先述した図1のアンケート結果に通ずるものがある。あくまでも自主的にライブに出向いているわけではなく、第三者に誘われてついて行っている場合が多い傾向にあるようだ。一方、「SNSで情報を知って」は5人(19%)、「自ら情報収集をして」は2人(7%)であった。これらは割合を合算しても26%であり、自主的にライブを観に行くという者は誘われて観に行く者の半数程度に留まるという結果になった。
 ここで注目すべきなのは「偶然見かけて(飛び入り参加)」という者も2人(7%)存在したということである。お笑いライブは上演前に芸人本人が会場の周辺でチラシを配ったり直接チケットを売ったりして客引きをする場合がある。札幌ではあまり見かけられないものの、行うことでわずかでも結果に繋がる可能性が存在している。

 次は117人全体に対してライブに関する質問を行った結果を述べていく。実際にお笑いライブに行くとした場合、そのライブのチケット代としてどの程度の金額まで出せるかという内容である(図11)。ここでは、東京などで活動しており、テレビ等でも露出のある「人気芸人」と札幌のみで活動している「地方芸人」が出演しているライブの2つのシチュエーションに分けた。ここでは前者の回答を「人気芸人」、後者の回答「地方芸人」という名称を用いて述べていく。

図 11 お笑いライブに1回「最高」何円まで払えますか?

図 11 お笑いライブに1回「最高」何円まで払えますか?

 それぞれの結果を上位から3つ取り出して述べていく。図11を見ると、「人気芸人」では「~3,000円」が29票(25%)、「~5,000円」が22票(19%)、「0円」が19票(16%)となっており、「地元芸人」では「~2,000円」が32票(27%)、「~1,000円」が29票(25%)、「0円」が26票(22%)という結果になったことがわかる。
 「地元芸人」は「~1,000円」「~2,000円」の回答数が多く、「人気芸人」は「~2,000円」を超えて「~3,000円」、「~5,000円」のあたりが中心的な価格帯になっている。
 また、選択肢の中央価格を平均として考えて計算を行うと「人気芸人」は2,286.3円、「地元芸人」は1,117.5円が支払意思額となった。両者には1,168.8円と、およそ2倍ものの差があった。
 この結果の通り、全体的に「人気芸人」を観に行く場合のほうが高値まで出せるという認識が多いことがわかった。
 だが、ここで注目したいのは双方ともに「0円」という回答が3位に入っている点である。先述の通り、「地元芸人」では26票、「人気芸人」でも19票もの票数が入っている。つまり「誰が出るライブであろうがお金を掛けたくはない」と考えている者も一定数存在しているようだ。

 では、どのようなお笑いライブであれば行きたいと思えるのだろうか。117人全員に対して質問を行った結果を述べていく(図12)。

図 12 どのようなお笑いライブであれば行きたいと思いますか?

図 12 どのようなお笑いライブであれば行きたいと思いますか?

 図12を見ると、回答としてもっとも多かったのは51票(44%)の「有名なゲストが来ている」であることがわかる。図11のアンケート結果でもわかった通り、“わざわざ足を運ぶ”というコストに見合うものを見たいと考える者が多いのだろう。次点は、36票(30%)の「一緒に行ってくれる友人・仲間がいる」であった。図1や図10のアンケート結果からも伺えるように、やはり1人でライブに出向くというのには抵抗感があるのだろう。
 自由回答である「その他」の回答としては「ライブに行きたいくらい興味がでたら」「自分の好きな芸人が出ている」などがあった。

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