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私のおばあちゃんの戦争の記憶(後編)

挺身隊として中島飛行機太田製作所で働くことになった祖母の戦争体験談を、引き続きお伝えします。

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◾️お茶碗一杯のご飯とたくわんが二切れだけ。

―挺身隊では寝泊まりして働いていたのですか?

寮があってみんなそこに入りました。でも空襲が激しくなると疎開して、そこから工場に通うようになりました。

―工場で働いていて、食べ物がなくて苦しんだことは?

それはありました。おどんぶりにご飯がふわふわっと入って梅ぼしひとつとお汁。それが朝ごはん。お米だけでは足りないから大豆の煮たんも入る。お夕飯も似たようなもんよ。お昼は箱のお弁当。ご飯がふわふわっと一杯くらいに、たくわんが二切れ。血気盛んの子がよ、そういうご飯で済ましちゃうの。あとは何も食べるものがない。

私は家が近いといえば近いから、工場がお休みになると家に帰れることもあった。家には食料がたくさんあるしうれしかったですよ。

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―実家は戦争中も食べるものには困らなかった?

お百姓だからね、お米も小麦も野菜もお芋も採れて不自由はなかった。ある日家に帰ったら、母がお夕飯にご飯を煮てくれたわけ。そしたらそれは美味しくってね、いっくら食べてもお腹に入るのね。私がほとんど食べちゃったの。お母さんたまげたと思いますよ(笑)。なんてまー、お腹すかせてたんだろうって。でもね、お母さんは黙ってたね。心では泣いてたかもだけど、かわいそうだねって。いつでもあれを思い出しますよ。そして母はお焼きをいっぱい焼いてリュックにつめてくれました。お友達に分けてやったら喜んでねー。いい思い出もありますよ。好きな人もできましたしね。

◾️工場が休みの日は山でデート。

―戦争下の工場で働くなかで、恋愛する人は多かった?

恋愛しない人はいないですものね。みんないい方を見つけていましたよ。挺身隊の友達なんか子どもを身ごもっちゃって。終戦になってから結婚式を挙げて赤ちゃんを産みましたよ。

寮生活で夜10時までは門が開いてるから、それまでは遊んでこられるの。親も兄弟もいなくて誰も怒らないから、結構自由にね。日曜なんか山がね、みんなアベックでいっぱい(笑)。

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―同じようにデートを楽しんでいたのですか?

まあ、楽しくもないけれどたまにはね。若いんだから行ってみようかって言われれば、あとくっついて行くわよ。モテなきゃやけくそになるじゃない、女だから。

でも私は機械の設計にいた人をね、裏切ったの。佐賀出身で、スタイルもいいし優しい良い方だった。戦争が終わって家に帰ったら、間もなく彼から手紙が来たわけ。オレが太田へ行くから、来てもらいたいって。それ、行かなかった。なんでそんな悪いことをしたのかと思う。仕方ないわよね、気が向かなったのね。はるばる佐賀から来てね、どうやって帰っていったのかさ。その人の報いでね、自分が不幸になったと思ったこともある。もう亡くなったでしょう。縁がなかったのよね。

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◾️「ありがとうございました」くらい言ってほしかった。

―終戦は工場で知ったんですか?

そうです。それでみんな勝手に逃げて、私も夜中に歩いて家に向かったの。たまたまトラックに乗った親切な方が通りかかって、途中まで送ってもらいました。

―戦争が終わったと聞いてうれしかった?

うれしかったなんてもんじゃなかった。悔しくって悔しくって、涙が枯れるほど泣いたよ。負けちゃったんだから。挺身隊行って奉仕してたんだから、余計悔しいじゃない。戦争だけは嫌ですね。何は何でも戦争だけは嫌だわね。

おかしいもんでね。挺身隊に採るときは一生懸命になって来い来いで、戦争が終わったら勝手に逃げてけってそういう感じでした。戦争が終わったから挺身隊なんてどうでもいい。けじめやしまりがなかった。そういうおかしな最後だったのよ。ちゃんと集めて「挺身隊はこういうことをしてありがとうございました、ごくろうさまでした」くらい言ってほしかった。

まぁ、負けちゃったんだから仕方ないのよね。何言ったって始まらない。


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©️Yurie Nagashima

終戦後まもなく、祖母は結婚し自分の家庭を持つことになります。「農作業は一切しない」という約束のうえでの結婚でしたが、会社勤めをする夫に代わり、毎日農作業をしたそうです。

「ある日自分の手を見たらね、あんなに娘時代はきれいだきれいだと褒められていたのに汚なくって。ほんとに泣けてきたよ」と私に言ったことがあります。写真家の長島さんにその話はしていませんが、祖母の手を見事に残してくれました。

こんなにきれいな手は見たことがありません。


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