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【俳句&日記】トラムさえ聖樹の飾りまみれなり【ドイツ生活】

Glühweinグリューヴァインを手に手に卓を囲みたり

ドイツの冬の代名詞、クリスマスマーケット。わたしの住む街では、市庁舎前広場を中心に開催されました。広場には、背中合わせで建てられた一対の屋台の列が4、5列並んでいたでしょうか。屋台と訪問客が広場一帯を埋め尽くすさまは壮観です。12月中はいつ行っても大変賑わっており、スパイスたっぷりの温かいワイン「グリューワイン」(独:Glühwein)が入ったマグや耐熱グラスを持って、そこここに設置された小ぶりのテーブルスタンドに集まる人の輪がたくさんできていました。マグから立ち上る湯気に当てられて、皆上機嫌に見えました。
在住市以外にも今年は3箇所のマーケットに行くことができました(ニュルンベルク、フュルト、レーゲンスブルク)。

ニュルンベルクのクリスマスマーケットにて
ニュルンベルク近郊のフュルトのマーケットにて

聖夜劇見上げる顔の頬ゆるし

在住市のクリスマスマーケットを訪れた中で最も混雑していたのは、マーケットが開始してから2回目か3回目の土曜日の夜18時頃のこと。市庁舎前にたくさんの人が陣取り、スマートフォンを市庁舎の高窓に向けていました。どうもクリスマス前の土曜日数回は、市庁舎の窓を利用した天使劇を行うようで、それを見たり撮ったりしたい人が詰めかけるようなのです。18時が近づくにつれて市庁舎前だけでなく、屋台と屋台の間の通路まで、広場は身動きが取れないほど人でいっぱいになっていきました。18時を迎えると、教会の鐘が鳴り渡り、続けざまにトランペットのような金管楽器の音色が聞こえてきました。わたしはよく見ることができなかったのですが、おそらくその時市庁舎の窓も開き、劇が始まったのでしょう。周りに背の高い男性が多く、また人がいっぱいすぎて容易に動き回ることもできなかったので、わたしからよく見えたのは窓を見上げる人々の横顔でした。それらの横顔は、多くがうっすらと微笑んでいて、周囲の人に心乱されることなく視線をまっすぐ劇へと注いで動かず、目はマーケットを夜でも照らす強い電灯の光を受けてきらめいていました。

この時、「みんなで一つの美しい音楽を聞き、みんなで一つの美しいものを見つめる瞬間は、とても平和で幸せで尊いな」と感じました。
実はこの数日前に、このマーケットを狙った自動車暴走テロを計画していた男性が逮捕されています。それもあって、マーケットの周りには以前よりも数を増し雰囲気も物々しい警察車両・警察官が多く配備されていました。正直、この劇を見ている間にも「もし今テロがあったら」という警戒が心の隅から消えることはありませんでした。だからこそ、無防備にただ美しい経験を、こんなにも多くの人と一緒にできていることが、とてもありがたく感じました。そして、このような瞬間を増やしていくことこそが、個人にとっても、社会にとっても良い未来に繋がるのではないかと思いました。

市庁舎を見上げる人。全然良い写真が撮れなかった…

トラムさえ聖樹の飾りまみれなり

ドイツ社会にとってクリスマスは1年で最も大事な行事と言えるでしょう。雑貨屋はおろかスーパーやドラッグストア、日用品店、本屋など、あらゆる商店が内装から扱い商品までクリスマス仕様となり、クリスマスマーケットは上記の広場に留まらず多くの路地に屋台が点在する形で街の広範なエリアで開催され、オーナメントが通りや家を飾ります。街を挙げてクリスマスに臨む雰囲気は、格別なものがあります。
わたしが特に驚いたのは、街の公共交通機関までもがしっかりクリスマスに染まること。クリスマスも近いある日トラム(路面電車)に乗り込んだところ、なんと車内は陽気なクリスマス音楽がガンガン鳴っており、手すりや支柱はもみの木の枝葉を模した飾りで装飾されていました。普段、トラム内で音楽や広告が鳴ることは一切ありません。ただ次の停留所を読み上げる録音アナウンスが流れるだけです。喋る乗客もいない曇りの日の静かな車内など、絶妙に陰鬱な空気が車両を満たしています。それとは打って変わってなんとも浮かれたご陽気な様子に、一緒に乗り込んだ夫と顔を見合わせました。
びっくりしたものの、わたしはそのトラムがとても気に入りました。他の乗客の顔色も、心なしか普段より明るく、トラムの乗車体験を楽しんでいるように見えました。
「いつもこれくらいゴキゲンなら良いのに。一年中、こういう雰囲気でも良いんじゃないの?」と一瞬思いましたが、すぐに考え直しました。一年のうち限られたクリスマス期間だからこそ、皆が待ち望んで、これくらいはしゃぐし、頑張るのだろうと思います。

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