公認心理師制度におけるモラルハザード(5)なぜ、モラルなのか?ーカルト化現象とカウンセラーに通じるもの
これまで、公認心理師制度が様々なモラルハザードを起こしている現実を述べて来ました。これらの現象は、原則、制度不備によって引き起こされています。(1)(2)で述べた有資格者も法律違反をしているわけではありません。公認心理師制度が規定するのは、試験に合格、登録していない者が公認心理師を名乗ってはいけない、ただそれだけです。
それでも、心理職、カウンセラーなどが性的搾取をしたことが発覚すれば、流石に世間から批判されますし、場合によっては刑法に問われます。しかし、逆に言えば、そこまでしなければ問題はないのでしょうか?そこに、モラルを問う視点があります。
私はライフワークとしてカルト問題を扱っています。カルトはオウム真理教のような殺人行為に至る現象まで引き起こしますが、では、殺人行為がなければ、それでよいのでしょうか?これが、公認心理師は刑法に至る問題を起こしさえしなければよいのか、という視点と直接関わって来ます。
つまり、心理職においてもカルト問題においても、彼らが人と関わる以上、それが刑法上の問題を起こしさえしなければ許容されるのか?というのが私の立脚点です。
これまで述べたように、カウンセラーになりたいという欲はメシア願望に彩られています。だからこそ、これを修正してから専門職として臨む必要があると説明してきました。カルト化現象も同様に、人を救いたい気持ちから始まるものです。カルト化現象は宗教はもちろん、自己啓発セミナーや心理療法の類にも、よく見られるものです。マルチ商法も自己啓発の発想に根差していますし、陰謀論も情報戦に飲み込まれる愚民を救ってやらなければならないという発想に基づきます。誰かを救いたいとか助けたいという気持ち自体は非難されるものではありませんが、その怪しさに気付かず暴走すれば、カルト化現象に程近くなっていくのです。
カルト性の高い集団に巻き込まれた個人は、必ずしも自分が搾取されていることに気付けるわけではありません。搾取された個人は苦しみながらも、自分を鼓舞して、指導者の言い分を聞き入れるように努力します。そして、子世代にまでも、それを要求するのです。世代を超えての搾取が、いわゆる二世問題です。搾取に気付けなければ、負の連鎖はどこまでも続きます。
同様に、モラルを欠いた公認心理師やカウンセラーに関わり、搾取されても、個人は必ずしも、それに気付けるわけではありません。苦しいと思いながらも、その先に希望を持ち続け、搾取され続けるリスクを孕みます。それが仮に、最終的に性的搾取という結果を生んでも、そこに至るまでの道程は長く、気付いたときには大きな害を被ることになります。
つまり、こういった「人を信じることで生じる搾取」は簡単には気付けず、発覚もしにくいのです。最初から殴りかかって来る人間には、誰も近寄らないでしょう。しかし、カルトもモラルに欠けたカウンセラーも、親切そうに優し気にあなたに近づいて来ます。かりそめの心地よさも提供してくれるでしょう。そのとき、あなたはその罠に気付けるでしょうか?自己愛に絡め取られた搾取者は、自分の欲望に気づかず、博愛的にあなたに語り掛けます。そのかりそめの蜜月関係は、それなりの期間、持続するかもしれません。ずっと後になって気付いたときには、その道程がすべて搾取だったとわかるのですが、自己愛に絡め取られた搾取者自身は、そんな他害性にも気づけないのです。
そして、あなたが仮に搾取されたと気付けても、それを告発するのにはもっと時間がかかります。自分が信じたのだから自分が悪かったのだと自責の念に苛まされたり、嫌悪に陥ったりします。また、相手に自分のことを全て曝け出してしまったからと恥の意識にさいなまされたりもし、個人が被害を訴え出るのは容易なことではありません。搾取される間も、それに気づいた後にも、相当な時間が必要で、その間、搾取された側はその苦痛のなかでうずくまるしかなくなるのです。
犯罪行為や刑法事案だけを禁止事項とするのではなく、モラルの時点で十分に感覚を研ぎ澄ませなければ専門職として成立しないと私が説くのは、そのような事情によるものです。訓練を受けても、メシア願望に彩られた個人が搾取を行うリスクはあります。実際、比較的有力な民間資格においても、倫理的な問題を起こして所属団体がペナルティを与えることがあります。しかし、それは相当な事案に対してのみです。我々心理職が職能上、求められる倫理はもっと細やかで、心理職自身が気付いているかいないかのレベルのものです。そういった基礎力がないと、己の欲望に飲み込まれて相手を搾取していることに気付けないからです。訓練すら受けていない公認心理師であれば、なおさらリスクが高まるのは言うまでもありません。
公認心理師制度が始まって4年。この間に、このような現象は起こっているでしょう。発覚しないことも多く水面下に潜んでいると思います。オウム真理教が宗教法人格を得てから地下鉄サリン事件が起こるまでに8年。その間、彼らはマスメディアを賑わすなど、人々に好意的にすら受け止められたのです。同様のことは公認心理師にも起こっているでしょう。しかし、それが発覚してからでは遅いのです。だから、最低限、修士課程で訓練を受けた人材から選ぶことが、ユーザーのあなたを守ることにつながるのです。