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裏山のタイムカプセル(indigo藍さん)

年中か年長のころ 私は田舎に住んでいた 村という言葉でみんなが連想するイメージそのままというような場所で、 妹と一緒に良く走り回っていた

そのころ、近所に潰れた呉服店が解体されて、 その瓦礫が積み上げられたままになっている場所があった。 そんな場所があれば村の子供たちの格好の遊び場になる。 だけどその呉服店跡は、もう一つ子供たちを魅了する理由があった。 それは、「おもちゃ」だ。 瓦礫の中には数々のおもちゃが埋まっていて、 それはそのまま放置されていた。 まだ未開封のおもちゃの山に、村の子供たちは俄かに色めき立った。

我先にと瓦礫の山に向かい、各々お気に入りのおもちゃを見つけると持ち帰って自分の宝物にしていた。 私もその一人になった日の話。

妹の手を引き、瓦礫の中からおもちゃを見つけ出し、 満ち足りた表情で家路を急ぐ。 嬉しい!!

しかしその気持ちは長くは続かなかった。 誰かに何かを言われたわけじゃない。 とがめられたわけでもない。 ただ、勝手に拾ったおもちゃを持ち帰ったという罪悪感は、 家までの距離と反比例して大きくなった。 そして、家の玄関を入るころ、罪悪感は頂点に達した。 せっかく手に入れたそのおもちゃは、 箱から取り出される事もなく、ゲームボーイが入っていた袋に仕舞われた。 それでも、毎日、毎日、罪悪感は大きくなっていく。

ある日私は、ゲームボーイの袋からおもちゃを取り出し、 それをおせんべいが入っていた缶の中にしまった。 そして、その缶を山に埋めた。 山の中に穴を掘り、四角いおせんべいの缶を埋める。 土をかけ、おせんべいの缶が見えなくなるにつれて心が軽くなった。

この罪悪感がなんだったのか。 物を拾って持ち帰ったという罪悪感なのか、 親に知られたら怒られるという恐怖なのか、

それは今となっては良くわからない。 だけど、瓦礫の中のおもちゃも、 山に埋められるおせんべい缶も、 その光景は今でも忘れる事が出来ず、 心の中に留まっている。 季節は春。まだ夏には程遠い曖昧な季節。

いつか、今よりももっと先、 あのおせんべい缶を掘り返す事が出来たら、 そして、あのおもちゃを呉服屋に返す事が出来たら、 私の心に本当の夏がやってくるような気がする。

※このエピソードは、インタビューを元に加筆修正を加えたものになります。

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