くもの糸
私が初めて芥川龍之介の『蜘蛛の糸』に触れたのは、小さい頃に放送されていたNHKの『こどもにんぎょう劇場』という番組でした。
その人形の表情や場面の表現が生々しく強烈なインパクトがあり、
地獄というものの悍ましさがリアルでとても怖かったです。
「小さい虫の命も大切にすれば助けてもらえるのかな。自分が助かるために下の人を落としたから自分も一緒に落ちたのかな。」という、因果応報を描いた寓話的な作品だと当時の私は感じていました(解釈は色々あると思います)。
ただ、大きくなって戦争の話などが耳に入るようになると
『蜘蛛の糸』の印象が変わるようになりました。
自分の命の危機に瀕したとき、自分が助かるために人を切り落とすという判断を絶対にしないと言い切れるだろうか。
命のかかった窮地に立ったら、誰しもカンダタと同じように足手まとい誰かを蹴落とす可能性はゼロではありません。
そう思うと『蜘蛛の糸』は寓話などではなく、
戦争や震災など現実に起こりうる地獄なのかもしれないと思うのです。
夏の太陽のジリジリとした暑さが地獄の業火を白昼夢のように見せるので、
その度に『蜘蛛の糸』を思い出します。
秋に物悲しくなるように、夏は夏で思うことがあるものです。